Image by: FASHIONSNAP
2024年秋冬コレクションで2度目のランウェイショーを行ったKAMIYA。会場は渋谷百軒店。関東大震災直後に「百貨店」をコンセプトに作られた商店街。いまとなっては珍しい喫茶店は1926年創業の「名曲喫茶ライオン」。レトロな雰囲気を醸し出す店が立ち並び、奥にはネオンが輝く現代的なナイトクラブ、ラブホテルが隣接する。日本の大正、昭和、平成の古き良き時代が令和に輝く唯一無二な街。テーマは「TIME IS BLIND(時は盲目)」ヴィンテージやブランドのアーカイブをこよなく愛するデザイナー神谷氏ならではの場所だ。2024年秋冬コレクションで1番印象に残ったショーを選ぶならば、筆者はKAMIYAをあげる。全てのショーの中で1番「男性性」を強く感じたからだ。
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2000年以降、ショーでは体格の良いモデルが中心から、細身のモデルが指示されるようになり、近年は中性的なモデルも登場。男性もメイクやスキンケアをする韓国アーティストの影響もあり、男性像の広がりが見受けられる。
今季のKAMIYAは、胸板が厚く筋肉質で体格が良いモデルが登場。顔にはキズの入ったメイクやリーゼントヘアーも相まって、如何にも従来の”男らしさ”があった。令和では珍しい存在となってしまった無骨な男性像に浪漫を感じるほど。ジェンダーの多様化により、男女の社会的役割分担さえタブー視する風潮の中、従来の強い無骨な男性像を久々に肌で感じ、”男らしさ”とは何かを筆者なりに調べた。
従来の男性らしさを説明するために、戦後の経済成長を成し遂げた日本の仕組みにまで遡る。当時、男性は女性よりも体力があるため長時間の肉体労働を求められ、女性は男性の経済力に依存し家庭に責任を持つ時代。経済を回すため、家族を養うためには力仕事が必要だったため男女の役割分担は"合理的"であった。しかし働き方が変わったいまでも戦後の経済成長を後押しした社会システムが、根強く残っている。そのため日本は他の先進国と比べてジェンダー問題に遅れている原因の一つである。
視点を変えれば、人の働き方や暮らし方が多様化しているにもかかわらず、現在の社会においても、男性は肉体労働が主流であった時代の「強さ」を求められているわけだ。その点では、日本に限ったことではなく、昨今の侵略・紛争により兵隊として繰り出されるのは男性。いつの時代も男性は、社会のために、時に自国のために身体を酷使するのが社会的責任である。
KAMIYAのモデルにあった顔のキズは、肉体労働を虐げられ、社会で求められる男としての役割、責任を果たした勲章なのではないか。キズを負いながらも街中を颯爽と歩くその姿からは、どんな時代も戦いを命じられる責任と切なさ、突っ張る態度に垣間見える内面的な弱さ。身体でぶつかり合って互いを認め合う本能、”男たるもの”という姿勢を感じ取った。そんな「男性らしさ」がデザイナー神谷氏の「浪漫」なのだろう。渋谷の中でも昭和の哀愁が漂い、社会的な強さも弱さも受け止めてくれる喫茶店のマスターやBARのママが揃う街並みを舞台に選んだことも納得だ。
それはアイテムにも表れており、デニムやパーカにダメージ加工を施し、新品よりも使い古されたものに愛着を持ち、色褪せても好んで着る無骨な男のこだわりが伝わってくる。一方で今季展開したハーフパンツは袴のような仕様になっている。メンズのパンツを女性的なスカート風に作りあげ、古き良き男性に憧れながらも、現代の若者に通じるフラットなジェンダー感覚をデザインに取り入れた。
今回演出で取り入れたドラムパフォーマンス集団「鼓和」。コレクションと関連がないようだが、本元となっている鼓笛隊は軍隊の士気を高めるための行進や儀礼の音楽隊であり、ここでも男性というワードがつながる。まるで家族を守るために戦った男性を、はたまた社会で揉まれながらも身体で稼いでできたキズを称えるようだった。
今回は、近年研究されている「男性学」の観点から、専門家の資料を照らし合わせながらKAMIYAを紐解いていった。筆者は社会が強い男性を英雄として美化し、弱い男性を否定するような風潮を作り上げているとも考えている。一方で、男性社会が作ってしまった家父長制、暴力と圧力で女性や弱者をねじ伏せている現状に賛同はできない。
女性の社会進出とジェンダー平等の推進活動により、男女平等な社会参加ができる世の中になるべきだと考える。しかし、今日も社会から無意識に求められる「男性らしさ」に生きづらいと感じる男性もいるということを伝えたい。男性として生きていくためには、男性としてのあり方が多様化され、認めていく方がより良い社会であると思う。
ジェンダーの多様化が進む時代に、生きづらさを作ってしまった社会の弊害はどこにあるのか、KAMIYAのショーを通じて考えるきっかけとなった。
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