現代美術家の蔡國強が、国立新美術館で大規模個展「蔡國強 宇宙遊―<原初火球>から始まる」を開催する。日本国内での展覧会は2015年に横浜美術館で行われた「蔡國強展 帰去来」以来、8年ぶりとなる。開催に際して、6月28日の今日、メディア向けに内覧会が行われ、蔡國強、サンローラン(Saint Laurent)の社長兼最高経営責任者 フランチェスカ・ベレッティーニ(Francesca Bellettini)、国立新美術館 館長 逢坂恵理子が登壇するプレスカンファレンスが催された。
蔡國強は、火薬の爆発を用いた独自の手法で注目を集め、第48回ヴェネチア・ビエンナーレで国際金獅子賞を受賞しているほか、2008年北京オリンピックと2022年北京冬季オリンピックの開閉会式の視覚特効芸術と花火監督を務めるなど、今日における現代芸術の権威と表現して差し支えないだろう。「蔡國強 宇宙遊―<原初火球>から始まる」は、1991年に東京で開催された「原初火球 The Project for Projects」を、“蔡の芸術におけるビッグバン(原点)”と捉え、火薬や爆破を用いた作品の原点とその起因、今日に至るまでの展開を辿る展覧会となっている。会場では、日本初公開の新作を含む54点の作品を、壁や柱を取り払った2000平方メートルの空間に展示。5つのセクションに作品を区分し、蔡のライフワークでもある火薬絵画を披露するとともに、LEDを用いた大規模なネティック・ライト・インスタレーション「未知との遭遇」が会場の半分を使用して設置されることで、蔡の活動を辿る壮大な旅路のようなデザインとなっている。国立新美術館 館長 逢坂恵理子氏はワンフロアで作品を展示する会場構成について「従来のインスタレーションとは異なるものを試みた」とコメントした。
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サンローランが支援した理由
同展は、国立新美術館とサンローランが共催している。プレスカンファレンスに登壇したサンローランの社長兼最高経営責任者 フランチェスカ・ベレッティーニは、今回の支援について「創業者イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)は、ファッションと芸術の関係性を革命的に変えた人間である」とした上で「アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)が率いる現在でも、アートや映画、音楽などのクリエティビティの支援はブランドの使命とも言える」と考えを示す。
「イヴ・サンローランもアンソニー・ヴァカレロも、心が動かされること、自由に協働することを重要視しています。芸術はやる必要がないという人もいるかもしれないが『やりたいからやる』というパッションは潰えるべきではなく、それはブランドにおけるクリエイションにも直結するでしょう」(フランチェスカ・ベレッティーニ)。
同展において、同ブランドのアイテムが登場しないことはもちろん、展覧会全体を通じて同ブランドの主張が極めて希薄なことを加味すれば、フランチェスカ氏が語る「心が動かされること、自由に協働すること」が体現されているようにも感じる。同氏は蔡氏との継続的な取り組みについても意欲をみせた。
蔡國強と宇宙
蔡國強が1986年から、アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の交際交流プログラムの一環で“日本人として”ニューヨークに留学した1995年までの約9年間を日本で過ごしていることに象徴されるように、蔡と日本の関係性は深いものがある。プレスカンファレンスに登壇した蔡は「同展のために日本移住直後の日記を読み返した」と明かし、そこには混乱しながらも文化や新たな思考などを収穫している様が綴られていたそうだ。
「あるインタビューで『過去を振り返ると一番重要な時はいつか』と問われ、私は『日本にいたこと』と答えました。それくらい、私のアーティストとしての原点は日本にあります。当時の日本は、現代化と国際化が進み、『西洋化しすぎたかもしれない』と反省しているようにも見えました。日本の問題は、すぐ私の問題になりました。日本が、東洋の精神も保ち続けようとする様に影響されるように、私自身も素材や生地、かたちの美しさをより重要視するようになりました」(蔡國強)。
蔡は当時を振り返り「生活も貧しく、板橋区の四畳半のアパートに妻と2人で住み、小さな台所で子供用の花火やマッチの頭薬を用いて作品制作をしていた」と当時を振り返る。
続けて、火薬や風水、宇宙などをキーワードに取り扱っている自身の作風について「真面目に制作をしないと、あまりにも怪しい人になってしまう」と笑いを誘いながらも、同展に「宇宙遊」というタイトルを名付けた理由について説明した。
「日本に暮らし始めた直後のアパートはとても狭かったが、宇宙と時間のことを考え続け、自分は宇宙ととても近いと感じました。宇宙に象徴されるような広い視点は、人々に何かしらの視点を与えてくれます。例えば、宇宙規模のスケールで測れば、東洋なのか、西洋なのかという議論を超越し、アートは過去・現在・未来を繋ぐタイムトンネルのような役割を果たします。混乱を極めている今だからこそ、宇宙規模のスケールで物事を捉え、対話することは意義があるのではないだろうか」(蔡)。
「蔡國強 宇宙遊―<原初火球>から始まる」は、6月29日から8月21日まで開催。
蔡國強
Image by: FASHIONSNAP
撮影:蔡文悠 提供:蔡スタジオ
撮影:蔡文悠 提供:蔡スタジオ
撮影:蔡文悠 提供:蔡スタジオ
「未知との遭遇」 撮影:蔡文悠 提供:蔡スタジオ
「未知との遭遇」 撮影:蔡文悠 提供:蔡スタジオ
「銀河で氷戯」 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
「大脚印:外星人のためのプロジェクト No. 6」 撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
「胎動II:外星人のためのプロジェクト No. 9」 撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
「大脚印:外星人のためのプロジェクト No. 6」 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:蔡文悠 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
撮影:蔡文悠 提供:蔡スタジオ
撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
スケッチブック(1987~1995年、日本) 撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
スケッチブック(1987~1995年、日本) 撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
「宇宙遊 —〈原初⽕球〉から始まる」国立新美術館での展示風景、2023年。 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
《未知との遭遇》 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
撮影:蔡文悠 提供:蔡スタジオ
「蔡國強といわき」 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
《未知との遭遇》 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
《未知との遭遇》 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
《未知との遭遇》 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
《歴史の足跡》のためのドローイング 撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
《烽火台を再燃する:外星人のためのプロジェ クト No. 8》 撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
《cAI™の受胎告知》 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
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