今年のお買い物を振り返る「2023年ベストバイ」。16人目は昨年に続き2度目の登場となるスタイリストのTEPPEIさん。2000年代ファッションアイコンとして原宿のストリートカルチャーを牽引し、その後スタイリストとして活躍。ストイックかつ情熱的に服と向き合う姿勢はデザイナーやアーティストのみならず、ファッション業界人からも熱い信頼を受けています。40歳を迎えたというTEPPEIさんが今年買って良かったモノとは?
目次
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visvimのリクチュールカスタムブーツ
FASHIONSNAP(以下、F):去年のベストバイに引き続き、今年もよろしくお願いします。前回の反響はありましたか?
TEPPEI:年始の仕事初めからしばらくは、沢山の方々からベストバイ読みましたよ、って声を掛けていただきました。自分のこれまでのエピソードと結びついたアイテムが多くて他の方と比べると、少し毛色が違う選定軸だったかもしれないですね。今回のベストバイも自分の中でのエピソードが色濃いものと、単純によく着たという2軸で紹介していこうかなと。
F:では1点目お願いします。
TEPPEI:「ビズビム(visvim)」の「セラ(SERRA)」というモデルのリクチュールカスタムブーツです。どのようなカスタムをしたかというと、元々のサイズが大きかったので、トゥ先端の部分を切り落として、且つ、その断面部を綺麗に補修するという作業をお願いしました。この靴自体はまさに衝動買いという感じで、当時お給料が入金されたのを確認して気持ちが高揚している直後に、竹下通りのRAGTAGで購入したので、今もその時の記憶は鮮明に残っています。
F:また、大胆に切断されてますね。
TEPPEI:このカスタム案には色々伏線があって。まず、不自然に大きいサイズの靴を履くこと自体が当時の自分にとって定番行為だったんです。2000年代、当時のストリートスナップを見てもらえばわかるんですが、主に大阪のストリートシーンの流れで「デカバキ」っていう言葉があって、みんなサイズをガンガンにあげて靴を履いていたんです。例えば、ブリティッシュの厚底のものやコンバットブーツなどはわかりやすくボリューミーですが、普通のサイジングのスニーカーでは物足りなかったんでしょうね。コンバースのオールスターでさえもそういう流れがあって、シューレースで締め上げて、ぐっと反り上げて履くというような流儀がありました。マイサイズは26cmですが、これは29cm。今でこそサイズは厳選していって、0.5cm差でも嫌なんですが、当時は好んで大きいサイズを選んでいました。当時愛用したままの着用感がある状態でそこから眠っていたんですが、たまたま整理していたら出てきて、思わず買った当時の気持ちを思い出したんです。365日ほぼ毎日服を買っているからといって、服を手に入れる高揚感に鈍感になっているつもりは決してなくて。この"バイ"は自分にとって紛れもない原点のうちの1つなのだと思います。
そんな想いを抱きつつ、2004年購入の代物をこの2023年にそのままの状態で履くのもな、と思い、スニーカーのカスタムを行っている「リクチュール」に持ち込んで、ジャストサイズにカスタムすることにしました。切断したらトンネルみたいに空洞で、つま先が見える状態になるので、切った部分の皮をうまく使いながら、埋めて、馴染ませてくれたのでデザインとして成立しているんです。
F:よーく見ると繋ぎ目があります。
TEPPEI:ジャストサイズにするための方法論として切断したということではあるんですが、文脈を遡ると、元々はイギリスのシューズデザイナーであるジョン・ムーアの80年代のデザインが起源になっているんです。彼の亡きあとに日本人の木村大太さんとイアン・リードがデザインを伝承されて、イギリスで「オールドキュリオシティショップ(The Old curiosity shop)」というショップ兼ブランドを立ち上げられました。そこで学んだ山本真太郎さんが「キッズラブゲイト(KIDS LOVE GAITE)」を立ち上げたり、「キディル(KIDILL)」も「オールドキュリオシティショップ」とコラボレーションしたり。そういった脈々とした伝統的な流れが存在しているんです。
F:オーダー時にもそのようなデザインソースを伝えて?
TEPPEI:そうですね。思い入れのある「セラ」がジョン・ムーアのデザインにインスパイアされて生まれ変わったら面白いな、と思っていたので。オマージュという形に近いのかな。自分の思いが通った今の時代でも履ける一足に仕上がったと思います。
F:履き心地が気になります。
TEPPEI:結構履きこんでいたので、インソールを見ると自分の履き跡があるんです。ここまでだったら足が当たらないだろう、という絶妙なところで仕上げてくれました。
BODEのベレー帽など ハット3点
TEPPEI:これは「シャー(scha)」という元彫刻アーティストのデザイナーの方が手掛けるヘッドウェアブランドで、この秋冬シーズンにドーバーで買ったものです。「セシリー・バンセン(CECILIE BAHNSEN)」のラック横にあったので、セシリーだと思っていたら、別のブランドでした。
F:確かにセシリーの雰囲気ですね。
TEPPEI:生地はフェルトで、本当はツバがあるキャップなんですけど、視界の邪魔にならないようにくるくると巻いてかぶっています。リボンがついてるベレーは「ボーディ(BODE)」のもの。
F:ボーディはキルトやエスニックな柄物のイメージなので、ベレー帽は意外かも。これはフランスの老舗ベレー帽ブランドの「ローレル(LAULHÈRE)」製なんですね。
TEPPEI:ボーディの別注デザインなのかなと。色違いのチャコールグレーも買いました。これを手に入れる前は「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」の定番型のベレー帽もかぶっていて、今年は年間を通してベレー帽をよくかぶりましたね。
F:TEPPEIさんといえば帽子の印象が強いです。
TEPPEI:この一つ前は「カンゴール(KANGOL)」の耳付きニット帽。
F:去年もかぶってましたね。
TEPPEI:耳付きって今で言うと「チャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ(Charles Jeffrey Loverboy)」やSNS派生のファッションなどで、アイコニックなモチーフとして流行っているんですが、自分は「カンゴール」のオールドスクールなバックカルチャーをなぞる意味合いでかぶっていたんです。でも会う人みんなに「可愛い!」としか言われなくなってきて(笑)。
F:まあ、実際可愛いですもんね(笑)ちょっと物足りなくなってきた?
TEPPEI:全然想定内なんですけどね。それでもめげずにかぶり続けて、今でもたまにかぶるんですけど、次どうしようかなと思った時に、マルジェラのベレー帽を試してみたら、まず調子がよかった。春から夏の始まりぐらいの薄着の時でも、あまり暑苦しくなく違和感なくスタイリングできたんです。
最近はコレクションでパリに行くっていうのが自分の中での大切なライフワークになってきていて、直近の9月は前回と比べてフォーマルな装いで行ってみたんです。綺麗なジャケットにこのベレー帽と、ハズしとして「ヴァンズ(VANS)」を履いていたんですが、周りからの印象や接し方が変わった気がして。街ですれ違うマダムに声をかけられたり、ショーに出るモデルが敬意を持って向き合ってくれたり。多分今まではカジュアルなスタイルが影響して、ちょっと幼く見られていたのかな?って。それがもう少し、しっかりと芯を持った人に見られたように肌で感じたんですよね。日本人ってだけでも若く見られるだろうし、まして自分なんて童顔なので、余計そう見られる。
そういった点でベレー帽って顔周りのパーツとして、自分の印象を整えるためにも塩梅がいい感じがするんです。耳とか角とか生えて、自分のバックグラウンドであるストリートカルチャーを前面に出すのもいいんですけど、コンサバティブな意味合いではなく、洗練された見せ方としてクラシカルでエレガントに少しふるだけでも人の印象って変わるんだ、と。日本だと自分のことや自分のスタイルを認識してくださる方がいるんですが、パリだとそれがほぼないので、ベレー帽を通して服や着こなしで自分のことをどう伝えていくのか、伝えていきたいのかを考え直すきっかけになりました。今の自分のムードにあったというよりは、ムードを作るきっかけになったアイテムです。
F:服など身につけるものに自分のアティチュードが寄ってくることは大いにありますよね。
TEPPEI:特にスタイリストは、裏方の中でも直接的にやりとりする場面が多いので、矢印を自分に向けてもらう必要があるんですよね。ショーを無事に終えたい、という気持ちから、2回目3回目と回数を重ねていく中で、次の目標に対しての欲が湧いてくる。海外のショーだとモデルもスタッフも余韻に浸ることなく、次の現場に向かうので、やはり東京よりも距離感が遠くなります。直近でようやく自分のことを認識して、現場で必要としてくれたり、「素晴らしいね」という言葉をかけられたり、そういったコミュニケーションが生まれきた。仕事への取り組み方というところはもちろんですが、存在だったり認識のされ方なんだなって思ったんですよ。それが身のこなしだったり、ファッションアイテムとしては、わかりやすくジャケットと帽子だったんです。
F:服はわかりやすい「言語」ですよね。
TEPPEI:まさにそう思います。そのコミュニケーションが嬉しかったんです。
エディ・スリマン期のDIOR HOMMEのダブルジャケット
F:その時に着たジャケットが3つ目に紹介していただくエディ・スリマン期の「ディオール オム(DIOR HOMME)」のジャケットですね。ファッション遍歴として当時のエディは通ってきたんですか?
TEPPEI:ピンクのスキニーや白シャツなど一部持ってるんですけど、今、当時の自分を振り返ると崩し方がうまくハマってなかった感じがしますね。
F:ディオール好きな人はスキニーの「ジェイク」を履いて、エナメルか「サンローラン(SAINT LAURENT)」の「ジョニーブーツ」を履くというのが王道。
TEPPEI:そうそう。まあ、自分はもっと雑多に古着や軍モノとかにミックスして着ていたので、この美しいシルエットやカッティングをどれだけ台無しにしていたんだろうって思います(笑)。
F:それを今年どう着たんですか?
TEPPEI:黒いスメドレーのハイゲージタートルをインナーに着て、シュタインのレザーショーツにロングホーズハイソックスを履いて、足元はVANSのボロボロ加工のオーセンティックを合わせました。色のトーンを黒にして、ちょっとだけアイテムで崩したようなスタイリングでパリのショーのバックステージで着たんです。去年も登場した中央林間の古着のお店には定期的にずっと通っているんですが、「こういうのお好きじゃないですか?」って店の奥から出てきた一着。腕を通した瞬間にバックステージの光景が浮かんできたので、パリで着るために買いました。
F:ウィメンズの仕立てぐらいウエストが細くて、これぞエディというようなシルエットですね。
TEPPEI :当時ってエディの服を着るためにカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が痩せたといったようなエピソードがありましたけど、細身で着丈も長いのでかなり引き締まります。体のラインに対して綺麗にハマっている感じがしたので、自分的に納得したのと、客観的な印象としてもいいんじゃないかとも思えたんです。当時チェックしていたディオール オムと比べても、ちょっと変化球のジャケットだとは思います。ダブルのこのボタンの数とか、この独特な着丈とか、珍しい気がします。2005年のシーズンって言ってたかな。
PRADAのセットアップ
F:次は「プラダ(PRADA)」のセットアップです。前回プラダはヴィンテージのレザージャケットが登場しましたが、今年はオンシーズンの2023年秋冬コレクションのコレクションピースですね。襟がドッキングされた印象的なデザインでした。
TEPPEI:言語化するのがなかなか難しいんですが、プラダのスーツはどのシーズンもずっとかっこよくないですか?ランウェイを闊歩するモデルのツラもかっこいいし。すごく上品なんだけど、決して保守的ではなく、強くて新しい。たまたま昨年ブティックでダウンジャケットを買ったタイミングで、顧客向けの受注会にお声がけいただいて、その時にオーダーしたスーツです。
案内をくれたプラダの店員さんが、ラフの影響でファッションの世界に入ったそうで、その話をできるのがだいぶ嬉しかったみたいで「コレクションピース是非見てほしいです!」と。それが自分の40歳になる誕生月でタイミング的にも記念としてスーツを買うっていいなと思ったので買いました。ただ、このセットアップに対しての想定するTPOは、ものすごくカジュアルなシーン。友人の結婚式の二次会とかフォーマルな場面じゃなくて、普段何も気にせずに「今日セットアップ着よう」と何気なく思ったとしたら、その延長線上で、Tシャツの上にさらっと着れちゃう、くらいの感覚です。店員さんともそんな話をしてたら「そういう方を待ってました!」と、都度感動してくれるんですよ。そういう反応がいちいち面白くて。
F:上手ですね(笑)。
TEPPEI:そうなんですよ(笑)。受注会で買ったので特別なタグがついて、スーツ、ガーメントにもイニシャルが入って届くんですけど、ウエストから丈といったサイジングから、パンツの前立てもボタンからファスナーに変えたり、細かいところもガンガンお直ししてもらいました。
F:わざわざなぜファスナーにしたんですか。
TEPPEI:ボタンって履きづらくないですか?使い勝手としてぱっと履ける、その速度感がないだけで、履かなくなるんですよ。それくらい日常着る服って、自分のテンポに合ってないと自然と手が遠のく。40歳の記念すべきスーツがタンスの肥やしにならないように、袖丈とか、着丈とか、パンツのシルエットっていうものを全部自分好みに変えました。
F:ボトムスの丈も詰めていますが、TEPPEIさんにしてはちょっと長めですよね?
TEPPEI :そうですね。靴下が見えるか見えないかぐらいの9.5分丈くらい。僕にしてはめっちゃ長いです。基本的にこれはスニーカーでしか合わすつもりがなくて。ボクシーなシルエットが崩れないギリギリの丈感にしてもらいました。
F:日常でとおっしゃいましたが、このデザインを見た時の印象がそれこそ真逆でした。ポインテッドカラーでパーティー感が出過ぎやしないかと。
TEPPEI:人によるかもしれないけど、自分がこのスーツを着た時は、着崩す、カジュアルな意味で襟ありの方が着やすいかな、って。すごく上質なウールではあるんですけど、70年代のアクションスラックスのような快適性もあります。感覚的には「リーバイス®(Levi's®)」や「ラングラー(Wrangler)」みたいな。
F:イベントやショーでアンバサダーが着ていたり、同じデザインでカーディガンも出ていたので、このシーズンを象徴する一着でもありましたよね。
TEPPEI:ジャケットにシャツが足されたプラスの発想というより、シャツにジャケットを羽織るスタイルから襟のみを残したマイナスの発想なんですかね。ミニマムなマキシマムデザインというのが、まさにミウッチャとラフの共作らしさというか。
コレクションをチェックしている業界の人だと、いつのシーズンってわかるぐらいの強めのデザインだとは思うんですけど、自分としては長く愛せそうなディテールだと思っています。 コレクションのランウェイ内では黒人のモデルが着ていて手足が異次元に長いので、生地の落ち感と相まってすごくシャープに見えるんですよ。自分は当然足がそこまで長くないので、普通にミニマムサイズを着ても、コレクションルックのあのシャープ感には至らないんですよね。プラダのお直しの方には、「セオリーを無視してクレイジーなくらいの数値でいってください!」とオーダーしてこの形になったんですが、そのテーラーリングのスペシャリストの方とのやりとりも面白かったですね。パンツ丈や膝下のシルエットの調整、肩のシルエットの活かし方、ジャケットとスラックスの着丈のバランスなど、色々と数値を熟考しました。
F:仕立ての醍醐味を思う存分楽しまれたんですね。
TEPPEI:直しでだいぶ服のポテンシャルの引き出し方が変わると思う。もうつまみまくってもらいました(笑)。
CHANELのツイードジャケット 3点
F:続いては、またすごい「シャネル(CHANEL)」のツイードジャケットが出てきました。しかも3点。
TEPPEI:全部今年買ったもので、うち2点はヴィンテージです。流れとしてはディオール オムからのプラダがあって、このシャネルは一つの到達点だと思っています。今年6月に東京で開催されたショーにお声がけいただいたのがそもそものきっかけです。その後も書籍を送っていただいたり、展示会に呼んでいただいたり。シャネルのことをより深く興味を持てるようなコミュニケーションの機会をたくさんご用意して下さいました。自身が仕事でパリに行っていることも知ってくださっていて、色々なやり取りを経て、結果、ありがたいことにパリの現地のショーにもお招きいただきました。
この業界にいても限られた人しか行けないショーなので、せっかく招待されたからには、自分にしかできない愉しみ方をしようと。自分はストリートカルチャーを体現してきたけど、今後仕事の上では、ラグジュアリーという観念や価値観と向き合っていきたいフェーズなんだと思っています。シャネルというブランドと向き合ってみると、ココ・シャネルという人物についてや彼女の信念、ブランドとしての歩むべき姿など積み上げてきたものをずっと大切にしてきた上で、今もなお、崇高なモノづくりをしている。そういった作品性がシャネルのラグジュアリー精神なんだなと。ラグジュアリーというものは、決して人を突き放したり、誰かよりも優れようということではなく、存在自体は高度な次元でフラットであり、豊かな精神性なんだと気付かされました。ショーを通してだったり、実際に手に取って見ると、凄まじい服の完成度と芸術性で、ルックでは感じ取れない服の息吹を体感でき感動しましたね。同時にシャネルの服を持ってもいないのに、わかったようなこと言ったらダメだと思って買い始めたんです。
F:いくらで購入を?
TEPPEI:初めて買ったシャネルのジャケットはヴィンテージで30万円ぐらいだったかな。十分高いじゃないですか。これだけでもよかったんですけど、小雨が降ると気になるし、どう合わせよう、とか考えていたら服との距離ができそうで。考えを巡らせているうちに、東京でのショーを見る前に一着、パリのショーのために一着、そしてショーを見終わった後にパリのカンボンの本店で一着、と結局3着買うに至り...。パリの本店で買ったジャケットは最初に買ったヴィンテージジャケットの金額から0が一つ増えました(笑)。
F:な、なんと…!服単体ではベストバイ史上最高額かもしれないです。
TEPPEI:お店には古着のラガーシャツに、レザーショーツとハイソックスにVANSを履いてさっきのディオール オムのジャケットを羽織っていったんです。そうしたら店員さんが「すごくスタイリングがかっこいいね」と言ってくれて、ジャケットを探していると伝えたら、これを出してくれたんです。実は、日本での展示会で見ていて「いいな」と思っていたジャケットで。というのも、珍しくメンズ合わせなんですよ。ストーンとしたシルエットで、短くもなく、肩も誇張していない本当にベーシックなブラックツイードジャケットなんです。個人的にはこのメンズ合わせが、ものすごくポイント。サイズも42で大きくて、日本には入ってない大きさで。加えてラス1だと。
実際に着てみると、すごく馴染んで気崩し方も完璧にフィットして。他の店員さんもどんどん寄ってきて、自分も高揚してきて「買います!」と。ちなみにこの時まだ値段見てない(笑)。
F:それはやばそうな展開ですね...!
TEPPEI:確かに展示会でどのくらいなのか聞いていたんですが、すんごい高いっていうことだけは覚えていて。そうしたら2万ユーロちょっとだと。それにレートの160をかけると…やばいですね(笑)。
F:カメリアをつけるとさらに華やかさが増しますね。
TEPPEI:コレクションを代表するピースで、カメリアのコサージュを沢山つけることで作品としては完成するのですが、この白い花が咲くとすごいムードが変わってきますよね。うん、めちゃめちゃ可愛い。まだ袖丈を直してないので、お店に持って行こうと思っています。
これほどのものになると、梱包も畳みじゃなくそのまま置きのサイズなんです。見たことのない大きさのBOXに置かれた状態をそのまま手荷物で持って帰ってきました。2週間滞在分のキャリーがある状態で担がないといけなくて、絶望的でしたね(笑)。
F:どこで着るんですか?またショーでパリに持って帰るとか(笑)。
TEPPEI:やっぱり安全な東京ですかね。ちょっとアッパーなところで着たい。
F:ここまでのセレクトを見てみると、去年とだいぶラインナップが変わりましたね。
TEPPEI:自分の信念は曲げるつもりはないんですけど、去年のベストバイからは世界線変わった?って思われるかもしれないです。でも、ブランド主義になったわけでは全くなくて。
F:お話を聞いている限り、たまたまご縁があってブランドの精神性に触れて共感したからなんだな、と理解してます。金額の面でいうと、昨年からはだいぶぶっ飛んでいますが(笑)。TEPPEIさんの服選びって基本的に変わらない気がします。
TEPPEI: ラグジュアリーという概念に先入観があったんですが、仕事を通して価値観やあり方を色々考えてる中で、服に袖を通して、ブランド価値以外に込められたもの、メンタリティとかアティチュードのような崇高な何かが宿っているものを感じられるようになったのは、自分の中では大きな学びでした。
ANREALAGEのフォトクロミックパファージャケット
F:続いてはTEPPEIさんがスタイリストとしても関わっている「アンリアレイジ(ANREALAGE)」のフォトクロミックパファージャケットです。
TEPPEI: 2023年秋冬シーズンのジャケットです。今までインポートブランドのアイテムが多かったので、自分が携わっていて、大切にしているブランドのアイテムを紹介しようかと。
F:アンリアレイジとの出会いは?
TEPPEI:お仕事での付き合いは4年ほどですが、2000年代、自分がスタイリストになる前に「FRUiTS」や「TUNE」といった雑誌でストリートスナップを撮られていた時、アンリアレイジのパッチワークジャケットを着て出ていたりしたことを今でもデザイナーの森永さんが恩に感じてくれていて。なので付き合いも長いんです。
パリでも継続的に発表していて業界の中での認知はあるんですが、ストリートを中心に全国に広がっていったのを原風景として覚えている分、自分を含めたファッションを好きな層に今改めて着てもらうブランドになれるように引っ張っていきたいな、と。それこそ、自分は2003年頃にアンリアレイジというブランドを知って、すごく衝撃を受けた一人です。主にパッチワークが彼らの代表表現だった時は色々なセレクトショップに置いてあったし、自分を含めてしっかり若者が街でアンリアレイジの服を着ていた。彼の服が時代を席巻した光景を知っている自分としては、改めて今の時代に"着て誇れる服"として選んでいってもらえるように、アンリアレイジの作品を伝えていきたいと思っています。
F:確かに、ショーでのギミックは毎シーズンSNSなどで再生回数も伸びますし、いわゆる"バズる"ショーではありますね。
TEPPEI:前提としてアンリアレイジの服って結構リテラシーを必要とする服ではあると思うんですよ。複雑で勉強的な要素もあったりするので。色が変わって観客が「わぁ!」となるのは見せ方としては明快なんですけど、アイテムとして手に取った時に、単純に「着たい」という気持ちにならないといけない。特にアンリアレイジの服は着られてなんぼであって、美術館に飾るために発表しているわけではないので。極論、自分は色が変わっても変わらなくても、森永さんの服はもっとたくさんの人に着てもらわないといけないと思っています。
アンリアレイジというブランドに関しては、シーズンのサンプルが上がってきてただスタイリングをするだけだと、自分の関わり方としては希薄に感じてしまうんです。スタイリストとして自分が一番アンリアレイジの服を人に”着させる”という点で近しいポジションにいるので、着てもらうためのデザイン、スタイリング、ブランディングをどうしていくか、というところの段階から会話をすることも多く、それはアンリアレイジにとって今こそ大事な要素だと思っています。チームでやっているからこそ関わりたいし、実現してほしい。どんなブランドのどのデザイナーにも、ここまで立ち入った会話はしないです。森永さんとの信頼関係があるからこその関わり方。その会話の中で生まれたのが、このジャケットです。
F:紫外線を浴びるとピンクに色が変わるんですね。
TEPPEI:実際に自分が着てみると、防寒としては全く問題ないし、シルエットやボリューム感、フォトクロの色味も面白いし、着ていて楽しくなります。ピンクになっても普通に可愛いし、それがなかったとしても服単体で好きと言える。
F:これからも一緒にアクションを起こしていく。
TEPPEI:若かりし頃20代より、クリストファー・ネメス(Christopher Nemeth)のKeikoさんや「ケイスケカンダ(keisuke kanda)」の神田恵介さん、森永さんに「こんな服着たいです」と言って、よく作ってもらっていたんですよ。それをサンプル商品化して、ワンオフで着させてもらうってことはよくあったので、感覚としてはそこが原点かも知れませんが、もちろん、より強くマーケットやブランディングを意識してコミュニケーションしており、これは自分なりのモダンなスタイリストとしての在り方だと自負しています。
「Wales Bonner×adidas Originals」スニーカー
F:最後は、今も履いてらっしゃる「ウェールズ・ボナー × アディダス オリジナルス(Wales Bonner×adidas Originals)」のスニーカーです。全部で6足あります。ベースのモデルはサンバですね。今年リテールでも「サンバ」人気が加熱したそうです。
TEPPEI:このコラボに関してはこの1年で火がついて。ファーストモデルのみ2次流通で買いました。今だと結構いい値段で出品されてるんじゃないかな。
F:コラボ自体は2年ほど前からスタートしていて、11月に出た新作もありますね。
TEPPEI:初代モデルを結構愛用して履きつぶしたタイミングで、新しいモデルが出たので買い足しました。何がそんなにハマったかというと、自分はご存知の通り、丈足らずキャラクターなのでクロップド丈のボトムスを穿くことが多いんです。フルレングスでだぼっとかぶせると、せっかくのベロの部分が隠れちゃうんですが、僕のパンツの穿きこなし方だとしっかり見えるんですよ。
F:長いベロが折り曲げられていて、シューレースを覆っているのが特徴的なデザインですよね。
TEPPEI:スタイリングとしてはアンクルのところで少し”トメ”が入るので、その感じが自分の日頃のスタイルにぴったりハマってくれるっていう。自分の他のスニーカーと比べるとクラシカルなイメージかも。古着ミックスのスタイルにもよくハマるのと、それこそスーツに合わせたりしてもいけるんです。デザインとしては一見特殊に見えるけど、ベースがサンバであることと、細かいステッチのディテールが効いていて可愛らしさもある。結構なんでもいけちゃうんだよね。
F:ウェールズ・ボナーらしい渋めのカラーリングもレトロなムードでいいですね。
TEPPEI: そう、クラシックな感じがありつつも古臭くない今っぽい色味で、すごいいい塩梅なんです。靴なのでウェアよりも頻度高く登場して、今年一番履いた点で言えばこれがまさにベストバイですね。このブラックのポニーの靴紐だけ「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」のファットシューレースに変えていて、足の甲と足首がいい感じにポップになってます。気づいたらこんなに買っちゃっていました(笑)。
今年のお買い物を振り返って
F:今年も濃厚なお話ありがとうございました。今年のお買い物振り返ってみていかがでしたか?
TEPPEI:去年取材してもらって、ベストバイは1年の買い物を通して自分の考えていたことや自分の活動が足跡として表れていて、すごくいい振り返りになったんです。そう考えると、今年はより海外への意識が向いてきた年でもありました。仕事のモチベーションとしてもそうですし、実際に袖を通すものとして、インポートものを自分で選択し始めているので、結果値段が高くついたんですが(笑)。
F:スタイリストという職業上、ご自身の活動とお買い物が密接に結びついていますよね。
TEPPEI:ベストバイは?って聞かれると、特に心に残っていることを回想するので、顕著な出来事があぶり出されてこういったラインナップになりました。今年は特に自分が40歳を迎えた節目の年でもあったので、立ち止まって、自分がこれからどう生きたいかっていうことを問われた感じがしています。
ファッションについて色々学んできた過去20年間の経験をどう還元して、より成長していけるか、ということを自分で自分に発破をかけているような感じですね。40歳を迎えてよりアグレッシブに行こうと考えた時に、自分にムチを打つ意味でも服に手助けてもらっているような。
F:買った物がまさしく生きる証なんですね。
TEPPEI:生きていることの瞬間的な変換のようなことが服で起こっているんでしょうね。自分を客観的に捉えるなんて日常生活ではそうできないですし、仕事だから当然なんですが、買い物に顕著に出ているんだと思います。
◾️TEPPEI
1983年生まれ、滋賀県出身。スタイリスト。2000年代初頭のスナップブームの中心的人物で、その個性的なスタイルは国内外で熱狂的な人気を集める。その後スタイリストとして本格的な活動を開始。独自のファッション哲学と思考でアーティストやブランドから大きな支持を得ている。現在はスタイリングの他に、アーティストイメージやヴィジュアルディレクションも手掛けている。
■2023年ベストバイ
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