ラグジュアリーブランドのビジネスはコロナ禍でも圧倒的な強さを見せつけた。ファッション&レザーグッズの分野では、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が約2兆円、「シャネル(CHANEL)」、「グッチ(GUCCI)」、「エルメス(HERMES)」が約1兆円という全世界での売り上げが示すように、ブランドの集中化が進んでいる。この流れはしばらく続いていきそうだ。
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「ヴァレンティノ(VALENTINO)」がラグジュアリー・ブランドの範疇に入るかどうかは微妙なところだ。しかし前述した「ルイ・ヴィトン」「シャネル」「グッチ」「エルメス」はアルティメット(スーパー)ラグジュアリーで別格の存在とするならば、「ヴァレンティノ」は十分ラグジュアリーブランドの資格があると言えるだろう。
この「ヴァレンティノ」に、LVMHとともにラグジュアリー・ブランドビジネスを牽引するケリングが手を伸ばしているのは2018年末あたりに報じられていた。そしてケリングは7月末にヴァレンティノ社の株式30%を、同ブランドを擁するカタールの投資会社メイフーラ・グループ(MAYHOOLA GROUP)から17億ユーロ(約2635億円、1ユーロ=155円換算)で買収した。契約にはケリングが2028年までにヴァレンティノ社の株式100%を取得するオプションが含まれ、メイフーラがケリングの株主になる可能性も含まれているという。
現在のクリエイティブ・ディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)は2016年に、最高経営責任者のヤコポ・ヴェントゥリーニ(Jaccopo Venturini)は2020年に就任している。
ヴァレンティノ社の2022年の売上高が14億ユーロ(約2170億円)だったことを考えると、今回の総株式の30%が2635億円というのは適価というよりも、ちょっと安いのではないかというのが私の感想だ。
ケリングのライバルであるLVMHが動いてもおかしくはないだけの価値があるブランドである。そして動きはなかったのではないかというのが私の推測だ。
その理由は、現在LVMHの「旗艦」的存在である「ディオール(DIOR)」のオートクチュールとプレタポルテのアーティスティック・ディレクターを務めるマリア・グラツィア・キウリ(1964年生まれ)の存在が大きかったのではないかというのが私の見立てだ。
「ヴァレンティノ」では創業デザイナーのヴァレンティノ・ガラヴァーニが2008年に引退した後に、ピエールパオロ・ピッチョーリとキウリは、デュオとして2代目デザイナーに抜擢された。以後、創業デザイナーの後釜として更なる発展に大きく寄与した。
しかし、2015年秋にラフ・シモンズが「クリスチャン ディオール」のアーティスティック・ディレクターを退任すると、その後任として注目されたのがデュオのひとりであるキウリだったのだ。キウリは2016年秋に「ディオール」のプレタのデビュー、2017年1月に「ディオール」のオートクチュールのデビューを果たす。一方、ピッチョーリはデュオは解消されたものの、単独で「ヴァレンティノ」のアーティスティック・ディレクターとして現在に至っている。
LVMHは、「ヴァレンティノ」を買収すればピッチョーリを陣営に引き入れることになり、それはLVMHの「旗艦」ブランドである「ディオール」のアーティスティック・ディレクターであるキウリの手前、はばかられたのではないかというのが私の推測だ。キウリの「ディオール」抜擢の時になんらかの亀裂が2人の間にはあったのではないだろうか。そんな推測を私は勝手にしているのだが、どうだろうか。いずれにしてもケリングとの関係ができたことで、「ヴァレンティノ」にはいよいよ真のラグジュアリーブランドとしての道が開けたように私には思われる。
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