1983年に誕生し、発売から40周年を迎えた「G-SHOCK」。日本では1990年代後半に一大ブームを巻き起こし、今やグローバルブランドとして世界中にファンを持つ。スマホやスマートウオッチなどの出現により浮き沈みも経験するなか、2022年には世界累計出荷個数1億4000万個を突破。時代のニーズを機能に盛り込みながらも「変わらない」G-SHOCKのコンセプトも守り続ける。長年に渡ってG-SHOCKの商品企画に携わる、カシオ計算機株式会社 時計BUの齊藤 慎司氏に、開発への想いを伺った。
ADVERTISING
齊藤 慎司氏/カシオ計算機株式会社 時計BU 商品企画部部長 兼 チーフプロデューサー
大学時代は機械工学を専攻。G-SHOCK ブームに沸き立つ1998年、カシオ計算機に入社。企画部門に配属となり、新入社員時代からBABY-Gの企画を担当。その後、モータースポーツをコンセプトにしたEDIFICEブランドの担当を経て、2007年からG-SHOCKの商品企画を担当する。現在は商品企画部の部長として、G-SHOCKをメインにカシオの全時計ブランドを束ねる。
腕時計といえば、「落とす=壊れる」が常識だった
― 1990年代に一大ブームを巻き起こし、その後も進化し続ける「G-SHOCK」ですが、そもそもG-SHOCKは、どのような経緯で誕生したのでしょう。
G-SHOCKの生みの親は、伊部という設計担当の社員です。カシオでは、昔も今も社員による新商品の提案がよく行われているのですが、あるとき伊部が、彼の父からもらった時計を落として壊れてしまったことがきっかけで、「落としても壊れない時計を作りたい」という主旨の企画書を出したのです。
当時の腕時計は、落とす=壊れる、が常識でした。伊部もひょんなことから落として粉々になった腕時計を見て、「時計ってやっぱり壊れるんだ」と感動したそうです。ところが伊部本人は、「落としても壊れない時計」は、作ろうと思えば簡単にできると考えたため、前述のような企画書を出しました。ところが作り始めてみると、なかなかうまくいきません。落下したときの衝撃を吸収する素材を腕時計の外側に装着するなどして、試作品を作っては開発センターの3階の窓から落として実験を繰り返すものの、見事に壊れるわけです。補強に補強を重ね、ソフトボールほどの大きさになった試作品もできましたが、そもそも腕時計がそんなに大きくては商品になりませんし、それほどまでに補強をしても落とすと中の部品のどれかが壊れてしまうのです。
伊部も必死で開発を続けていましたが、行き詰ってしまい、辞表まで出そうかとまで思い悩んでいたようです。そんなときに公園でゴム毬で遊ぶ女の子の姿が目に入りました。ゴム毬は、かなり高い位置から落としても壊れませんよね。それならゴム毬のようなもののなかにムーブメント(時計の心臓部分)があればよいのではないか、と彼は考えました。さらに、ムーブメントを完全に固定するのではなく、点で支えて浮くような状態で設置(中空構造)すれば衝撃が伝わらない、という結論に至ったのです。外側には衝撃をやわらげ壊れにくくするウレタン素材を使用し、中身は浮かせるように設置する。こうして1983年に初代G-SHOCKが誕生しました。
アメカジやミリタリー感のイメージで大ヒット
― 誕生したものの、しばらく日本では売れなかったと聞きました。
おっしゃる通り、日本では発売当時はあまり売れず、最初に火がついたのはアメリカなんです。G-SHOCKはアメリカでも販売されていて、発売当初の1983年頃、アイスホッケー選手が、G-SHOCKをパック代わりにしてシュートを打っても壊れないというテレビCMがアメリカで放映されました。あまりに衝撃的なCMで当時は誇大広告ではないかと疑われ、検証番組で実験も行われましたが、勿論CM通り壊れません。その結果G-SHOCK の頑丈さ、耐久性が注目され、人気になったのです。
その後、日本でも90年代に人気だったアメカジ特集などでG-SHOCKが取り上げられるように。「アメリカからやってきたG-SHOCK」といったふれ込みで、渋谷などのストリート系ファッションから人気が高まり大ヒットしました。もともとは日本製なのに、あえて海外ブランドのようなイメージでPRしたマーケティングの功績も大きかったと思います。
― ネーミングのインパクトも大きかったですよね。
当時のデザイナーが命名したのですが、G-SHOCKっていかにも強そうなイメージですよね。「G」はグラビティ(Gravity:重力)のGなのですが、それにSHOCKという言葉が重なることによって、G-SHOCKを身に着けている人が外見からして強いイメージだけでなく、メンタル的にも強そうな印象がプラスされますよね。
腕時計市場の変化
― 誕生して40年、ヒットして30年がたつ大きなブランドになりましたが、今でも開発への挑戦は続いているのですね。
実は90年代後半のG-SHOCKブームは数年続いたものの、急速にブームは終焉したのです。私もちょうどその頃カシオに入社したのですが、2007年からG-SHOCKを担当することになりました。
― 腕時計市場の変化についてはどのように感じていらっしゃいますか。時間ならスマホで見られるので、今は腕時計を身に着けない人も増えていますよね。
確かにマーケットは時代の変化によって変化しています。かつてのように腕時計が必需品という時代ではないですし、腕時計が必要なビジネスシーンも減っています。けれども、腕時計を身に着けるマーケットはまだたくさんあると考えています。
たとえば普段はスマホやスマート系ウォッチで時間を見ている人でも、海やキャンプなどアウトドアで腕時計が必要になった場合は、耐久性・防水に富むG-SHOCKを選ぶこともあるでしょう。つまりG-SHOCKには、シーンに応じたセカンドウオッチ的なニーズもあるのです。
開発の現場ではつねにライバルが出現します。時代の変化によってブランドが淘汰されていく可能性もあるなかで、どのようにブランドを強くして生き残り、進化させていくか。これが開発現場の仕事ですし、やりがいでもあります。
原点は「タフネス」
― G-SHOCKの開発において、もっとも欠かせないものは何なのでしょう。
タフネスです。初代G-SHOCKも、「落としても壊れない、丈夫な腕時計」、つまりタフネスを原点として生まれました。G-SHOCKの開発に関しては、この「タフネス」がいつもベースになっています。今も開発現場では「タフネスってどんな意味だっけ?」と、タフネス議論が続いています。すると「そういえばこれもタフネスだね」「ここにもタフネスさが必要」など、さまざまな意見が飛び出します。ベースがあるからこそ、いつも原点に立ち返りながら開発することができるのです。
初代G-SHOCKから変わらないこだわりとは
― G-SHOCKには、ゆるぎないコンセプトが根付いているのですね。
とはいえ、それを守りながら開発するのは容易なことではありません。私たちはG-SHOCKユーザーへのヒヤリングや、研究開発により求められる機能をできるだけプラスしたいとつねに努力しています。時代に合った機能をピックアップしながら開発を進めていくわけですが、G-SHOCKというのは、どんなに進化しても「初代モデルのサイズと機能」へのこだわりが非常に強いのです。
― そこだけは変えてはならない、と。
はい。サイズだけではなく、落下しても壊れない基準(耐衝撃)と、20気圧防水も初代から変わりません。ニーズの高い機能をプラスするとなると、サイズを少し大きくしたり、防水を5気圧にできればと考えると思うかもしれないのですが、そこを妥協するとG-SHOCKではなくなってしまいます。より高度な機能を初代と同じサイズのなかに入れなければならないので、開発現場は大変なのですが、それをクリアにしなければ発売はできません。デザイン性を高くしたいからサイズへのこだわりを少し緩くしてほしい、は通用しないのです。
― だからこそ、開発現場にもG-SHOCKというブランドに携わるプライドがあるのですね。
そうかもしれません。ブランドに携わる現場であればどこも同じだと思いますが、「ブランド=信頼」だと思っています。信頼というのは、顧客と作り手との約束です。サイズも耐久性もG-SHOCKに求められているものだからこそ、その約束を決して裏切ってはなりません。
今世に出ているG-SHOCKシリーズは、すべて「G-SHOCKだから変えてはいけない」をクリアしている製品です。だから私たちも自信を持って市場に送り出すことができているのです。
潜在層にG-SHOCKの魅力を伝えたい
― G-SHOCK ファンにとっても嬉しい言葉ですね。最後に、G-SHOCKの展望をお聞かせいただけますか。
G-SHOCKのラインナップは現在1万円台~50万円台と幅広く、機能もさまざまです。GPSやBluetoothとの連動など、スマート機能を搭載したり、メタル仕様のモデルもあります。
ありがたいことにG-SHOCKのユーザーは世界中に広がっていますが、G-SHOCKを知らない方もまだまだたくさんいらっしゃいます。機能を含めた豊富なラインナップをPRしてより多くの方に知っていただき、G-SHOCKの知名度をアップさせていきたいです。たとえば最上級ラインのG-SHOCKは50万円台の商品ですが、若い時にG-SHOCKを愛用していて、今は別の高級ブランドを使用している層にもニーズがあります。ロレックスやスイスの高級時計を愛用している人たちも、スポーツシーンなどにはG-SHOCKを使うなど、実は時計愛好家の方々にもG-SHOCKファンは多いのです。
だからこそ新しいユーザーとどのように接点を持ち、G-SHOCKを手に取っていただけるのか、あらゆるタッチポイントを模索してG-SHOCKの魅力を伝えていく方法を模索しているところです。ファッションから宇宙まであらゆるところに可能性があると思います。幅広い顧客層に、さまざまなシーン、さまざまな場所で身に着けていただけるG-SHOCKを届けていきたいですね。
文:伊藤 郁世
撮影:加藤 千雅
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【NESTBOWL】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境