Image by: tanakadaisuke/FASHIONSNAP
冒頭から手前味噌で恐縮だが、ファッションウィーク直前3月8日、私は東京都人権啓発セミナーで「ファッション×人権」をテーマに東京都民に向けた講座を行った。タイトルは「着ること・着るものから考えるみんなの尊厳が守られる社会」. 受講は対面とオンライン両方があり、約130名の方に見ていただけたそうでとても感謝している。それからというもの私の頭は人権のことでいっぱいになりながらファッションウィークを迎えていた。たまたまショー会場で会った先輩である某スタイリストさんがこっそりオンラインで受講していたことを知り、感想を尋ねてみたところ「地球は丸いけど世界は三角だね」との言葉を頂戴した。短文かつ明確な感想にどこのショーを廻っていてもこの言葉が離れなかった。
世界は平等とはいうものの、社会にはヒエラルキーがあり、ファッションはそれを如実に感じてしまうことも多くある。ブランドやデザイナーのご親族など関係者ならともかく、ショーで特権階級とそうじゃない人が分けられる暗黙の構図も然りだ。しかしながら、この三角形があるからこそカウンターの価値が高くなり、天と地が翻るほどの可能性を秘めている。インターネットにより私たちは世界と繋がって地球のようにまるくなったからこそ、社会の縮図が鋭角に見えてしまうかもしれない。昨今のショーで評価されるモデルの「画一化された美」に疑問を提示され始めたのもここ数年の話だろう。だからこそ、評価軸からこぼれ落ちてしまう人を掬い上げ、昇華させることができるのもファッションの力だと私は思う。
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今回もモデルを中心に観察していこうと思ったところ驚いたのは「フェティコ(FETICO)」の変化だ。
私は24年春夏で偉そうにも「少し風呂敷を広げて、様々な身長や体格、はたまたトランスジェンダーなど「女性性」を持ったモデルを」と書かせてもらったのだが、24年秋冬には有色人種でグラマラスなモデルが登場。しかも、彼女は凛としていて顔つきも歩き方も力強く「私はここにいる」と言わんばかりのオーラを感じた。フェティコのコンセプトである「The Figure : Feminine」は女性による女性であるための強さ、美しさ、社会的自立にアプローチしたブランドであることがよく伝わった。
また私が拝見させてもらった国内ブランドのランウェイショーの中で、グラマラスなモデルを起用したのはフェティコのみだった。唯一だからこそ強くメッセージとして届く。ブランドとしての覚悟や姿勢、なにより、グラマラスな女性の中でも今回のモデルを選んだデザイナー舟山氏の知的さ柔軟さを感じ取った。
前回もジェンダーの話に触れたが、その中で私の心が動いたのは「タナカダイスケ(tanakadaisuke)」。得意とする刺繍をふんだんにあしらった女性のクチュールがブランドのアイコニックになっているが、熱量そのままに男性服へのこだわりも強い。2013年頃から男性が女性よりのかわいさ、美しさを表現するようになったことで生まれた「ジェンダーレス・中性的」という言葉。いまや市民権を得ているように感じるけれど、ファッションで表現しているブランドは少ない方だと思う。特に女性のクチュールを作るように男性服を提案するブランドは日本でタナカダイスケだけだろう。現在、日本では女性らしさからの解放を促す活動が少しずつ行われているのであれば、同じく男性社会が決めてしまっている男性らしさからも解放されるべきだ。私はシスヘテロ(男性であり異性愛者)であるが、社会が求める「男性らしさ」から外れたいと思うことがある。そういう機会に着たいと思える服があれば、ファッションのうつわの大きさに比例するのではないか。
今季、特に注目したのは顔や体にタトゥーの入ったモデルのViral boy。他のショーでもよく見かける彼の魅力は男性的な無骨さだと感じていたが、デザイナー田中氏の手にかかれば上品な印象になっていた。社会から求められる男性としての責任から、時には一度おろしてもいいのでは?と提案してくれているよう。ジャケットを羽織れば自分の所作まで変わってしまうのだろうと妄想が広がった。
ありがたくも春夏、秋冬、約1年間のレポートを執筆させていただき、服よりも人、権利、多様性に関する事例を上げながらブランドを紹介した。私の執筆は強く主張しているものが多いが、社会の構造はあまり変化しないのだろう。だからこそ、社会的マイノリティの1人として、社会と人権を考えながら、ファッションサイトというプラットフォームで書き続けることに意味を見出している。個人の自己実現を超えてファッションで権利を主張することを続けていきたい。ファッションに対して異論を提示しているばかりで読み手も体力を使うと思うが、機会がある限りお付き合いいただけたら幸いです。
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