EC事業者にとって商品画像の撮影と編集作業は売り上げを左右する重要な業務のひとつだ。とくにファッションECはカラーバリエーションやモデル着用写真など求められる画像が多く、その品質維持には時間とコストがかかる。そうした中、画像生成AIを業務プロセスに組み込むことで業務効率化を図るツールが登場している。有力ツールの特徴を見ていく。
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AIによる業務効率化に焦点
スクロール子会社でアパレル特化型AIシステムを提供するスクロールインターナショナルは2月より、アパレル商品企画・開発に特化した生成AIシステム「Lightchain(ライトチェーン)」を提供している。
使い方は、画像をユーザーがアップロードし、袖丈や身丈、襟など、変更したい内容を自分で指示していくというもの。指示の内容は、システムの中でクリックして選ぶだけ。例えば画像のジャケットの身丈を変更したい場合は、「スタイルの選択」から「トップス」「身丈」と選び「ショート丈」を選択。「どのくらい短くするか」をマウスで範囲指定し、マスクする。あとはAIがジャケットの身丈を短くした画像を、数秒で4パターン生成してくれるので、イメージに近い画像を選ぶだけ。生成された画像のフィードバックを送信することで、精度を高めていくことも可能だ。
もちろん、丈ではなく柄や色、生地の種類、レースやフリルの追加といったディティールも変更することができる。例えば「白ブラウスのカラーをグリーンに変えた上でVネックとし、半袖からノースリーブにする」といった変更も簡単だ。柄に関しても、ピッチを変更したり、位置を変更したりといったことも自在に調整できる。さらには「レースを追加したい」という場合は、モチーフとするレースの画像をスマートフォンで撮影、パソコンからアップロードするだけで、システム内でレースが使えるようになる。
「何も知識が無い人でも、クリックやドラッグといった直感的な操作で画像が生成できる」(音羽裕之社長)のが特徴だ。アパレル企画業務の大幅な時間短縮が期待できる。また、全色サンプルを作成し、写真を撮影した上で通販サイトに画像をアップロードするといった手間も省ける。
ライトチェーンの特徴は「デザインの微調整が数秒で可能になる」だけではない。デザインを生成させることも可能だ。ブランドのテーストを学習する機能を設けた。
例えば、スクロールブランドのアパレルアイテム画像を30枚ほどアップロードし学習させることで、「スクロールのテースト」を踏まえた上でのデザイン提案ができるようになる。「自社ブランドのテーストにトレンドのデザインを取り入れたい」といった使い方などが考えられる。
また、アップロードした画像の「デザイン要素を検出する」機能も設けている。検出したデザイン要素の中から、「新商品には必ず取り入れたいディティール」がある場合は、その要素を指定すると、生成された画像にもデザインが組み込まれる。
ライトチェーンはSaaS形式で提供。画像の利用枚数制限などはない。同社では「優秀なアシスタントデザイナーを雇うよりもお得に使えると解釈してもらいたい」(音羽社長)とする。
同社と中国のAI企業が共同開発し、スクロールインターナショナルが日本における独占的な販売店として、国内事業者向けにソフトウエアを販売。スクロールの社員がテストユーザーとなり、機能や使い勝手の改善を進めてきたという。
音羽社長は「他社の類似サービスは、AIによる生成物に価値を見出しているが、当社は業務効率化に焦点を絞っている。アパレルは労働集約型産業だが、AIに一部の作業を担ってもらうことで、人間はもっと建設的な考えやアイデアを生み出す作業に注力できるようにしていきたい」とライトチェーンの意義を語る。OEM・ODM企業だけでなく、アパレル小売りやデザイナー事務所などにも売り込む。まずは1年間で100アカウントの提供を目指す。また、「モデルの体型を変更する」など、システムへの新機能実装も進めていく。
高品質画像を大量に生成へ
画像解析サービスなどを手がけるELEMENTS(エレメンツ)は2月から、ファッションEC向け画像生成AIツール「SugeKae(スゲカエ)」の正式版の提供を始めた。
同ツールは、すでにある画像をベースにした多様なクリエイティブ制作をAIがサポート。EC事業者の撮影工数などを削減できるのに加え、画像のバリエーションを増やせることで商品の消化率向上を期待できるのが強みだ。
「スゲカエ」では複雑なプロンプト(指示)を入力する必要がなく、専門知識がなくても簡単に商品の背景を季節やコーディネートに合わせて自然な背景に変更したり、通販サイトに最適な白抜き背景にすげ替えたり、商品画像のアイテムを指定した色にすげ替えたり、コーディネート画像の一部を別のアイテムに変えたりすることができる。
背景生成は指定画像や自然な単色の背景にすげ替える機能で、参照画像をアップロードすると、当該画像を学習して元画像に反映。影の浮きなどなく自然な背景を生成する。白抜き背景については、商品がはっきり見える白背景を瞬時に生成。アマゾンなどのECモールで必須の白背景を大量生成できる。
カラー変更は、1枚の画像をもとにSKUに応じたカラーバリエーション画像を生成。参照画像からカラーを抽出することで繊細なニュアンスカラー展開にも対応でき、色ごとに撮影する手間を省ける。
商品点数の多いファッションECでは、売れ筋以外のカラーは物撮りで済ますケースもあるが、別カラーのモデル着用画像と生地データがあればモデル着用によるカラーバリエーション画像を展開できる。
コーデ画像の商品を別アイテムにすげ替える機能では、在庫が多い商品でも次シーズンに合わせたコーデに組み直した画像を生成することで、販売機会の拡大につなげる。
例えば、売れ残ったパンツと売り上げ1位のトップスとを組み合わせて見せることで、再撮影する手間をかけずにパンツも売れる可能性が高まるなど、「ささげ業務の効率化だけでなく、商品の消化率向上を手助けできるのが『スゲカエ』の提供価値」(小島亮平執行役員)とする。
「スゲカエ」を使えば低コストかつ短時間で商品画像をリメイクできるため、これまでは撮影工数の問題などで販促が難しかった商品も手間なく訴求可能で、在庫処分に伴う値引き販売の抑制も期待できる。
また、広告配信用画像を作成する際も、掲載メディアのトンマナや読者層に合った画像を生成したり、掲載画像を柔軟に変更して効果検証の効率化につなげたりする活用方法も考えられるという。
2月に正式版の提供を開始して以降、ジュンやTSIホールディングスが導入し運用を始めているが、有店舗アパレルだけでなく、商品画像の枚数やクオリティにこだわるウェブブランドの活用も想定している。
「クオリティを保ちながら量をこなせることがサービスとして大事」(小島執行役員)としており、まずは新作アイテムの投入頻度が高いファッション業界への導入を優先的に進める方針で、その後は問い合わせがきている家具やコスメなど、画像生成AIと相性の良い他商材への横展開も視野にあるようだ。
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