コロナによる外出自粛の影響で注目を浴びたDX化。ファッション業界も例に漏れず、自宅にいながらショッピングが楽しめるECサイトの需要が高まった。多くのブランドが売り上げに対するDX化に取り組んだものの、業務プロセスの効率を上げる内部のDX化までは検討されていない。「TERMINAL」は、ファッションブランドのオンライン展示会を提供し、商品の受注・発注をオンラインで完結できるBtoB向けECプラットフォーム。データを可視化し、企業の成長をサポートする。SaaS導入のハードルを下げるため、一部機能を無料で開放している。今回は、ターミナル株式会社CEO 伊奈 亮輔氏に、ファッション業界におけるDX化の現状と、アフターコロナにおける業界の変化をうかがった。
ADVERTISING
伊奈 亮輔さん/ターミナル株式会社 CEO
愛知県常滑市生まれ。愛知県名古屋市にあるアパレルセレクトショップにて販売員としてキャリアをスタート。2004年に上京し、その後複数の会社を経て、2007年に株式会社シーエー・モバイル(現 株式会社CAM)に入社。エンタメ業界に携わり、事業の拡大に貢献。ファッション業界の課題感とインターネットの知識を活かし、BtoBビジネスに挑戦するため、2014年にCOOとしてターミナル株式会社に入社。2019年4月にCEOに就任。プライベートでは、会食のお店の相談にのるのが得意。
ファッション業界のSaaS導入に立ちはだかる壁
― 伊奈さんのこれまでのキャリアを教えてください。
キャリアのスタートは、名古屋市アパレルセレクトショップの販売員。その後上京して複数の企業を経験し、2007年から本格的にインターネットの仕事をはじめました。サイバーエージェントの子会社でエンタメ事業に携わり、ITの技術や知識を覚えながら、業務に取り組んでいました。
アパレルで働いていたときの業界に対する課題感と、前職での経験を活かしたBtoBのビジネスにチャレンジしたいと思い、COOとして2014年にターミナルの創業メンバーとしてジョインしました。
― 当時のアナログなファッション業界で、新しいツールが受け入れられるのは大変だったと思います。実際に営業に行ったとき、どのような反応でしたか?
入社して最初の半年くらいはプロダクトがなかったので、資料だけでは取り合ってもらえないこともありました。よくある話ですが、「誰がやっているのか」や「他にどのブランドが使っているのか」みたいな部分を気にされているところが多い。導入をしたブランドの横並びのブランドへ積極的にアプローチをして、最初の壁を切り崩していくような営業の手法をとっていましたね。とにかく最初はいろんな企業に電話しまくったり、紹介してもらったりしながら少しずつ広げていきました。
当時はファッション業界で一括りにして、アパレルもバッグもすべて同じだと思っていましたが、意外と商材ごとに慣習も違う。扱っている商材によって必要な機能が違うので、ファーストコンタクトでは、使ってみてもらって、フィードバックをもらいながら少しずつ実績を積み上げていきました。
― 商材によって慣習が違うなか、どのように突破していきましたか?
顧客を正しく理解し、正しい機能をつくることが大切です。僕は、人の動きを想像するのが得意。たとえば展示会を開くとなったときは、どのように人が動き、どの機能を使うのかを想像します。「この機能が欲しい」と言われたときは、機能そのものではなく、「こんなことを実現できればいいのでは」と本質的なニーズを捉えるのが得意なので、バランスよくやり続けることが大事だと思います。
ただしサービスを立ち上げたばかりの段階では、新規契約を獲得することが最優先だったので求められる機能をたくさん作ってしまいましたが、そうすると本当に1人にしか使われない機能がすべての顧客の画面に表示されてしまう。これはSaaSのビジネスモデルとしていい形ではないので、機能をあれこれつくるのではなく、より簡素化するようになりました。
もちろん要望に対する改善はしますが、最近では逆に相手に気づきを与えられるような機能開発をおこなうようにもしています。顧客から提案があったとしても、わからない業務がありません。すべて機能を把握した上で、何か聞かれたときに「その機能ありますよ」とか「完全に一致する機能はありませんが、他の会社はこうやって運用してますよ」というようなコミュニケーションをしているので、そこに対する信頼感があると思います。
コロナ禍で注目されたオンライン販売の必要性
― コロナをきっかけに御社のことをよく聞くようになりました。デジタル化が注目されるタイミングで、問い合わせは増えましたか?
緊急事態宣言が発出されたことにより、お問い合わせは通常の5〜6倍に増えました。多くの企業が危機に駆られていたので、すでにTERMINALの存在を知っていて、今デジタルシフトができなければ生き残れないという状況が最後の一押しとなって、「ちょっと話を聞いてみようか」という初動が大きかったです。
そこから半年経つと、企業も具体的に何をやらなくてはならないのかがわかってくる。オンラインでの販売だけでなく、データも必要だと理解してくださる方が増えてきました。
僕らの意識も大きく変わりました。やはりブランド側から利用料をもらってビジネスをしているので、機能開発の優先順位もブランド向けばかりでしたが、展示会への来場が困難でオンラインで商品をみて仕入れせざるを得ない方が増えてきましたので、買う側の体験も大事になってくる。買う側が見やすいかどうか、買いやすいかどうかという目線に立って、オーダー画面のリニューアルなどバイヤー向けの機能開発のリソース割合を拡大するようになりました。
― コロナでデジタル化が加速しましたが、「オンライン展示会とは?」というところからはじめなくてはならないですよね。
そもそも展示会という言葉が、かなり広義。TERMINALのメイン機能を活用してもらう部分でいうと、卸向けの新作受注販売会である展示会なのですが、関係者向けの販売会や、インフルエンサーさんがやっているような顧客受注会も展示会と呼ばれることがあります。
すでに混沌としているなかで、「オンライン展示会」という新しい言葉がひとり歩きしはじめていました。当時はいくつかサービスも生まれたりしたのですが、受注機能はなくオンライン上で新作商品を発表するのみのサービスもあり、人によって展示会の捉え方が違うところもありました。なので、僕らはまずオンライン展示会の定義を軌道修正しながら進めていきましたね。
業務効率を上げるデジタル化のハードルを下げたい
― TERMINALを導入している企業では、どのように活用していますか?
TERMINALでは、バイヤー向けにPCからオーダーできるサービスと、そこに付随する個人がスマホからオーダーできるサービスを運用しています。いわゆる個人オーダーと言われる関係者向けの受注以外にも、顧客受注会や社員販売などでも利用されるようになったことは、意外な需要でした。
消費者向けに販売が開始される3〜6ヶ月前にすでにオンラインで受注できる環境が構築されているので、そのデータを活用して社員や顧客向けからも受注を募るということは、作業の手間や売上UP、在庫ロスの軽減などの観点からは極めて合理的だと思います。そういう点では僕たちも契約先から気付かされることはとても多いです。
ラグジュアリーブランドさんは、いわゆる卸先向けの展示会開催はしていませんが、上位顧客向けにショーへの招待や受注会をおこなっているので、そういったシーンにおいては、紙にお客様からのオーダーを記入するような運用を廃止していきたいという意向もあり、ご相談をいただく機会も増えていますね。
― なるほど、それぞれの企業が求める機能を網羅していますね。
オンライン展示会で登録した商品のデータを活用すれば、社員向け販売やファミリーセールという使い方も可能です。
商品を登録して、スマホからでも購入できるEコマースプラットフォームは、さまざまありますよね。在庫の登録は他のサービスでもできますが、そうなると単なるECサイトになってしまう。
僕らのサービスは、ツールを提供するだけでなく、運用面でも継続的なサポートをおこないみなさんが抱える課題をしっかり解決していくことだと考えています。顧客に寄り添って使い方や提案をしながら進めていくので、そこに魅力を感じてくれているのではないでしょうか。まだまだみなさん独自の方法で活用されている部分もあるので、機能の改修をしながら、いろんな使い方を知ってもらえるといいな、と思います。
― ターミナルは、3月中旬頃から一部機能を無料で開放しています。その狙いを教えてください。
コロナで危機的状況になり、「とにかくオンラインで受注しなくては」というムードでしたが、人の流れが復活したことによってデジタル化のムードが下がってきているのが現状。DX化が当たり前のように言われるようになりましたが、売上をつくるためのデジタル化が多く、未だバックアップや業務オペレーションのデジタルによる効率化は、ファッション業界においては未だ注目されていません。
最初に提案をするのは、展示会を担当する営業の方が多く、なかなかツール活用に慣れていない方も多いので、システムを導入するために会社に稟議をあげたり、上申するには心理的なハードルが高いと思うんです。
8割以上の企業が販売管理ソフトや基幹システムを導入していますが、データを活用して経営戦略の意思決定をサポートするような企業はまだほんの一握りという印象です。無料で利用できるツールをつくって、デジタルツールを活用する心理的ハードルを下げてもらえればという想いで提供を開始しました。
― 実際に使ってみないと、導入効果が見えにくいですよね。
そうですね。毎月アルバイトに5万円払うんだったら、確実でミスのないTERMINALを使った方がいいよね、くらいの感覚的な効果は得られるんですけどね。あとは、営業の人が事務作業に追われて、顧客とコミュニケーションができずに営業機会を損失しているんだったら、TERMINALを活用してミスをなくして、時間を生み出せばいいと思ってます。
単純にTERMINALを使って売り上げが伸びました、という訴求が難しいんです。売上を左右するのはブランドとしての世界感や発信力、製品の品質が優れているからだと思いますが、少なくともそういうブランドはバックオフィスもしっかり整備されている印象です。結果的にそういうブランドが長くビジネスを継続しているし、導入効果云々よりはそういう方たちに僕たちの価値観がしっかり伝わっていけばなと思っているくらいです。
― TERMINALの今後の展望を教えてください。
非ITの人たちがツールを使えるようになって、「業務にインターネットサービス使うのって便利だよね、当たり前だよね」と思ってもらえるようになることが1番のテーマ。誰がやっても同じ結果になるような業務はツールに任せて、自分たちにしかできない価値を生み出し続けることが大事です。そのために、フリープランもですが今後も積極的に機能のアップデートはしていく予定です。
あとは、当然ビジネスなので、お金をどのように運ぶのかという点に課題意識を持っている方が多い。そういった部分をサポートできるようなソリューションも考えていきたいです。
導入している企業も増え、創業から事業は拡大し続けていますが、スタートアップ企業だからといってリスクを伴う事業投資をして、サービス終了して利用をするみなさんに迷惑をかけるようなことは絶対にできません。これから先も永続的に残り続ける仕組みとして、やるべきことをひとつひとつ進めていきたいです。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【NESTBOWL】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境