Image by: Photo: Lowri Cooper
クリエイティブカルチャーを紹介する新フォーマットのファッションウィークを掲げて、6月7日から3日間、ロンドン・ファッションウィーク(LFW)・ジュンが開催された。メンズに焦点を当て、40周年を記念して40のイベントが組み込まれた。
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新フォーマットって何? 大半のロンドンメンズデザイナーはミラノやパリで25年春夏のショーを見せたけれどロンドンでショーをしたブランドもあるの? 日本からの来場者は? そもそも見る価値は?
18歳にしてLFW取材歴3年のZ世代リポーターのレオンと共に、3日間のイベントを振り返ってみた。
若月:最近のSNSの台頭やセレブマーケティングによって本来のあり方に変化が見られているとはいえ、ファッションウィークは次シーズンの新作ショーをジャーナリストやバイヤーに向けて発表するイベント。今回のLFWはそこから脱して独自の形での開催に踏み切った。
そもそもロンドンメンズの歴史は浅い。1984年のLFW発足当時からずっとメンズブランドはウィメンズの時期に見せたり、パリやミラノのメンズコレクションに参加していた。そうしたところ15年ぐらい前から若手メンズデザイナーが台頭し、ウィメンズの最終日にメンズデーを設けるようになった。それが発展して2012年6月から1月と6月にミラノやパリに先駆けメンズのLFWが開催されるようになった。
一時は「バーバリー」や「アレキサンダー・マックイーン」、「J Wアンダーソン」のような有力ブランドも参加していたけれど、コロナ禍を待たずしてパワーダウンし、コロナでノックアウト。1月の開催はなくなり、同時に2月、6月、9月の全LFWが、男女一緒に見せるジェンダーレスの開催という形におさまった。
レオン:昔は1月もやっていたんだ。
若月:そう、レオンが見るようになった2021年にはすでにジェンダーレスになっていたけれど、その前はメンズとウィメンズに分かれ年4回開催していた。で、最近は6月のLFWがどんどん縮小し、1月同様に無くなるのではないかと思われていたのだけれど、新フォーマットという形で継続されることになった。
レオン:6月のLFWは2月や9月と違ってゆったりとしたスケジュールで、気候もよくピースフル。とても好きなシーズン。で、新フォーマットって具体的には?
若月:確かに今回ガラリと変わったというわけでなく、徐々に今のような形になったので継続して見ているとこれまでと大差ないように思える。主催者が「従来のファッションウィークではなくロンドンのクリエイティブカルチャーをセレブレートするイベントです」って宣言したってことかな。世界的なメンズシーズンに合わせ、改めてメンズにフォーカスしたのも昨年と違うところ。
具体的な新しい試みは、毎年特定のクリエイティブカルチャーを選出し、それを紹介するイベントを組み込むこと。今回は「ブラック」「南アジア」「クィア」の3つで、ロンドンにおけるその現在地を展覧会やパネルディスカッションで紹介した。会場はICA(インスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アーツ)。
若月:加えて、サヴィル・ロウの通りをあげてのショーケースイベントや若手の合同展示会もあった。連日さまざまな食事会やパーティーも行われた。
レオン:インターナショナルなイベントではなく、ロンドンのファッションコミュニティーの内輪のイベントって感じかな。そんなこともあって、来場者は若い人が多かった。ショーは3つだけだったけれど、客席には今まで見たことがない業界歴の浅いこれからの人たちが集まっていた。
若月:2月や9月のLFWですら最近は海外からの来場者も減って、「まるでインディーイベントだ」なんてネガティブな声も聞かれるけれど、今回はまさに村祭り。日本の媒体関係者も私たち入れて5本の指に収まる数だった。でも、新しい出会いがあったり、何年ぶりかに再開した人もいたり、コミュニティーが重視されている今、これはこれでいいのかなと思えるハッピーなシーズンだった。
レオン:ロンドンは常にアップ&ダウンがある場所だからアップするためにダウンもあっていい。小さいファッションウィークは期待値が低いだけに新しいものが生まれる余地がある。それにしても、今回ショー映像を公開したのは「チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ」だけ。今はみんな、ライブストリーミングやYouTubeでショーを見る時代なのに、それではますますその場の人だけのお祭りになってしまう。
若月:今回公式ショースケジュールでショーをしたのはチャールズと「カシミ」「デンジルパトリック」の3ブランド。実際にはイベント枠やオフスケジュールでショーをしたブランドもいくつかあった。
レオン:3ブランドともとても良かったと思う。チャールズはスタジオもあるサマーセットハウスの中庭で大きなショーをした。10周年記念ということで、これまでの作品へのオマージュもありながらも、若手のコレクションというよりぐっと大人の服になった感じがした。おとぎ話のラブストーリーのようなイメージ。シャツをベースに再構築した服にはじまって、胸に弓矢が刺さっていたり、バナナの皮が剥けたような靴があったり。その後ミリタリーに移る。ストーリーがありながら1つ1つのルックがしっかりしていた。正面の建物のバルコニーで大きな帽子を被った人たちが演奏したりしている様子はお城のようだった。
若月:チャールズはセールスエージェントのトゥモローの傘下に入って、ショーや映像などにもお金がかけられる。ショーの後にはサマーセットハウスの中で前日から始まった10周年記念の展覧会も見た。
レオン:あの展覧会は無料?
若月:そう。小さな展覧会だけれどチャールズの世界がギュッと詰まっていて見応えがある。9月1日までの開催だから機会があればみんなに見てほしい。
レオン:カシミもデンジルパトリックも良かった。3ブランドとも全く違うタイプのブランドだけれど、みんな清涼感があって心地の良いコレクションだった。
若月:カシミは19年7月に亡くなった創業デザイナーのハリド・アル・カシミの後を継いだ双子のフール・アル・カシミによる初めてのショーだったそう。20年1月のショーのフィナーレにフールが登場したのを覚えているのであれが最初かと思っていたのだけれど、確かにあの時のショークレジットではクリエイティブディレクターはハリドになっていて、ハリドのコレクションをフールが仕上げたということだった。
レオン:デンジルパトリックもいいショーだった。これまでパリでショーをしていたけれど、今回はロンドンをモチーフにしたプリント柄なども出して、ロンドンをセレブレートしているようだった。
若月:デンジルパトリックは若手にしては完成度が高かった。ショーの2日後に合同展示会でデザイナーのダニエルとジェームスに話を聞いたら、ブランドとしてはまだ新しいけれど、業界では15年ぐらいのキャリアがあるって強調していた。翌日にはピッティ・イマージネ・ウオモ、そのあとはパリの展示会で見せるって言っていた。
レオン:彼らのコレクションの75パーセントが日本製の生地だというのには驚いた。円安で以前より買いやすくなったんだよね。
若月:リサクルポリエステルなどサステイナブルな日本製の素材を使っていた。同じく合同展に参加していた「デリック」も50パーセントが日本製だそう。昨今の円安で日本の小売店はロンドンブランドの服を買い付けるのが難しく、日本と英国の距離がどんどん離れていく感じがしていたのだけれど、こんな形で服作りの面では近付いている。それは今回のLFWで一番印象的なことだった。
レオン:3ブランドのショーに加えて、「ハリ」がプレゼンテーションで公式スケジュール入りしていたけれど、これはショーというよりパフォーマンスだった。
若月:会場は英国王立アカデミーのコンファレンスルーム。会場に入ると階段上に設置された客席に囲まれたステージいっぱいに白い物体が置かれていた。速報でマスイユウが「小籠包のような巨大なラテックスの立体物」と書いていたけれど、上手い表現だと思う。その小籠包はスカートで、スイスのシンガー、モネがその中にすっぽりと入ってドレスを完成させ、歌を披露するというパフォーマンス。
レオン:ハリも合同展に参加していた。
若月:並んでいたのは商品というより個人オーダーのサンプルで、まだ量産体制は整っていないそう。
若月:イベントではマハリシの30周年記念パーティーが個人的にも思い入れがあって楽しかった。ワードローブの中から1999年に買ったカラフルなドラゴンの刺繍が入ったカーキのロングドレスを着て行ったら、創業デザイナーのハーディが「僕のアーカイブにもこの服ない。素晴らしい。写真撮らせて」って喜んでくれた。会場では、メンズブランド「6876」のデザイナー、ケネスにも20年以上ぶりに再会した。彼は自身のブランドを始める前にダッファー・オブ・セントジョージで働いていて、マハリシを最初に買い付けたバイヤーだそう。
レオン:マハリシでは中央のテーブルの上に服を着たフィギュアがずらりと並んだ細長いポスターがあって、欲しそうにしていたらくれた。20年ぐらい前のものらしけれどとても綺麗。このイベントなども、コミュニティーって感じで今シーズンならでは。忙しいシーズンだと、なかなかゆっくり回れない。
若月:LFWのイベントというわけではないけれど、みんなが話題にして立ち寄っていたのが、「マルケス・アルメイダ」と「ステファン・クック」のサンプルセール。ステファンの方は次のショー会場と目と鼻の先ということもあって、みんなで行って、みんなで買った。1時間ぐらいいたかも。
レオン:会場にはデザイナーのステファンとジェイクもいて、犬がうろうろしていたり、いい雰囲気だった。そして、僕は今回若手デザイナーたちになぜショー映像を公開しないのか聞きたいと思っていたので、2人にも聞いた。前回のショーは映像撮ったけれど気に入らなかったから公開しなかったそう。
若月:展示会場でデンジルパトリックとデリックにも聞いていたよね。
レオン:デンジルパトリックはやりたいけれど準備していなかったそう。今回はとにかくフィジカルでしっかり見てもらいたいと。デリックは2月のショーで協会にショー映像を使いたいと問い合わせたら、何千ポンドかの金額を支払わなければならなかったので諦めたそう。映像って大切だと思うので残念。特に僕たちZ世代は映像から入っていく。
若月:でもその一方でフィジカルなものへの興味も復活しているよね。レコードやフィルムカメラが再び注目されているように。
レオン:その流れで、従来のファッション雑誌には興味がないけれど、コレクティブルな小冊子などは欲しい。ブランドがアーティスティックなルックブックを10ポンド(=2000円)で売ったら買うと思う。オンラインで見るショー写真はその場限りだけれど、フィジカルなものはずっと残るから。
若月:合同展示会は最終日1日だけだったけれど良かったよね。昔LFWは公式ショー会場と展示会場が隣接していて、ショーで見た服をデザイナー自身に説明してもらっていた頃を思い出した。その後、展示会場は無くなって、パリで若手の合同展「ロンドン・ショールームズ」が開かれるようになったのだけれど、2年前にそれも終了。そうしたところ今回の初日に協会の担当者から、9月に再会するニュースを聞いた。BFCファンデーションがスポンサーとなり17ブランドを予定しているそう。
レオン:そんな風に様々な情報もゲットできた。
若月:それにしても、私的に今回の1番の発見は最終日最後の「ラウラ・アンドラーシコ」のプレセンテーションの地面だった。メンズではなくウィメンズで、プレゼンといっても2時間モデルが着替えて広い会場を歩くショーのようなもの。
インビテーションに記された会場は西ロンドンにある男子専用刑務所内の馬小屋。行く前から興味津々だったのだけれど、ベンチシートが置かれた体育館のような広い馬小屋を見た時には「こんなところでショーやったら靴が泥まみれになる」と驚いた。
でも、中に入って歩いても全然汚れない。シートに座ってよく見ると、土かと思っていた地面はリサイクルファブリックだった。人間が歩いて土と全く変わらないのだから、馬にとっても同じなのだと思う。日本でもこうした素材が使われているのかネットで調べてみたけれどわからなかった。すでにこれが常識だったら無知を曝け出しているようで恥ずかしい。
レオン:ラウラはコレクションも良かった。タイトルは「スローン・レンジャー」で、乗馬を嗜むような上流階級のお嬢様スタイルを今の時代の若者の服に落とし込んでいた。裾が浮き輪のようになったニットのスカートなどデザインも面白かった。
若月:とてもいいショーで、会場の外には馬がいたりして、これでLFW終了というのは気持ちよかった。それにしてもあの場所は遠すぎ。西のはずれで2つの最寄駅どちらからも徒歩20分かかる。まあ今回は散歩がてら行けたけれど、9月のLFWだったら冗談じゃない。
レオン:今回のLFWは全体的にとても良かった。ショーの数は少なかったけれど皆クオリティが高く、新作発表だけでなくセレブレーション的な要素とともに存在感があった。イベントも充実していた。ただ、今1つ掴みどころがない感じがした。
若月:たくさんイベントやパーティーをやっていたけれど、招待客だけで盛り上がっていた感は否めない。展覧会やトークショーは一般公開していたけれど、告知が十分されていなかったので内輪のイベントに終わってしまっていたように思う。内容的によかっただけに残念。
レオン:チャールズのショーがあったのでLFW全体がぐっとスペシャルなものになった。正直、あのショーがなかったら厳しかったと思う。
若月:確かに。わざわざ日本から来る必要があるかと聞かれれば首を傾げるけれど、ロンドンにいるのなら見る価値ありという感じかな。
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