「捨てるものがない、循環型の社会を実現する」というビジョンを掲げ、地域産物の生産、加工過程で捨てられる素材などに価値を見出し、商品開発を行っているFOOD REBORN。代表の宇田悦子氏は沖縄・大宜味村のおばぁの生き方に感銘を受けて、沖縄の特産物であるシークヮーサーをあますことなく利用することから事業を開始した。さらにもう1つの特産物、パイナップルの葉を利用した天然繊維を開発して、衣料品やストローといった商品開発につなげた。これらの事業は観光業に頼りがちな沖縄やアジア諸国で、製造業を立ち上げる突破口になるのでは、ということでも注目されている。3人の子どもたちを育てながら、意欲的に事業に取り組む宇田氏に、FOOD REBORNの目指す未来について伺った。
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宇田 悦子さん/株式会社 FOOD REBORN 代表取締役社長
1985年、神奈川県生まれ。3人目の出産を機に11年間勤めた大手美容企業を退職し、企画・サービス業を個人でスタート。2017年、沖縄でのシークヮーサーのプロジェクトをきっかけに、フードリボンを設立。代表取締役就任。2020年よりパイナップルの葉の再利用事業を手掛ける。2021年5月にパイナップルの葉からつくられたストローを発売開始し、同年7月には銀座・和光にて衣類が発売された。
大宜味村に恩返しするため本社を沖縄へ移転
― 宇田さんは新卒で大手美容系企業に就職し、11年間勤めていたそうですね。
美容に興味があり、人に喜んでもらえる仕事をしたいと思って入社しました。仕事のやりがいを見出すと同時に、厳しさを学ばせていただいた11年間でした。すごく人見知りだったのですが、美容の仕事を通してお客様とのコミュニケーションを重ね、相手にどうやってものごとを伝え、結果を出して喜んでもらえるかをトライ&エラーを繰り返す日々の中で人見知りを徐々に克服することができたのは自分としては大きな成長でした。
― 大手企業に11年勤務した後、なぜ起業しようと考えたのでしょうか?
勤めている間も独立するための準備をしていました。3人目の出産を機に退職し、個人事業を立ち上げたところ、いろいろな仕事のご縁をいただくことが増えていきました。その中の一つ、「未利用農産物を粉末化して有効活用する」という仕事を手伝わせていただいたことが、今の事業につながっていきました。
例えば贈答品で人気のさくらんぼは、収穫の半分が規格外で捨てられてしまうそうです。生産者さんから「規格外になってしまったものを活用してもらえる方法があるのだったら、ありがたい」とおっしゃっていただいたことで、生産者さんにも喜んでもらえて廃棄の問題も解決できることに強く関心を持ち始めました。
そのうち色々な地域産物の企画に携わり、その中の一つに沖縄のシークヮーサーがあり、今の事業に繋がりました。
― シークヮーサー事業とは、どのような内容なのでしょうか?
シークヮーサーは沖縄県で年間3,600トンほど生産され、その9割は果汁として出荷されます。果汁を絞った後の果皮はほとんどが廃棄されていました。その果皮にはノビレチンという成分が果実の400倍も含まれ、認知症や排尿機能障害を改善することが研究で成果も出てきて注目されていました。生産の担い手が不足しているという地域の課題もあることを知り、まずは沖縄全体の約6割を生産する一大産地の大宜味村に行き、生産者さんや村役場などを訪ねて周りました。そこで大宜味村の産業祭りに出るきっかけをいただき、地域の方にシークヮーサーの果皮をドライパウダーに加工したものを無料で配りました。
そうしたら一人のおばぁが「あなたたちのやっていることは、すばらしいわ」と声をかけてくださって。「うちでもシークヮーサーの皮を天日干しして粉末にして、サーターアンダギーなどに混ぜたり、いろいろなものに加工して近所に配ったりしているのよ」という話を聞きました。「うちに1回いらっしゃい」とお誘いを受けて、その言葉に甘えてお邪魔したことから始まり、大宜味村に行く時はよくお邪魔するようになりました。彼女は夜釣りに行き、自分で釣った魚の刺身のヌタや、手作りのシークヮーサー果皮入りのアンダギー、山で採れたカラキ(沖縄シナモン)の自家製リキュールなどを振る舞ってくれました。美味しさに感動すると共に、村の色々なお話を楽しく伺いました。
そうやって話をする中で「なぜ大宜味村に来てこの仕事しているのか?」と聞かれ「大宜味村のために」と口走ったその時、ハッとして思わず赤面してしまいました。まだ何にも成し得ていないのに、地域にある宝物を使わせていただいていることや、そこにお邪魔させていただいている、という気持ちがすっぽり抜けてしまっていた自分に気がついたからでした。実はそのとき、事業もうまく行かず失敗続きでした。そんな時も、大宜味村でご縁をいただいた人たちに応援してもらえたことに対して、うまくいかないのは自分の取り組む姿勢に根本的な理由があると思い、おばぁの生き方をヒントに自分への戒めとして、「感謝して、驕らず、徳を積む」ということを心に刻みました。
改めてこの気持ちを持って事業に取り組む決意をし、おばぁに電話した時に沖縄の言葉でそういった意味合いの言葉があることを教えてもらいました。「くわまーが(子や孫に)、かふうあらしみそーれ(幸せが訪れますように)、とぅくとぅみそーれ(徳を積むように)」この言葉は私と同じ年代の村の人に聞いても知らなかったと言われ、消えかけている島言葉の一つなのかもしれないと思いました。「自分達のことだけでなく、子や孫の世代に幸せが訪れるように善い行いをすることが自分の幸せになって還って来る」という意味だと理解しています。大宜味村から教わったこの生き方が、フードリボンの原点です。大切なことに気づかせてくれた沖縄・大宜味村に“恩返しをしたい”という想いが強くなり、この地に本社を置き、私自身も生半可な覚悟ではこの事業はできないと意を決し、こどもたち3人と沖縄に引っ越し、のちに本社も大宜味村に移しました。
― 沖縄で素晴らしい出会いがあったのですね。起業した際は、どのような事業をやっていくか、どう展開していくかなど、構想やビジョンはすでにあったのでしょうか?
初めは手探りでしたが、振り返ると現在の事業にいたるまで、大きく分けると2段階に分かれています。まず、捨てられていた産物であるシークヮーサーの果皮を生まれ変わらせることからスタートしたのが1段階目です。
シークヮーサーの果皮からは僅か0.1%の抽出量で精油が取れます。「沖縄の香りを持ち歩く」というコンセプトでSONYの「アロマスティック」の沖縄限定の精油に採用頂いたのが始まりでした。現在、ザ・リッツ・カールトン沖縄で全室のターンダウンアロマとしてご使用いただいていたり、他ラグジュアリーホテルのおしぼりの香りや、オリジナル商品の精油を継続販売しています。精油と果皮水を使った化粧品も作りました。果皮の粉末入りキャンディは現在も宮古島のイラフSUIホテルのアメニティとして採用いただくなどしております。
果汁の方も、昨年から「シークヮーサースタンド」といって、売上の利益を全額、学生の社会貢献活動に使用する、というプロジェクトを立ち上げました。それに携わった学生が、今度はシークヮーサーの収穫手伝いに行く、といったバスツアーも開催しています。捨てられていた資源を生まれ変わらせ、地域の魅力を伝えるプロダクトを通して、地域の課題解決を目指す活動をしました。
娘の絵が気づかせてくれた、循環するプロダクトを作ることの大切さ
― 2段階目の事業展開についても教えていただけますか?
次の段階へ向かうきっかけのひとつは、娘の絵でした。ある日、4歳の娘が、「お母さん、海の絵を描いたよ!」と持ってきたのですが、一枚の紙にシンプルに水平線が引いてあり、その海には何かが浮いていました。「これは何?」と聞いてみたら、ペットボトルでした。自分のイメージしている沖縄の海と、子供の目に映った沖縄の海を目の当たりにしてショックを受けました。確かに海岸にたくさんのごみが流れ着いています。これが心に引っ掛かり、日々の中でごみ問題を意識するようになっていきました。
そんなあるとき、大宜味村の隣にある東村から「特産物であるパイナップルも活用してほしい」というお話をいただきました。いろいろ調べていったところ、フィリピンでは手作業で葉っぱから繊維を取り出し、高級な生地を作っている、という昔からの伝統産業があったのです。この話を知って沖縄でも同じようなことができるのではないか、と考え、繊維を取り出すことに挑戦しました。
知見ゼロでしたので、たくさんの人の力を借り試行錯誤しました。世界には既にパイナップルの葉などから繊維抽出する方法はあり、その方法からスタートしてみましたが、今まで一般流通するものになり得なかった理由がありました。「生産性が悪い・コストが高い・品質が悪い」の3点です。ファッション業界の巨大なマーケットに対応できる原材料が既に畑にあるならば、それらの課題をクリアできる技術があれば、変革を起こせるチャンスがあると信じ突き進んできました。せっかく既に繊維の資源が畑にあっても製造過程で環境負荷をかけては本末転倒になるので、環境負荷を極力かけずに繊維抽出できる方法を目指しました。
一方で繊維について調べていくうちに、繊維は天然繊維と化学繊維に大きく分けられ、それぞれの素材が引き起こす環境汚染や倫理的な問題をその時初めて知りました。ファッション業界が環境汚染産業と呼ばれるようになったのは大量生産大量廃棄によるものです。利益を重視してコスト削減を追求して作られた安価な原料繊維はその後の工程も自ずとコスト重視に作られ、最終製品で安価に販売され、気軽に手に入ることから使い捨てのように簡単に捨てる意識を増長します。
先ほどの娘の海の絵とつながっているのですが、“作って売っておしまい”にも”捨てておしまい”にもしないということ。パイナップルの葉の繊維をきっかけに、世界で起きている環境課題や倫理的問題を知れば知るほど、そこに対して何ができるのか?と考えさせられます。自然のめぐみを余すことなく使うだけではなく、これからは生産の原点から見直し、最終的に循環するものにしていくべきではないか。そんな世界を目指す取り組みを推進することこそ、全力をかけてやりたいことだと思うようになりました。
ファッションやライフスタイルを楽しむことと、未来にしわ寄せを作らず循環する正しさは両立できると信じ「捨てるものがない明日へ」をスローガンにし、弊社にとっての再スタートをしたのが2段階目です。
沖縄、アジアで新しい産業を立ち上げ、貧困問題にも向き合う
― FOOD REBORNはアパレル大手のTSIホールディングスや大手繊維商社の豊島と資本、業務提携を締結されていますが、その経緯を教えていただけますか?
回収や循環の仕組みを作るには1社の力ではなく業界や国の垣根を越えた協力が必要ということで、賛同いただいた方々と共に弊社も発起人となり一般社団法人天然繊維循環国際協会を2021年10月に立ち上げることができました。TSIホールディングス様とは協会に理事としてご参加いただいていたことがご縁の始まりでした。TSIホールディングス様の廃棄を出さない、原材料背景に責任を持つというお取り組みの方針と合致していたということと共に、事業への熱意と思いに共感したことが出資と業務提携の決め手とおっしゃっていただいております。同時に同じように共感してくださった豊島様にご参画いただけ、両社ともこの取り組みや素材を拡げていくことに業界のプロフェッショナルとして温かなご支援をいただき、大変心強く思っています。
― 今後の展開は、どのようなことを考えられていらっしゃいますか?
私たちの本社のある大宜味村に、フードリボンのラボファクトリーが来年春に完成予定となっています。パイナップルの葉やバナナの茎などから繊維を抽出し、県内をはじめとして日本各地の織り・染めなどの伝統産業とコラボレーションさせていただき、県内リゾートホテルや飲食店等にタオルやリネン、その他製品を出していくということを進めようとしています。
また、繊維を抽出した時の葉肉部分を生分解性樹脂と混合したさまざまなプロダクトの開発も進めて参ります。いずれもファッション業界だけに関わらず、インテリア業界、飲食業界、自動車業界などからも多くのオファーをいただいており、徐々にこれから製造していく予定です。その製造を県内でおこなうことによって地域の雇用創出や地域課題の解決をしていきたいと思っています。
― 海外展開も視野に入れていますか?
世界のパイナップルやバナナの生産の多くがグローバルサウス(発展途上国)で育てられており、その半分がアジアにあります。沖縄と同じ南国の自然を観光資源としている国々は共通課題も多く、力を合わせてそれぞれの抱える課題解決を目指したいと思い、当初から海外展開も進めて参りました。
例えばインドネシアは、アジアでパイナップルの生産量が今ナンバーワンになっています。インドネシアの国の正装といわれるバティックという伝統衣装はコットンなどの天然繊維ですが、その繊維原料はほとんど輸入に頼っています。それが自国のパイナップル畑の葉から繊維を得られるようになれば、大きな産業になるということで、政府からも期待していただいています。私たちの繊維を見て、「今までのものではダメだった。これだったら可能性がある!」と感動していただけて嬉しかったですね。
同じように他のアジア諸国どこでも同じような課題があります。現在台湾、インドネシア、フィリピン、タイ、中国、とその展開は急速に拡がっており、他にもマレーシア、ベトナム、インド、ブラジルからもお話をいただいています。海外ビジネスとなると本当にまた未知の世界ですし、企業としてもまだまだですが、信頼できる仲間や心強い協力者と出会うことができ、確実に前よりも強く前進する力になっています。これからも原点を心に、捨てるものがない明日を目指していきます。
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