伊勢丹新宿店の外観
Image by: FASHIONSNAP
三越伊勢丹ホールディングスが12月6日、投資家や報道関係者向けに開いたサステナビリティ説明会で、中長期人財戦略を発表した。主力事業を百貨店業から、個を徹底的に分析し利益につなげる新しいビジネスモデル「個客業」への転換を図っている同社は、従業員の力を最大化しながら、百貨店業で培ってきた「おもてなし」と「時代の半歩先をいくキュレーション力」のDNAを不動産業や金融業といった関連会社を含むグループ全体に波及させることで、“100年に一度の変革”を目指すという。説明会では「個客業」への転換に際し、人財戦略にまつわる2つの課題と取り組みについて語られた。
「個客業」は、百貨店で集めた顧客をインフラや不動産、金融、飲食といったさまざまな事業領域を横断させたり組み合わせた提案を行うことで、同社ならではの独自のビジネスモデルの創出を目指す。個客業での取り組みは、最終的に中長期経営計画の最終段階「結実フェーズ」で掲げる“まち化”の実現につなげたい考え。説明会に出席した細谷敏幸代表執行役社長CEOは「集客して帰っていく」という従来の百貨店ビジネスについて「崩壊している」と危機感を示し、今後の百貨店の館は集客および“マス”から“個”に転換していくためのツールと捉える。
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個客業への転換に向けた1つ目の課題は「企業風土変革」。「こころを動かす、ひとの力で。」というミッションを打ち出している同社は、従業員一人ひとりの力を最大限引き出すための取り組みとして、従業員・上司・会社が三位一体となった「生涯CDP(キャリアデベロップメントプログラム)」に力を入れている。上司は従業員のキャリアカウンセラーとなり、定期的な対話を行いながら成長できるよう伴走する役割を担う。会社はキャリア情報や学びの機会の提供、キャリア支援制度の拡充に取り組み、自律的なキャリア形成を支援。2022年度はキャリア制度利用者が前年比で226%の伸長があったという。細谷社長によると、これまでは“百貨店業一強”という企業体質が根付いていたことで、地域事業会社や関連会社の従業員は後ろ向きの姿勢になりがちだったが、対話を繰り返し行ってきたことで「百貨店と関連会社の関係性が変わった」と振り返った。
2つ目の課題は「専門人財の育成」。その一環として、同グループでは不動産・金融業を中心に19社21人が社外出向している。ひとつの事例として、1996年に同グループに入社した伊東功喜氏は銀座三越で服飾雑貨部門の販売などを経験後、恵比寿三越や名古屋ラシックで店舗の管理運営やリーシング業務に携わり、2014年から日建設計で所有不動産の方向性検討の支援や各種調査業務などに取り組んでいる。“不動産のプロ”ではないものの、三越伊勢丹で培った商業の経験と組み合わせた提案が業務発注に至り、この経験は自身の自信向上にもつながったという。帰任後は日建設計での学びを生かしながらまちづくりに貢献したい考えだ。
グループのシステム領域を担う三越伊勢丹システム・ソリューションズ(以下、IMS)では、専門人財を対象とした自律的なキャリア開発として、マネジメントではなく専門性でレベルアップを目指せる「ロール制度」を導入。ロールはアプリケーションエンジニアやテクノロジストなどさまざまで、最大のレベル5はマネジメントレイヤーの部長職に相当する。このほか、マネージャーのキャリア設計にも取り組んでいる。IMSの総務シニアマネージャー兼人事担当長の竹前千草氏は「グループ全体の専門人財育成にも貢献していきたい」と話した。
細谷社長は、百貨店を“科学”することで収支構造改革を実現させていく中で「少数精鋭のモデルがつくれるようになった」とし、将来的には百貨店に割いていたリソースを不動産業や金融業といったグループ関連会社に配置していくことで連携強化を図っていくという。
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