ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする対談シリーズ「Career Naked」。今回ご登場いただくのは、ニューヨークで誕生した「Coach」「kate spade new york」「Stuart Weitzman」を運営する、タペストリー・ジャパン合同会社、コーチ ジャパンのプレジデント エマヌエル・リュエラン氏。日本やシンガポールなど、アジアを中心にチャレンジを積み重ね、キャリアを築いてきた同氏。社員それぞれのバックボーンを尊重し、多様性溢れるカルチャーを作り上げ、グローバルなマルチブランド企業へ進化させていったエマヌエル氏の素顔に人材コンサルタントの北川加奈氏が迫る。
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エマヌエル・リュエランさん/タペストリー・ジャパン合同会社 コーチ ジャパン/アジア プレジデント
フランス出身。大学ではエンジニアリング、ファイナンスを学ぶ。在学中にビジネスマネジメントに関心を持ち、卒業後はIAEパリ/ ソルボンヌ・ビジネス・スクールにてビジネスを専攻。2002年、フランスに本部を置くグローバルコスメブランドに入社し、日本でのキャリアをスタート。その後、複数のコスメブランドを経て、2016年に「コーチ(現:タペストリー)」に入社。2020年に現職へ就任。
北川 加奈さん/エーバルーンコンサルティング株式会社 ヴァイスプレジデント・人材コンサルタント
静岡県出身。英国への留学を経て、英語教師としてキャリアをスタート。その後、人材業界に転身し、外資系人材コンサルティング会社にてキャリアを積んできた。2021年エーバルーンコンサルティングの上級職に就任。ラグジュアリー、ファッション、ライフスタイル、コスメティック業界に専門性を持ち、外資系クライアントのエグゼクティブサーチを中心に強みを発揮している。また「歩く人材データベース」とも呼ばれ、業界でも屈指のネットワークを誇り、キャリアを通じての人材紹介数は3,000件を超える。平日にはハイブランドのファッションを愛するかたわら、週末にはアウトドアを愛し都市と自然の調和の取れた生活を、愛犬とともに送っている。
常にベストを尽くして1歩ずつキャリアをのぼる
― まず、エマヌエルさんのこれまでのキャリアについて教えてください。学生時代はエンジニアリングの勉強をされていたようですが、ビジネスに興味を持つようになったのはどのようなきっかけですか?
フランスで育ち、学生時代はエンジニアリングの勉強をしていました。ジェネラリストとしてメカニカルな部分からデザイン、生産まで学んでおり、自動車メーカーでのインターンにも参加した経験があります。ただ、少しずつ自分自身のことを知っていくうちに、エンジニアリングそのものよりもビジネスに興味を持ちはじめ、もっとビジネスマネジメントを学びたいと考えるようになったのです。
そこから、ビジネススクールに通いはじめ、インターナショナルコマースやマーケティングを学びました。ビジネススクールで学んだことで自分のキャリアパスが広がりましたね。
― フランスで過ごされていましたが、海外で仕事をするようになったきっかけは?
フランスにいたときから海外で仕事がしたいと考えており、常に機会を探っていました。そのなかで私がもっとも興味を惹かれたのが日本。日本の町並みや市場の規模感、カルチャーの違いをもっと知りたくなったんです。
そんなときに、グローバルコスメブランドから「プロジェクトマネージャーとして、日本市場に向けた新商品の開発に携わらないか」とオファーを受けました。テクニカルなスキルを使いながら新商品の開発や現地のマーケティング、営業など化粧品会社の一員として幅広く携われる内容に興味を持ち、このチャンスに飛びつきました。
プロジェクトマネージャーとしてのアサインメントは9ヶ月間でしたが、このオファーをきっかけに、今までの20年、アジアで過ごすこととなります。自分にとってチャレンジングな経験ではありましたが、振り返ると昨日のことのように感じますね(笑)
― 化粧品会社在籍時には、さまざまな経験を積まれたと思いますが、そのなかでも自分のキャリアに影響があった出来事は何ですか?
まず一つ目に、日本で仕事ができたことです。当時は言語の壁もあって、日本に来てはじめの1週間くらいは文化の違いに慣れるのが大変でした。ただ、日本にくる決断が、自分の人生に大きく影響したと思います。
次に、勤めていた化粧品会社では、メンターとなる大切な人との出会いもありました。メンターからのガイドもあり、自分自身のことを深く知ることができましたね。そしてメンターから学びながら、異国のビジネスに関われたことは、私にとって意味のある経験でした。
最後に、もっとも大きな出来事は、ビジネスマネジメントの役割に着任したこと。私が望んでいたことではありますが、その役割は、多くのステークホルダーを巻き込むため、信頼関係と適切なタイミングを見計らうことがとても大事でした。周りの方々からのサポートを十分に受けられたからこそ、結果を出すことができたと思います。
多様な経験を積んだことから多くを学んだので、現職でも部門を超えた人材活用を強く推進しています。
― 当時はどのようなキャリアプランを描かれていたのですか?最初からプレジデントを目指されていましたか?
キャリアのイメージを持つのはなかなか難しいですよね。なので、私はどんなチャレンジにもオープンで前向きな姿勢で仕事に取り組んでいました。志を持ち、それに必要なスキルを習得することが重要です。あとは、タイミングを見極めて計画的に型破りなリスクを取ること。キャリアをスタートしてから、自分が好きな分野は何か、組織からどのようなオファーがあるのかも重要です。
常にベストを尽くしていると、キャリアをイメージできるようになります。実際に自分のイメージが持てるようになったのは、キャリアをスタートしてから4年ほど経ったタイミング。徐々に大きな規模のビジネスをやりたい気持ちが生まれたのですが、急に大きなものを目指すのではなく、余白を持たせながらキャリアを考えていました。
最初から大きな野心を持って突き進むことができる人をうらやましく思う気持ちもありますが、私は私の野心があって、自分のことも理解しています。自分のタイミングで1歩1歩確実にステップを踏んでいくのが私に合ったやり方です。
― その後、複数のコスメブランドをご経験されていますよね。どのような違いがありましたか?
転職をした会社の一つは、オーストラリア発の小さな自然派コスメブランドです。人と環境のことを考えるその企業理念は、私の価値観と重なる部分がありました。ここでは経営メンバーの一員として、自分の事業部門だけでなく、工場まわりの戦略や企業全体の人材戦略など、総合的に経営に関わることができました。事業規模は小さいですが、起業家精神溢れるブランドでした。アングロサクソン流のビジネスカルチャーにはじめて触れ、多くのことを学び、素晴らしい経験をさせてもらいました。
コスメブランドからファッションブランドへ転身
― なぜアメリカのブランドである「コーチ」への転職をされたのですか?
80年の歴史があるコーチは、高品質なクラフトマンシップを大切にしながらも、お客さまへのアピールは誠実。先進的なアプローチでありながら、少しカジュアル。同じリーテイル業界での経営に関しては共通点が多いものの、コスメ業界から別の分野を学ぶチャンスだと思い、コーチに入社しました。
コーチへ入社したことで異なる文化や異なる環境のなかで働くことは、素晴らしいことだと身をもって実感しました。アメリカにいるコーチの経営陣と議論したりするのは、自分にとってとても刺激的。自分らしくありながら、さまざまなビジネスのアプローチを学び続けることができる環境だと感じました。
― シンガポールでのポジションを経て、再度日本に来られましたが、以前と比べていかがでしたか?
日本に移ったタイミングは、コーチがスチュアート・ワイツマン、ケイト・スペードを傘下に収め「タペストリー」グループとして進化したときでした。新たなマネジメント体制を築くため、会社から現在のポジションの提案があり、私にとって身近で、人生の影響を受けた日本へ行くことは、リーダーとして成長し続けることができる大きなチャンスだと思い、オファーに「イエス」と答えました。
コロナ禍のためシンガポールから日本に行くまで9ヶ月間待たなければならず、日本と韓国のビジネスをリモートで管理する必要がありました。私の直属チームは大変だったと思いますが、この期間のおかげでチーム全体が成長でき、大変な時期をチームみんなで乗り超えることができました。
― プレジデントとして大切にしていることを教えてください。
2つあります。ひとつめは、それぞれの国でブランドを成功させること。明確なビジョンをもとに、ターゲット層を定めて戦略を練り、チームと一緒に各マーケットにふさわしいブランドになるために多くの時間を費やしています。
もうひとつは、チームを育て、強い組織をつくること。私はオーケストラの指揮者というような立場で、それぞれの才能を引き出し、開発しながら強いチームを作り上げることに情熱を注いでいます。それぞれのメンバーが成長し、力を発揮しているのを見ると、私も嬉しくなり、大きなやりがいになっています。
一人ひとりが自分らしく輝き、多様な視点が集まるからこそ生まれる未来のために
― タペストリーは、「人」を大切にされていますよね。社員に対して、どのような想いがありますか?
私たちはEI&D(Equity:公平性、Inclusivity:包括性、Diversity:多様性の頭文字)を大切にしており、とくに女性の活躍に関して積極的に取り組んでいます。社員にはワーキングマザーもたくさんいるので、彼女たちのキャリア、成功をサポートできるよう、あらゆる職種でリーダーシップレベルの男女比率が同等になるように取り組んでいます。
EI&Dアジェンダを大切にすることは、私たちの文化に強く根付いているといえるでしょう。アメリカ文化の一部として、多種多様な人を尊重する意識のレベルも高く、本当に心強く感じています。オフィスでもストアでも、人材育成とタレントマネジメントが最重要項目。さまざまな人材育成のプログラムを開発することに努めています。
― 異業種からの採用にも積極的なのはEI&Dを大切にされている証ですね。ファッション業界の多くは同じ業界出身者を採用したがりますが、御社が他業界に対してもオープンな理由が理解できました。
私たちは、多様な人材、多様なプロフィール、多様な経験や知識を持つ人を採用したいと考えています。というのも、異なる視点を持ち寄り、一人ひとりが自分の意見を発言できるような対話の場を設けることで、強いチームになると信じているからです。
採用の際には、能力や興味、ポテンシャルを見て評価します。ファッションに関する知識は必須要件ではありませんが、もしマーチャンダイジングやバイイングに興味があるなら、商品に対する興味は持っていてほしいところ。実際に面接していると、「どのくらい商品のことが好きなのか」「興味やポテンシャルがあるのか」というのは伝わってきますからね。
私自身、コスメ業界からファッション業界への転身は大きな変化でした。実際にストアへ出向き、自分の手で商品を触って、どれだけ商品が好きなのかを確認することに時間を費やしました。
― タペストリー社内のキャリアパスも、横断的に考えられていますよね。
毎日お客さまとつながっているストアチームの経験をとても大切にしています。オフィスで働く社員もストアのことを知っておく必要があり、繁忙期にはストアのヘルプをするような取り組みも行っています。私個人的にも、だいたい2週間ごとに、リーダーシップ・チームと一緒にストアに行っています。
オフィスに採用ポジションがあるときは、社内のどの職種であっても応募する権利があります。ストアならではの視点や発見を会社に活かすことができると考えているので、ストアチームのメンバーからも手を挙げやすいよう工夫しています。また、コーチとケイト・スペードのストア間で、興味のある方は別のブランドで2週間勤務経験ができるプログラムも用意しています。
今はビジネスがオムニチャネル化してきて、デジタルの重要性も高まっています。しかし、私たちのブランドにとって、ストアはビジネスの最も重要な部分であることに変わりはありませんし、今後もそうあり続けます。
― 最後にエマヌエルさんの今後のビジョンを教えてください。
コーチのビジョンは、日本だけでなく、世界で最も愛されるニューヨーク発のライフスタイルファッションブランドになること。ファッションとラグジュアリーに新しい価値を提案する、表情豊かな「Expressive Luxury」というポジショニングを確立し、一人ひとりが自分らしく自信を持って過ごせるよう、パートナーとなって寄り添うことに力を注いでいます。
社員が自分らしく成長し輝けること、そしてブランドとしてお客様が自分らしく自信を持てるよう寄り添うことに社長として強い気持ちを持って取り組んでいます。
私たちはお客様から愛され、求められるブランドになるために、常に状況をキャッチしながらブランドのイメージや魅力を高めるエキサイティングなジャーニーを歩んでいます。
― そのようなビジョンを達成するためにはどのような人材がマッチしますか?
最も重要なのは、パッション。そして誠実に仕事をし、会社の価値観に心から共感し、尊重できる人です。ここまでカルチャーのすばらしさを話してきましたが、もちろんチャレンジもありますので、よく準備することも必要です。成果に対する報酬を考える会社であり、パフォーマンスを発揮することが期待されます。
そして、常に学んで成長し、既成概念にとらわれない考え方ができる人。歴史があるブランドですが、さまざまな側面で成長しているブランドです。なので、時には大胆に、変化のスピードを楽しみながら未来を牽引できる人がマッチすると思います。
あとは、パッションを持ちながらもデータ・マインドセットをしっかり持つことが大きな力になるでしょう。
覚悟と挑戦が必要とされる環境がモチベーションにつながる方なら、きっとエキサイティングなジャーニーになると思います。
文:Nana Suzuki
撮影:Takuma Funaba
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