2月に本決算を迎えた有力アパレル6社のEC売上高が出そろった。コロナ禍でアパレル各社のEC売り上げは急拡大したが、昨年からは“リアル回帰”の傾向が強まったことでECチャネルは伸び悩む企業も出てきた。一方、コロナ3年目も順調にEC売り上げを伸ばしたアパレル企業には、モール型ECで数多くのブランドを販売しているなど、いくつかの共通点が見られる。有力アパレルの2023年2月期におけるEC業績と今期の施策などを見ていく。
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サイト休止も販促など奏功
コロナ3年目も継続的にEC売上高を伸ばしたのは、アダストリアとオンワードホールディングス、パルの3社だ。
3社とも数多くの人気ブランドを扱うモール型の自社ECを運営。ユーザーがブランドをまたいで買い回りしやすい環境は、ネット時代にはアドバンテージとなる。また、オンワードは自社ECの構成比が高いが、アダストリアとパルは「ゾゾタウン」を軸に外部モールでも売れる商品を開発して販売好調で、ECチャネル全体で消費者から支持されているのが強みだ。
アダストリアの前期における自社ECと外部モール経由を含む国内EC売上高は前年比8・9%増の626億円だった。
同社は30以上の自社ブランドを取り扱う自社通販サイト「ドットエスティ」が好調だが、今年1月に不正アクセスを受けて自社ECも8日間休止したものの、前期はプロモーションの強化や商材の拡大などで自社ECが継続成長したほか、子供服のEC専業をグループ化したこともEC売り上げを押し上げた。
国内の全社売上高に占めるEC化率は前年比1・4ポイント減の28・7%で、そのうち自社ECは約15%となり、引き続きEC売り上げの過半を占めた。
前期は、自社ECの認知向上を目的としたテレビCMなどの集客強化に取り組み、自社ECの会員数は前年度末から190万人増となる1550万人に拡大した。
EC売上高は今年1月単月では前年同期比11・4%減だったが、サイト再開後のクーポン施策や春物需要の好調もあって2月単月は同14・8%増と急回復。サイト休止がなければ、EC売上高は2ケタ成長もあり得た。
今後は、中計で掲げる「デジタルの顧客接点・サービスの強化」を推進する。店舗販売員がスタイリングを発信できるツール「スタッフボード」のSNS展開を強化。SNSフォロワー数の多い社内インフルエンサーのインセンティブ額をアップしてモチベーションの向上を図るほか、研修制度を充実させることでスタッフのSNS総フォロワー数を前期末の約300万人から600万人を目指す。
一方、自社ECのオープン化戦略を推進中で、「ヤーマン」や「シロカ」「靴下屋」など、各カテゴリーの有力企業が参画したことで、新規顧客の獲得や相互送客につなげている。
店舗取寄せの対象店4割に
オンワードホールディングスの国内EC売上高は前年比9・5%増の約448億円で、EC化率は同0・2ポイント増の30・0%だった。
主力事業会社のオンワード樫山を中心とした自社EC売上高は前年比8・8%増の約385億円、外部EC経由の売上高は同14・1%増の約63億円となり、自社EC比率は85・9%と引き続き高い水準を維持した。
オンワードでは自社通販サイト「オンワード・クローゼット」で取り扱うほぼすべての商品を実店舗に取り寄せて試着、購入ができるサービス「クリック&トライ」を強化しており、前期末時点の導入店舗数は前年の200店舗から340店舗に拡大。全体の43%まで導入が進んだ。
「クリック&トライ」の予約点数は前年上期の5万5000点に対し、下期は11万6000点に急増し、通期では17万1000点となった。また導入店舗の売上高はコロナ前の2019年度水準に回復。未導入店舗の売り上げを19ポイント上回るなど、リアル販路の売り上げ拡大に貢献した。
「クリック&トライ」は取り寄せた店舗で決済するため、EC売り上げにはカウントされないが、自社ECの閲覧数や、実店舗と自社ECを併用するクロスユース率が拡大することで、ECの成長にも貢献すると見ており、今後も同サービスの導入店舗を広げる。
D2Cブランドは、「アンフィーロ」がロングセラーヒット商品の誕生で前期売り上げが96・3%増と急拡大。昨年秋冬シーズンからはメンズ・ユニセックスラインも本格始動した。「アンクレイヴ」もECを主販路に、ポップアップ展開とSNSでの顧客接点を拡大。素材感にこだわったセットアップ商品に加え、ニットやカットソー、ブラウスなどが好調で売上高は17・0%増となった。
ブランド横断の企画を強化
パルのEC売上高は前年比28・7%増の約423億円とコロナ3年目も高成長を維持。計画の400億円を大きく上振れした。50以上のブランドを取り扱う自社通販サイト「パルクローゼット」の売り上げは35・3%増の約156億円、「ゾゾタウン」経由が27・9%増の約223億円、その他が12・6%増の約44億円となり、各売り場で好調を維持。衣料品の売上高に占めるEC化率は40・0%まで高まった。
20年2月期のEC売上高は176億円、うち自社ECは52億円だったが、コロナ禍の3年間でEC売上高は2・4倍、自社ECは3倍に拡大した。同社はこの間、服などをECで購入するのに慣れていないユーザーでも安心して利用できるサイト作りに注力したほか、店舗スタッフによる情報発信を強化してきた。
前期からは、自社ECの価値を高める取り組みとして、ブランド横断型の企画を強化。小柄な女性向けの商品を集めた「低身長女子」コーナーを設けた。同社では小柄女性専用のブランドを立ち上げるのではなく、各ブランドで対象となる商品を作る方が、デザインやテイストなどを含めて顧客の選択肢が増えると判断した。
また、SDGsをテーマに、必要なものを必要なだけ生産するという完全受注生産型のTシャツを販売する企画には30以上のブランドが参加し、それぞれがオリジナルデザインのTシャツを作った。
加えて、自分の骨格から似合う服を探したいというニーズがあることから、骨格診断のコンテンツ「骨格タイプ別ほめられ服」を定期的に発信。スタッフのSNSでも骨格別の着こなし方などを提案し、人気が高いことから、常設コンテンツとして展開することも視野にあるようだ。
今期はEC売上高500億円超、うち自社ECは230億円を目標に掲げている。
マイナス成長のアパレルも
一方、EC事業で伸び悩んでいるのがTSIホールディングスとバロックジャパン、三陽商会だ。伸長率が低い理由はそれぞれだが、各社ともSNS活用とOMO推進などに取り組むことでEC再成長を目指している。
TSIホールディングスの国内EC売上高は前年比1・1%減の約388億円で、EC化率は同3・4ポイント減の31・0%だった。自社EC売上高は1・5%増の181億円、自社EC比率は同1・2ポイント増の46・6%だった。
前期のEC事業は上期に停滞したものの、下期は前年同期比2・0%増と回復した。自社ECは上期にサプライチェーンの乱れもあって苦戦。下期はSNSを軸にしたOMO施策や、コンテンツの拡充などでV字回復した。とくに直近の12~2月は7・9%増で、今期に入っても好調を維持しているという。
昨年9月のオフィス移転時に新設したライブ専用の撮影スペースを活用し、レディースブランドを中心にEC事業のSNS運営改革が進展した。
外部ECモールについては、過度な値引きの抑制や専売品強化などで収益性が大幅に改善し、全社営業利益計画の達成に貢献。今後は収益性を保ちつつ売り上げ拡大を目指す。
バロックジャパンの国内EC売上高は前年比1・2%増の約105億円だった。前期は、SNSの発信力を軸にしたOMOを推進。インスタグラムで発信する社員比率は80%に上り、オンライン接客コンテスト「スタッフオブザイヤー」では同社ショップ店員が2年連続で上位受賞するなどSNSを活用した接客力を強化している。
今期は、公式アプリ「シェルターパス」会員のロイヤリティアップ施策を強化するほか、試着予約などのオムニチャネルサービスを加速してファン層の囲い込みを図る。
外部ECは新規獲得チャネルとして活用する。とくに経由売上高が50億円を突破した「ゾゾタウン」との連携を強化しており、OMOの一環として「ゾゾモ」を導入。「ゾゾタウン」上でバロック店舗の在庫確認や取り置きができ、実店舗への送客が実現した。
三陽商会のEC売上高は前年比1・6%増の約82億円だった。前期は値引き販売の抑制を継続しながら、EC専用商材の拡充や実店舗との相互送客の強化などに取り組んだ。
昨年4月には新ライン「シービー・クレストブリッジ」の1号店と自社ECの顧客行動データをシームレスに解析・統合し、ユーザーごとに最適な商品やイベントなどの情報を紹介する取り組みのトライアルも実施した。
今期は9月をメドにECプラットフォームを刷新。ブランドサイトとECを統合してメディアコマース化を推進するほか、各ブランドのブランディングを担保しながらブランド間の買い回りを促す。また、ブランド横断企画やスタッフコーディネート、EC限定商材などのコンテンツ強化により、プロパー販売を強化するという。
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