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ステマ規制で初処分、値引きを条件にグーグルマップの口コミ高評価を依頼

ステマ規制で初処分、値引きを条件にグーグルマップの口コミ高評価を依頼

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  消費者庁は、ステルスマーケティングによるくちコミの高評価を対象に、景品表示法に基づく措置命令を下した。昨年10月の告示施行後、ステマ規制を対象にした処分は初めて。”くちコミ”が消費者の商品・サービスの選択に与える影響が高まる中、規制と「言論の自由」の狭間で、私権制限の圧力は強まっている。

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グーグルマップで高評価

 6月6日、医療法人社団祐真会(=ゆうまかい)にステマ規制を適用した。複数の診療科を持つ開業医で、年間売上高は8~9億円とみられる(民間信用調査機関調べ)。

 違反表示は、「Googleマップ」(グーグルマップ)におけるクリニックの評点。インフルエンザ接種の来院者に対し、グーグルマップのくちコミ投稿で、「星4~5(5点満点)」をつけることを条件に、費用を割り引いていた。違反認定された投稿は、昨年12月8日以降、45件あった。

 ステマ規制は、表示の優良性・有利性を問わず、「広告を隠す行為」自体を規制する。種類は、事業者自ら第三者を装う「なりすまし」と、事業者が第三者を通じて表示させる「利益提供秘匿型」に分かれる。今回の処分は、後者。「第三者による自主的な意思の有無」、「対価性」、「広告の明示の有無」等が判断基準になるが、広告の明示はなかった。

 祐真会に取材を依頼したが、電話の自動応答で本紙掲載までに連絡はなかった。サイトで、処分の告知も行われていない。

医療サービスに景表法を適用

 注目されたステマ規制の処分だが、関係者からは「ステマ第1号としては、あまりに小粒」(業界関係者)といった声もある。開業医で、広告が及ぼす範囲も周辺エリアと限定的。国民生活センターが運用する相談情報の集約システムである「PIO―NET」に寄せられた相談件数も、「処分内容に該当する相談は、昨年10月に寄せられた1件」(苦情・問い合わせの分類は非公表)という。

 消費者庁は、告示施行以降、ステマ規制で2件の指導を行っている。ただ、指導内容は「公表以外のことは言えない」(表示対策課)と、今回の処分と比較できない。

 グーグルマップをめぐっては今年4月、医療機関の”悪評”のくちコミを対象に、医師ら約60人が集団訴訟を起こしている。原告団代表は、日本医師会や国会議員に窮状を訴えたが取り合ってもらえず、問題解決に至らないことから提訴を決めたとしている。

消費者庁の現大臣は、医師会の横倉義武会長の”秘蔵っ子”とされ、自らも医師である自見はなこ議員(1945号既報)。処分対象の医療機関や医師は、本来、医療法や医師法により厳しく規制される。このため、「景表法で医療機関、医療サービスを対象にした処分は珍しい」(公取委OB)とされるが、提供価格に制約のある保健診療ではなく、価格設定が自由な自由診療であったことからもくちコミが効果的で、景表法でも扱いやすい。景表法調査の期間が一般的に「早くて半年から1年」(消費者庁OB)とされる中、国センへの情報提供とタイミングも重なる。

 景表法の運用では、「新たな規制を導入した時は使うのが通例」(同)とされるが、ステマ規制はその動向が注目されながら、前年度の処分は0件。「同業内の関係性が強く、自らの評判に影響する医療界では、身勝手なふるまいもできない」(業界関係者)、「集団訴訟の提起など社会的影響が大きかったこともあり、試し切りしたのではないか」(厚生労働省OB)との見方もある。

医療広告の抜け道になる「くちコミ」

 処分には、医療界における”くちコミ”の影響力の強さもあるとみられる。

 医療機関の広告は、医療法に基づく医療広告ガイドラインで広告に厳しい制約を受ける。施術やワクチン接種など医療サービスは、基本的に医療機関による差がないことを前提に提供されている。このため、事業者間の競争が生じにくい。

 ガイドラインは、「誘引性(患者の受診を誘引する意図)」、「特定性(委員の名称等)」で広告該当性を判断するが、「新聞・雑誌記事」、「学術論文・発表」等と並び、謝礼等を伴わない「患者が自ら掲載する体験談・手記等」は、広告とみなさない。”くちコミ”など、差別化要因となる要素は、「患者によいくちコミをさせれば医療広告ガイドラインに抵触するが、ステマであれば、集客効果など医療広告の抜け道になる」(厚労省OB)とし、来院増の有効な手段になりうる。

 祐真会が所在する大田区保健所は、医療法上の対応に、「個別案件に回答できない」としつつ、「一般論としてガイドラインに抵触する行為が確認できれば医療法に基づく指導を行う」(生活衛生課)とする。

相談なくても規制導入の結果

 今回、消費者庁が処分で認定したのは、「投稿内容」ではなく「評点(星5つ)」。「個人の特定の懸念があるため、投稿内容、ユーザーアカウントは公表していない。特定する報道も避けてほしい」(表示対策課)としている。そのこと自体、規制の運用が私権制限を招く可能性があるものであることを示唆するものとの見方もある。

 ステマ規制の検討では、ステマについて、「PIO―NET」に5年でわずか40件しか相談情報が寄せられていないことが明らかになった。規制導入の反対派はこれを理由に導入に慎重な姿勢を示したが、肯定派は、「ステマであることが分からないため、相談件数も少ない」と導入を進めた。処分に該当する相談は1件。運用には注意を払う必要がありそうだ。

医師らが集団訴訟、「グーグルマップ」への“悪評”投稿で

<“くちコミ”巡る規制動向>

 「グーグルマップ」のくちコミ投稿や評点を巡っては、医師63人が今年4月、グーグルの米国法人を対象に、東京地裁の損害賠償を求める訴訟を提起している。高評価を装うステルスマーケティングではなく、くちコミで”悪評”を投稿されたことを問題視した。

 グーグルマップは、くちコミや評点を投稿できる。ただ、施設名称や営業時間を含め、無関係な消費者も編集できる。事実と異なる内容もあるが、医療機関の場合、患者のくちコミ(体験談)を容認する「医療広告ガイドライン」の壁がある。

 削除には、医療機関自ら投稿者と話し合って削除を依頼するか、裁判所の削除命令に向けた裁判が必要になる。ただ、くちコミが個人攻撃に及ばないなど「論評」と判断されれば、名誉棄損等の認定にハードルがある。

 原告団は、患者の主観的な満足度と医療の適切性は必ずしも一致せず、「営業の自由」を侵害するくちコミを放置しているとして訴えている。

 原告団は、消費者問題に取り扱う日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会のメンバー、同情報IT部会長、消費者問題に詳しい紀藤正樹弁護士が在籍するリンク総合法律事務所の所属弁護士など、消費者系の弁護士が名を連ねる。損害賠償額は、計約144万円。

 グーグルは昨年、偽情報や中傷、個人攻撃を含む投稿約1億7000万件を削除したり、表示されないようにしたという。ただ、原告団によると、悪評の削除を依頼しても対応はわずかという。

 原告代表は、日本医師会や国会議員にも相談したが、「成功例はない」、「表現の自由の問題から時間がかかる」などと言われたという。グーグルは、削除要請の対応部署、責任者を置いていない(18年時点、総務省の有識者会議)として、裁判を通じて社会問題と認知されることで機能改善を求める。

 グーグルマップの投稿を対象にした景品表示法処分に、専門家は、「グーグルマップのくちコミが医療機関の選択に影響することを示すものではある」(染谷隆明弁護士)と話す。

 ただ、投稿に対する規制は、「表現の自由」と鋭く対立する。

 投稿に対する事業者の責任について、日本のプロバイダ責任制限法は、名称に”制限”と触れているように、開示請求に応じることで免責される。投稿削除の提訴は、「開示請求→投稿者に対する損害賠償等」のステップで対応する。

 米国は、通信品位法により規制する。ただ、「言論の自由」の保護を重視するため、第三者の投稿に対し、基本的に責任を負わない建付け。投稿の自由は守られ、問題のある投稿を削除することで免責される。日本のように名誉棄損の概念はない。

 グーグルに対する集団訴訟でも、投稿の悪質性は、原告側に立証責任がある。「よほど侮辱的なものや、客観的に虚偽でないと削除は難しく、”受付態度が悪い”など主観的な投稿が嘘であると立証できないと、問題とならない投稿も明確にするため諸刃の剣になりうる」(行政関係者)とみる。

 今年1月には、「食べログ」を運営するカカクコムが東京高裁で逆転勝訴した。焼肉店等の運営会社が、アルゴリズムの変更で評点が下がり、公正な競争を阻害したとして独占禁止法の「優越的地位の乱用」で訴えていた。高裁では、消費者との感覚のズレや不正なくちコミの巧妙化の是正に向けた適正な変更と評価された。

「広告」の表示で規制対象外<ステマ規制の概要>

 「事業者の表示」を隠すステルスマーケティング規制は昨年10月、景品表示法の告示が施行された。「事業者の表示」であることが明瞭でなければ処分対象になる。事業者の予見性を高めるため、運用基準も策定された。

 ステマには、「なりすまし」と、「利益提供秘匿型」がある。

 「なりすまし」は、表示を行った人が販促を行う立場であるなど「地位、立場、権限、担当業務、表示目的」で判断する。競合商品の誹謗中傷など「表示内容」も併せて評価する。

 「利益提供秘匿型」は、「第三者の意志」が評価を左右する。第三者との「具体的なやり取りの内容」、「対価の内容」、「提供理由(宣伝目的等)」「両者の関係性」から、事業者による関与を評価。明示的な依頼がなくても表示内容を決定できる程度の関係性があれば「事業者の表示」になる。ただ、「第三者の自主的な意思」による表示であれば規制対象にならない。日本に根付く贈答文化など、あらゆる物品等の提供が”対価”と取られないようにした。

 個別事案のステマ評価の裁量は消費者庁にあるが、運用基準は、自由な広告・表現活動が担保されるようにしている。

 規制の対象外は、「広告・宣伝・PR」、「A社の商品提供を受けた投稿」など、広告であることが明瞭なもの。また、CMなど広告と番組が切り離されていたり、事業者のサイトやSNSアカウント、社会的な立場・職業等から事業者の依頼を受けて表示を行うことが社会通念上明らかなものなど、広告であることが「明瞭、もしくは社会通念上明らかなもの」になる。

 ステマ規制は、告示であるため課徴金命令の対象にならない。命令に従わない場合は、懲役や罰金の可能性ある。

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