2023年4月に日本を含むアジアを訪問したカプリHDのエグゼクティブチーム
「コーチ(COACH)」を中核ブランドに「ケイト・スペード ニューヨーク(kate spade new york)」、「スチュワート ワイツマン(Stuart Weitzman)」を擁するタペストリー社が、85億ドル(約1兆2240億円、1ドル=144円換算)でカプリ・ホールディングス(以下カプリ)を買収することが8月10日に発表された(既報)。両社は上場企業であるから、発表後の両社の株価を調べてみた。いずれも日にちは日本時間で、株価はその日の終値である。
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・タペストリー:41.24ドル(8月9日)→34.67ドル(8月10日、-6.57ドル)
・カプリ:34.61ドル(8月9日)→53.90ドル(8月10日、+19.29ドル)
プロの投資家というのはシビアなものである。買収側のタベストリーの株価は大きく下げ、買収されたカプリの株価は大きく上がっている。どういうことなのかと言うと、タペストリーの株価下落は「今後お荷物になる企業をバカ高い値段で買いやがって」と株を保有していた投資家が呆れて売却したと考えられる。一方、カプリの投資家は「よくやった。いい値段で売ってくれたじゃないか」という感じのようである。
カプリの8月15日15:00時点での株価は52.26ドルで時価総額(その時の株価×総発行株式数)は61億3400万ドル=8832億9600万円である(ちなみにタペストリーは8月15日15時で82億4000万ドル)。タペストリーが買収した金額はその1.38倍である。これはちょっとばかり高過ぎるのではないだろうか。ずいぶん大盤振る舞いしたものである。極端なことを言えば、もし敵対的買収だった場合には、相手方(カプリ)の株式の50.1%を取得すればいいわけで、時価総額ベースなら4500億円で済んだということになるのである。それを1兆2240億円で買ったのだから、投資している投資家は逃げるだろう。
2社の直近の決算は以下の通りだ。
タペストリー:2022年7月期決算
・売上高:9624億円(前年比+16.3%)
・営業利益:1692億円(同+21.5%)
カプリ:2023年4月期決算
・売上高:8091億円(前年比-0.6%)
・営業利益:977億円(同-24.8%)
今回の買収は、大が小を呑み込むというイメージで語られているが、2社にそれほど企業間格差があるわけではない。
買収価格の異様な高さから言うと、タペストリーが「売ってくれないか」と持ちかけた話のように思われる。カプリCEOのジョン・D・アイドルは誇らしげに「私たちのチームが成し遂げてきたことの証」だと今回の「合併」を語っている。
カプリが擁する主要ブランドは、デザイナーのマイケル・コース(Michael Kors、1959.8.9~)による「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」及びその派生ブランドで、これに高級靴ブランド「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」、「ヴェルサーチェ(VERSACE)」及びその派生ブランドだ。
「ヴェルサーチェ」は創業デザイナーのジャンニ・ヴェルサーチェ(Gianni Versace、1946.12.2~1997.7.15)がマイアミでゲイに射殺された後、妹のドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace、1955.5.2~)がデザイナーを務めている。ラグジュアリーブランドと呼ぶにはドナテラの個性が強烈で、デザイナーブランドというポジショニングだ。トップブランドの「マイケル・コース」はデザイナーブランドだが、稼ぎ頭の「MK」は「コーチ」と同じく中国および東南アジア生産のアフォーダブル・ラグジュアリーブランドである。
「ジミーチュウ」も創業デザイナーのジミー・チュウがデザインを自ら手掛けているわけではなく、いわゆるラグジュアリーブランドにはなりきれない靴中心の高級ブランドという位置付けで一時はスタッズがアイコンだったが、最近は「JIMMY CHOO LONDON」という刻印があって、JとCのモノグラムが多用されている。いずれも日本では大きな売り上げはないが、欧米ではそれなりの存在感を主張しているブランドである。特に「マイケル・コース」及びその派生ブランドと「ヴェルサーチェ」及びその派生ブランドは、いずれもクリエイティブ・ディレクターであるマイケル・コース及びドナテラ・ヴェルサーチェが健在なうちはニラミもきくが、デザイナーとして萎んできた時はどうするのか?という難題が控えているように思う。
「コーチ」と「MK」、「スチュアート ワイツマン」と「ジミー チュウ」という具合にモロに競合ブランドがひとつの企業下で一緒になると良いこともあれば悪いこともありそうでこれはなんとも言えない。
LVMHやケリングそしてリシュモンというヨーロッパのラグジュアリーブランドのコングロマリット企業と違って、今回合併した2企業にははっきりとラグジュアリーブランドと呼べるブランドはない。デザイナーブランドとアフォーダブル・ラグジュアリーブランドそして高級シューズブランドである。このあたりがちょっとひっかかるのだ。
果たしてスケールメリットというのが出るような合併になるのかどうか、今後に注目したい。
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