創業以来、アウトドア業界の常識を次々と覆し、アウトドアスポーツの可能性を広げてきたARC’TERYX(アークテリクス)。卓越したクラフトマンシップとデザインへのこだわりで、高い機能性とファッション性を両立させた製品は、コアなアウトドア愛好者からもファッション感度の高い人々からも支持を集めている。そんなアークテリクスのHead of Retail、Outdoor Sales Managerのお二人に、ご自身のキャリア、ブランドの魅力や強み、成長戦略、働き方、求める人材像などについて、お話を伺った。
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小林 将宏さん/アメアスポーツジャパン株式会社 Head of Retail ARC’TERYX(写真:右)
大学卒業後、ユニクロでキャリアをスタート。その後ラルフローレン、DFS、シャネルで経験を重ね、ファッション・ラグジュアリーブランドのリテールでキャリアを築く。さらにアウトドアブランドを経てアメアスポーツジャパンに入社。アークテリクスのリテールヘッドとして、直営店18店舗を統括する。
水谷 明生さん/アメアスポーツジャパン株式会社 Outdoor Sales Manager ARC’TERYX (写真:左)
学生時代は陸上競技選手として活躍し、新卒でゴルフグッズを取り扱う会社に入社。同社在籍中にアウトドアに目覚め、退職後ワーキングホリデーでカナダへ。帰国後法人営業としてのキャリアをスタートさせ、アウトドアブランドの経験をを経て、アメアスポーツジャパンに入社し、現職に至る。
ラグジュアリーブランドのリテールからアウトドア業界へ
― まずはリテールヘッドの小林さんに伺いますが、これまでどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。
小林 将宏さん(以下、敬称略):大学卒業後、新卒でユニクロに入社しました。スタートは店舗配属で、「店長とは」「経営とは」「リーダーシップとは」などリテールビジネスの基礎を徹底的に叩き込まれる中で、自分はどんなブランドに携わりたいのかを考えるようになり、憧れだったラルフローレンへ転職しました。
ラルフローレンはアメリカのライフスタイルそのものをファッションにしたブランドです。VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)に興味をもった私は、ブランドをいかに店内で表現するかを学び、アウトプットしながらスキルを磨きました。同時に歴史とフィロソフィーあるブランドのリテールビジネスに携わりながら、マネジメントの手法を実践を繰り返しながら身に着けました。
その後転職したDFSでは、トラベルリテーラーとして複数のラグジュアリーブランドを担当したのですが、自分がやりたいのはブランド側で世界観を表現したりマネジメントしていくことだと気づき、シャネルのトラベルリテールマネージャーにキャリアチェンジ。時代を超越して生活者を魅了するブランドとして、どのようなストアやサービスをお客様にご提供していくべきかというこだわりを学びました。
そんな最中にコロナ禍となり、自分のキャリアについて模索していた時、アウトドアブランドがリテールマネージャーを求めていると聞き、それまであまりアウトドアに積極的ではなかったのですが、歴史あるブランドであるということに興味を持ちチャレンジしました。
ギアブランドでありながら優れたファッション性を持つアークテリクスに魅力を感じて
― アークテリクスへ転職したきっかけやブランドへの想いについてお聞かせください。
小林:ファッションブランドで働いていたころに、周囲の友人や先輩がアークテリクスを使い始め、ファッションの文脈からアークテリクスの存在を知るようになりました。アウトドア業界に身を置くようになり、私自身も登山が趣味になったのですが、登山する際に身に着けるものはアパレルというより、命に関わるギアという感覚。しかし、私にとって身に着けるものはファッションとしての自己表現なので、機能だけではないこだわりのあるものを身にまといたいと考えています。デザイン、クラフトマンシップ、パフォーマンスという3つのものづくりのフィロソフィーから生み出されたアークテリクスの製品は、機能性もデザイン性も私自身にとてもフィットして、これ以外にないと思えるブランドだったので転職を決意しました。現在はリテールヘッドとして、日本国内のフルプライス、アウトレット合わせて18の直営店を統括するポジションを担当しています。
― 外からみたアークテリクスと中に入ってみてのアークテリクス、違いはいかがですか。
小林:一消費者としてのアークテリクスのイメージは「シンプルなデザインやカラーが美しいファッション」。しかし、入社してみると自分が想像していた以上に、働いている社員はアウトドアに打ち込んでいて、いい意味でギャップがありました。真っすぐにアクティビティと向き合ってブランドを打ち出そうとしていて、バランスを取りながらリテールビジネスを展開しているなという印象を受けました。
― 水谷さんはこれまでどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。
水谷 明生さん(以下、敬称略):私は学生時代10年間陸上競技をやってきたのでスポーツ業界に就職したいと考え、新卒でゴルフ用品の会社に入社し、販売を担当しました。ただゴルフにはほとんど興味がなく、在籍中にスノーボードに通うようになったことがアウトドアを始めたきっかけです。その後群馬県に転勤となり、スノーボードを存分に楽しんでいたので、思い切って会社を辞め、ワーキングホリデーでカナダへ渡り、約1年半滞在しました。
カナダの大自然の中でアウトドアを経験したことを機に、帰国後はアウトドアメーカーの法人営業職に就きたいと思うようになり、そこで入社したのがスキーウェアで知られたブランドでした。その後は、海外のアウトドアブランドを取り扱う会社や国内アウトドアブランドの会社で法人営業を担当し、現在はその経験を生かし7年前にマネージャー職としてアークテリクスでのキャリアをスタートしています。最近はショップインショップという形でお取引先様店舗の中でコーナー展開するケースもあるので、その管理も担当しています。
― ご自身の好きなことが仕事になっているのですね。
水谷:おっしゃるとおり、趣味が仕事に活きるのは幸せなことだと思います。アークテリクスは、止水ファスナーを発案するなど、アウトドア業界で革新を起こしてきたメーカーです。ジャケットを着て手を挙げてもズボンを履いて屈伸運動をした時でもストレスがない。アークテリクスはアウトドアブランドのマトリクスの中で憧れのブランドに位置しています。そんなブランドから「専門店への流通を強化したい。ついてはセールスマネージャーとして迎えたい」とお声がかかったのは素直にうれしかったですし、これほどおもしろい仕事はないと思いました。
フィールドニーズを中心としたものづくりの純粋さに感銘。働き方に変化も
― 入社後、イメージの違いなどはありましたか。
水谷:イメージ通りでしたね。デザイナーがビジネス視点ではなく、フィールドニーズを中心としたものづくりに特化したブランドであることに感銘を受けました。ものづくりへの純粋さという点ではイメージ以上。ですから、成功だけでなく失敗も多いブランドなのですが、そんなところも私は好きなのです。
また、アルファシリーズ、ベータシリーズというアークテリクスを象徴する商品があります。発売開始より数回の商品仕様のアップデートはありましたが、発売開始から商品名は変わっていません。作り手の思い「BUILD IT RIGHT,BUILD TO LAST」が商品名を更新しないことに繋がっているのだと思います。
― アークテリクス創業時はハーネスのブランドで、そこからさまざまな製品を生み出していったそうですが、それも現場のニーズに応えての開発だったのですね。
水谷:2人のクライマーが、よりよいハーネスを求めて自分たちで製造し、駐車場で手売りしたのがアークテリクスのスタート。ウェアブランドではなく、ギアブランドなのです。始祖鳥のロゴにも、ブランドが革新的に進化するという強いメッセージが込められています。
小林:まさにギアブランドである一方で、アウトドアブランドでは珍しく、コンセプトや背景を持ったシーズナルカラーを展開しているところも特徴的。デザインチームには色彩デザインを行うカラーチームが約15名おり、縫い糸ひとつに至るまで色へのこだわりを持って製品を作り上げています。アウトドアとファッションが両立しているアークテリクスらしさだと感じます。
― 水谷さんは地方に住みながらリモートワークされているそうですが、そのきっかけは?
水谷:カナダ・ノースバンクーバーにある本社へ出張すると、車を数十分走らせれば山があり、海がある。素晴らしい環境なんです。自分もフィールド寄りの生活がしたいと思っていたところコロナ禍に突入して、仕事のやり方が変化したこともあり、会社に相談し、承諾を得たうえで今の生活にたどりつきました。
法人営業は自分自身がブランドをいかに理解したうえでお取引先様と商談するかが重要になりますが、その時にフィールドの経験値が役立つのではないかと考えました。地方に住みながらリモートワークというのは、マーケットの変化にあったスタイルであるように感じます。私には部下が3人いるのですが、一人は北海道、一人は九州、もう一人が東京在住です。全員が自立しており、自分で考えて行動できるタイプの人間であるため、成り立つチームかもしれません。
積極的な店舗展開でタッチポイントを増やし、さらなる成長を目指す
― すでにプレミアムアウトドアブランドとしての地位を確立されていますが、さらに業績を伸ばしている理由・背景はどんなところでしょうか。
小林:昨年アークテリクスは新たに4つのストアを都内と関西にオープンしました。ストアは世界観やフィロソフィーを表現し、プロダクトを直接手に取ってブランドそのものを体感いただける場所。それぞれのエリアで生活者の方々が足を運びやすい立地に出店を増やしてきたことで、結果として本来ブランドが持っている価値に触れていただけるタッチポイントや機会が増えたことが大きいと考えています。
また、価格を抑えるために品質を犠牲にすることなく、フィロソフィーに基づき一貫して高品質にこだわったものづくりをしているところも、ご支持いただいている理由だと思います。
― 今後の店舗展開、成長戦略についてお聞かせください。
小林:現在フルプライスの直営店が全国に13店舗あります。今年の秋には銀座と心斎橋に新たに2店舗の出店を予定していますが、中長期的には国内で25~30店舗に増やす計画を立てています。アークテリクスというブランドのポテンシャルを考えれば、けっして大風呂敷を広げているというわけではありませんが、重要なことは単純に店舗数を増やすことではないと考えています。
最高のパフォーマンスを求めてハードユースいただくコアユーザーの方にとっても、シンプルなデザインでご愛用いただくファッションユーザーの方にとっても、他には代えがたいプレミアムアウトドアブランドとして浸透させていきたいと考えています。特にリテールストアは我々の言葉で直接お客様にブランドを伝えられる唯一の場所です。だからこそ、アークテリクスでしか得られないプレミアムな体験をお客様へご提供していくことが我々の使命だと思いますし、それに取り組めることがおもしろさだと感じています。
アウトドア経験者だけでなく、未経験者でもアクティビティを体験できるフィールド研修を実施
― チームのメンバーやスタッフの方々はどんな方が多いのですか。やはりブランドへの憧れを持っていたり、フィールドが好きな方が集まっているのでしょうか。
水谷:フィールド愛好者、アウトドア愛好者は多いとは思います。法人営業はチャネルで担当が分かれているのですが、たとえばファッション系チャネルの営業スタッフでも、趣味はクライミング、ランニング、スキーやスノーボ―ドという人は多いですね。
小林:リテールスタッフの中には、アウトドア未経験でアークテリクスに入社した人もいます。ただ、製品のスペックは読んで伝えることはできても、フィールドでの使用感やどのように機能を体感できるかは、実際に経験しないと伝えられません。そこで四半期に1回程度、スタッフ向けのフィールド研修を実施しています。5月には実際にハーネスを着用した外岩でのクライミング研修を行いました。そうした体験や経験を後押ししていく研修には力を入れています。実際に自社製品をつけてアクティビティをすると、なによりブランドに対する愛着がすごく湧きます。スタッフこそ最大のブランドのファンですし、そんなスタッフから紡ぎ出される言葉が、お客様にとって魅力的でないはずがないと考えています。
水谷:研修は年々充実してきています。リテール店舗が増えてきているので、より一層そうした機会が必要だと思っています。販売力強化に加えてチームビルディングという狙いもあります。ブランド背景から考えても、フィールド研修を取り入れていくのは必然だろうと思いますね。
これからのアークテリクスを担うのは、チャレンジマインドを持ち、妥協せず考え続けられる人材
― 今後の成長戦略として店舗拡大を推進するとのことですが、そこには人が必要です。求める人材やどんな人と一緒に働きたいかについてお伺いします。
小林:5月のクライミング研修では、参加した未経験の新人スタッフたちがハーネスをつけて一生懸命登ろうとしている姿、励まし合う姿、称え合う姿がありました。あるスタッフは一番難しいルートに「挑戦することに意義がある」と言って挑んでいきました。まさに求める人材だと思いましたね。アウトドアへの志向性は必要だと思いますが、チャレンジする気持ち、挑戦する心が非常に重要だと思います。
今後描いていく成長やお店での取り組みは、我々にとって経験のないことばかり。言われたことをやるのではなく、自ら考え、どうしたらアークテリクスがもっとよくなるのかを前向きに考えて行動できる人、チャレンジマインドを持った人が成長すると思います。
水谷:環境や人間関係含めて多様性のある時代ですし、コロナ禍での変化もあり、対応能力が求められるとよく言われます。ただ私は、それよりも考えることを止めないことが重要だと思います。つけ加えるなら行動力。迅速に行動できる人はアークテリクスには合っていると思いますね。
小林:アークテリクスのいいところは、チャレンジを称え合うところです。ベテランから新人までレベルの差はあれど、お互いの強みを活かしながら、自分ができないところも認めてお互いに支え合っている。一緒に働いていてそう感じます。
水谷:支え合う関係はどちらかの負荷が大きいと崩れやすい。強い組織にしていくためにはお互いが強くなっていかなければなりません。当社の文化は海外のフィールド文化からきているところもあり、社内に称え合うという雰囲気が自然と起こりつつあるのかなとも思います。自分に妥協しない努力や成長を求める人間は必ず見ている人がいます。ブランドマネージャーもしっかり引っ張ってくれますし。妥協しないという言葉がアークテリクスの全てとも言えます。店づくりも接客も営業も全て妥協しないメンバーたちがアークテリクスブランドを担っているとのだと思いますね。
文:カソウスキ
撮影:Takuma Funaba
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