「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」をはじめ、「ディオール(DIOR)」「フェンディ(FENDI)」「セリーヌ(CELINE)」「ロエベ(LOEWE」」「ブルガリ(BVLGARI)」など多くのラグジュアリーブランドを擁するファッション業界大手企業「LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)」。今や75を超えるメゾンを擁するLVMHグループには、190の国籍、196,000人(※2022年)におよぶ人材が活躍している。つまりは、19万6千通りのキャリアストーリーがあるということだ。今回は、LVMHジャパンのピープル&カルチャー シニアマネージャーの山内彩さんがご登場。ピープル&カルチャーの役割やビジョン、ご自身のキャリアストーリー、そしてキャリアライフを豊かにするためのヒントをお伺いしました。
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山内 彩さん/LVMHジャパン ピープル&カルチャー シニア マネージャー
大学卒業後、父親が経営する婦人服製造販売ブランドでリテールについて学んだ後に渡仏。ソルボンヌ第三大学を卒業後、帰国しフリーランスでファッション関連企業向けのトレーニングやコーチングを手掛ける。その後、グッチのリテール トレーニング マネジャーとしてケリングに入社。2018年、LVMH入社。クリスチャン ディオール クチュールのリテール トレーニング マネジャーを経て、現職に至る。
美しく豊かに生きる喜びこそ、LVMHの企業文化
― LVMHにおけるピープル&カルチャーの役割について教えてください。
言葉の通り、LVMHで働く人(ピープル)とLVMHらしい企業文化(カルチャー)の醸成をしていくことです。基本的にはLVMHジャパンで働くエグゼクティブマネージャーおよそ2000人をメインターゲットに、かつ全社員9000人以上に向けて企業文化を浸透させていく役割です。
LVMHが大切にしている言葉に「Art de Vivre」という言葉があります。これはフランス語で「美しく豊かに生きる喜び」という意味の、まさにLVMHの企業文化を表す言葉です。LVMHでは多様な人々が自分らしく、そして美しく豊かに生きることを奨励しています。働く私たちがそれを体現することで、お客様にも「Art de Vivre=美しく豊かに生きる喜び」という価値を提供できるという考えです。
私がリードするチームでは、自分らしく働けて成長できる、自分らしいキャリアを築ける、その結果として世界をより美しく豊かにすることに貢献できる。そんな企業文化の醸成を目指し、さまざまな活動に取り組んでいます。
― 具体的に取り組まれている事例はどのようなものがありますか?
具体的には4つの柱があります。
1つ目は、Learning & Developmentといった各種研修です。入社研修やビジネススキル、マネジメント&リーダーシップ研修等といったものが主となっています。
2つ目は、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)戦略といい、「D&Iになぜ取り組むのか?」「具体的に何をするのか?」を社員に問いかける研修や場の提供をしています。D&Iについて理解するウェビナーや、コミュニティーやワークショップを通して、女性活躍促進、LGBTQ+、障害者雇用、多文化共生、世代ギャップなどの課題に対して、複数のメゾンで働く人たちが話し合い、具体的なアクションを起こしています。
3つ目は、Group Social Developmentという社会に対してポジティブなインパクトを起こすための活動です。例えば出産やその他の事情で仕事を辞めざるを得なかった女性の復職支援(10ヶ月間のプログラムの提供)や、中高生のキャリア教育(都内私立学校のファッション・ビューティの仕事に関心のある生徒向けに仕事について伝える、サスティナビリティ―の重要性)に関する啓蒙活動をしています。
4つ目は、Internal Communication。文化の醸成や人の育成が成功する鍵はコミュニケーションだと考えています。LVMHジャパンはグループが大きく、さらに41のメゾンがあり、情報共有がとてもチャレンジングだからです。だからこそ、ピープル&カルチャーは、社内イントラの整備を行い、LVMHグループに所属するすべての人が同じ情報にアクセスできる場をつくろうとしています。そのイントラを通してピープル&カルチャーの活動やLVMHのフィロソフィーを宣伝し、企業文化の醸成につなげようとしています。
リテールビジネスでの経験と、夢だったパリへの留学
― ご自身のキャリアについてお聞かせください。
大学卒業後、父親が経営する婦人服製造販売の会社でアルバイトをスタートしました。もともとフランス文学の先生になりたいという夢があり、そのアルバイトでお金を貯めて念願のフランス留学をしました。フランスではリヨンやパリに住みましたが、パリのソルボンヌ第三大学でフランス文学を学び、フランスの教員の免許も取得しました。クリスチャンショボーというメイクアップスクールにも通っていて、そのままパリで仕事を探そうと思っていた矢先に、リーマンショックで父親の会社が倒産することになってしまい、急遽帰国することになりました。
― フランスの教員免許も持っているのですね。帰国されてからのお仕事とは?
帰国後はしばらくフリーランスでファッション関係のトレーナーや通訳をしていました。いろいろな企業のトレーナーとしてキャリアを積む一方、フリーランスだったので仕事がないときは近所のお好み焼き屋さんで深夜アルバイトをしたこともありました(笑)。
コーチング資格を取得したりしながら働いていたところ、少しずつ業界で知られるようになり、グッチからオファーがあってトレーニングマネージャーとして採用されました。ずっとフリーランスで大企業に慣れていなかったので馴染むのにひと苦労でしたが、ある意味なんでもやる“変わり者”として重宝されました。
― フリーランスからラグジュアリーブランドに入るというのは珍しいケースですよね。
そうですね。私のキャリアが結構特殊なのであまり参考にはならないかもしれませんが(笑)。語学スキルの評価は大きかったとは思いますが、父親の会社で経験したリテールの知識があったことも大きいと思います。
その後ディオールに移り、リテールトレーニングマネジャーとしてキャリアを積みました。フリーランスのときにマネージャーの研修やコミュニケーションの領域も教えていたので、このときは人の能力を引き出すコーチングにフォーカスして、人事とのコラボレーションで様々なプログラムを実現しました。そこから社内異動の機会をいただき現在のポジションに就いています。
自分らしいキャリアとライフスタイルを築くことの大切を伝える「Craft your Career」というメッセージ
― LVMHでは、自分らしいキャリアとライフスタイルを構築することの大切さを「Craft your career」というメッセージで伝えていますが、山内さんのキャリアも、まさにクラフトユアキャリアですよね。
LVMHでは「Craft your career」というメッセージで、自分らしいキャリアとライフスタイルを構築することの大切さと楽しさを伝えています。「Craft」というのは職人が唯一無二の美しい製品を創るときの言葉を想起させます。キャリアもライフスタイルも、手探りで作り上げる唯一無二なものですよね。人生は予想外の出来事に満ちていて、どれ一つとして同じキャリアやライフスタイルはないと思います。私自身もこれまで山あり谷あり、価値観が大きく変わるような辛い出来事もありましたが、その中で「本当は自分がどうしたいのか?」「何のためにそうしたいのか?」「そうするとどんな気持ちになるか?」「それをやる・やらないリスクは何か?」を自問しながら、キャリアやライフスタイルを模索してきました。
変化に満ちた先が読めない時代だからこそ、常に「自分は何を大事にしているのか?」を自分軸としながら柔軟に対応し、自分にフィットするキャリア=ライフスタイルを築く勇気とパッションが重要だと思います。
― 他にも多くの「Craft your career」の事例がありそうですね。
十人十色でストーリーはさまざまです。一つ例を挙げると、販売員からスタートした人材が、どんどん自分でキャリアを構築していき、販売員からストアマネージャー、トレーニングマネージャー、そしてリテールマネージャーになったというケースがあります。彼女は今、「次は社長になりたい」と言っています。自分のキャリアを自分で描き、明確に目的を掲げて声を上げていく。まさに自分でキャリアをクラフトしていく例です。
若い世代に伝えたいのは、グローバル化の重要性
― 山内さんのライフワークについても教えていただけますか?
会社でもCSRの一環として取り組んでいる、中高生や大学生などの若者に向けたキャリア教育が私のライフワークです。その中でも特に意識してお伝えしているのが、“グローバル化の重要性”です。
私自身、海外留学の経験がありますが、結局は日本で生まれ育っている日本人なので、結局ネイティブスピーカーには叶いません。コンプレックスに感じたことも多々ありますが、でも、完璧に話すことが重要ではなくて。それ以上に何を話すか、つまり自分がこうしたいというコンテンツが重要なのです。それを踏まえて、ぜひ若いうちから海外で生活・学ぶことを経験してほしいと思っています。言語を学ぶと他国の文化や情報を得ることができ、視野が広がり、思考の柔軟性も広がります。外を知ると自分自身や日本の文化・良さを改めて発見することもできます。また、働き方や生き方が多様にあることも知ることができるでしょう。固定概念に囚われず、人と違うことや失敗を恐れるのではなく、自分の強みを活かして様々な人と関わり、グローカル(日本も良くしていく)に活躍して、より良い世界をつくってほしいのです。
キャリアライフを豊かにするための4つのアクション
― 他人の目を気にするのではなく、自分がどうしたいのかでアクションを起こすということが重要ですね。キャリアライフを美しく豊かにするためのアクションとは?
4つあります。
1)キャリアライフの振り返りと未来のデザインワーク私は10年以上、1年の振り返りと未来をデザインするワークショップに参加しています。忙しいとあっという間に1年が経ちますが、1年間で自分が何を達成してきたのか、それはどのように未来につながっていくのか、近い未来にどうなっていたいか、さらに遠い未来はどうなっていたいかなどについて、丁寧に振り返る時間をとるのです。そうすると、その為にどんなことをしたいか、具体的な行動プランや目標ができます。
2)Emotionが動くこと、美しいと感じることを積極的に体験すると、世界の美しさ・豊かさが立体的に迫ってくる。好きなこと、心が動くことに没頭する時間をつくっています。私はダンスが好きで、25年以上踊っています。旅も大切で、知らない景色、知らない人、自然、食などには心が動きます。あとは現代アート。六本木クロッシングの多様性について考えるアートはすごかった!日常的な風景が違って見えてきました。世界に好奇心を持ち続けるって大事なことだと再認識します。
3)すぐ行動する&休む。考えすぎない。心が動いたら、行動する。水も流れがないと腐っていきますが、つねに清流が流れるような状態をキャリアライフにも取り入れたいと思っています。同時に、ときに湖のような静かな心をつくることも大切だと思っています。激流で大荒れにならないように、時に休みをとることを心掛けています。先日京都にいったときに、酒造の方にお話を聞いたのですが、「お酒をつくっていると発酵のぶんだけ時間がかかってしまうけど、そういうときに深い思考をすると、いいお酒が生まれる」と。まさに人間も同じだと感じました。しっかり休んで深い思考をすることが重要なのだと。
4) 人との出合いやご縁に感謝して、丁寧に関係性を築くこと。人は1人だけでは生きることはできません。他者を尊重し貢献する事にフォーカスすることで、自他共にキャリアの可能性が広がると思います。
― 自分に向き合い、自分を大切にすることもキャリアをクラフトしていくには大切なことなのですね。
キャリアライフを美しくするためには、ある程度の“余白”が大切なのではないでしょうか。ラグジュアリーブランドをなぜラグジュアリーと感じるかというと、やはりそこに“余白”があるから。ラグジュアリーブランドはVMDにいたっても詰め込みすぎないですし、その余白に美しさとか豊かさが感じられるものです。キャリアも同じように“余白”をもうけておくことで豊かなものにつながっていくことがあるので、心がけてみてはいかがでしょうか。
― ありがとうございました。
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