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消費者庁がステマ基準を大幅修正 私権制限の懸念払拭へ

消費者庁がステマ基準を大幅修正 私権制限の懸念払拭へ

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 消費者庁は3月28日、ステルスマーケティング規制を景品表示法の告示に指定した。「事業者の表示」であることを隠す行為は、内容を問わず、措置命令の対象になる。事業者の予見性を担保する目的で策定した「運用基準」は、規制による自由な広告、表現活動に対する懸念を反映する形で、大幅な追記、修正が図られた。

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「あらゆる表現規制の誤解あった」

 告示は、外見上、第三者による表示に見えるものの、実際は事業者が内容の決定に関与しているものを規制する。施行は、10月1日。公表同日に会見した河野太郎大臣は、「多くの事業者、消費者に関係する」として十分な周知期間を取る考えを示した。プラットフォーム運営事業者と連携した情報収集の取り組みや通報窓口の設置、事業者からの相談窓口も設けることで規制の実効性を高める。

 規制は、商品に言及するあらゆる表示について、事業者との関係性に踏み込んで実態を把握する必要がある。消費者を含め、自由な表現活動に対する圧力になりかねず、憲法が保障する「表現の自由」と鋭く対立する。

事業者にとっても、サンプル・商品提供を伴うレビュー投稿の依頼など、顧客との関係性の中で行われてきた通常の商習慣に及ぼす影響が大きい。こうした懸念を受け、事業者の予見性を担保する目的で策定した「運用基準」は、大幅な追記・修正を行なった。

 消費者庁は、追記・修正の目的を「景表法の範囲内で行おうとしている中で、あらゆるものに規制が及ぶという誤解があった。ターゲットを明確にし、なぜ景表法上の問題となるのか分かりやすいものにした」(南雅晴表示対策課長)と話す。

セーフハーバー具体的に示す

 ポイントは、告示の対象外とする事業者の表示が「明瞭となっている」事例に「社会的な立場・職業等(例えば観光大使等)から、消費者とって事業者の依頼を受けて表示を行うことが社会通念上明らかな者が行う表示」が追記されたことだろう。

 ステマは、事業者が第三者を装う「なりすまし型」と、事業者が第三者に表示させる「利益提供秘匿型」がある。後者は、事業者が「表示内容の決定」に関与している場合に、「事業者の表示」となり、明瞭でなければ景表法による措置命令の対象になる。

 執行の判断は、「関与(依頼)の有無」↓「第三者の意思」というステップを踏む。第三者との「具体的なやり取りの内容(メール、口頭等)」、「対価の内容」、「提供理由(宣伝目的等)」、「両者の関係性(過去から将来に向けた対価提供・継続性)」から関与の有無を評価。明示的な依頼・指示がなくても表示内容を決定できる程度の関係性があれば「事業者の表示」になる。関与があっても、「第三者の自主的な意思」による表示であれば規制の対象にならない。

 ただ、過去の基準案に沿えば、日本に根付く贈答文化を含め、あらゆる物品等の提供が「対価」と捉えられかねず、事業者は消費者、第三者との関係に細心の注意を払う必要があった。

 加えて、判断の裁量は消費者庁側にある。事業者の防衛策は、あらゆる表示で「広告」の明示を心がけるか、第三者と一切の情報のやり取りを行わないことなど。「どの程度のサジェストまで許容されるか分からない」(事業者)といった懸念があり、顧客や消費者とのやり取りが予測不能な”ステマリスク”に晒される可能性があった。事業活動の過度な委縮を招き、本来メリットもある企業と消費者の関係性を必要以上に遮断する恐れもあった。

 追記は、「社会的立場・職業」を判断要素とした点で、ほかの「事業者表示が明瞭なもの」と異なる。「第三者の自主的な意思」でない場合も「事業者の表示」と判断されない基準が明記された。

「社会的立場・職業」を考慮

 社会的立場・職業とされる「観光大使等」は、あくまで一例だ。消費者庁は、「ある人が(事業者との関係から)表示するのが分かるのであれば規制の必要はない。例えばスポーツ選手がアパレルブランドの協賛を受けている。着用する服にロゴが入っている。選手がそのブランドに言及した場合もあえて広告と言う必要はない。『事業者の表示』とみなさない」(南雅晴表示対策課長)とする。

 著名なインスタグラマー、アフィリエイターも、これを生業としていることが明らかな場合、「社会的立場・職業」に属する可能性がある。ただ、知名度や職業の実態は程度問題がある。これには、「言われる通りで、網羅的に判断を示すことが難しい。個別ケースによる」(同)とする。

従業員の個人的発信は対象外

 事業者自身が行う表示も、従業員が行った表示を対象にすることによる予測不能な「なりすまし」のリスクに配慮した。判断基準は、基準案においても表示を行った者の「地位、立場、権限、担当業務、表示目的」から「事業者の表示」の該当性を判断するとされていた。ただ、「問題事例」と「問題にならない事例」をより具体的に明記することで、懸念の払しょくが図られた。

 例えば、商品の販売促進に関わる役員、管理職、担当チームの一員が事業者であることを隠して表示を行った場合は黄信号が灯る。加えて、内容が「商品の認知向上」、「競合商品の誹謗中傷による自社商品の品質・性能の優良さへの言及」など自社商品の販売促進に関係するものである場合、告示による規制の対象になる。

 一方で、「問題とならない事例」も追記した。従業員であっても販売促進に関わらない者が、これを目的とせず表示を行う場合は問題にしないとの説明を加えた。従業員が消費者の立場から行う自由な表現活動に配慮したものとみられる。

 ステマは、人により捉え方が異なる。河野大臣は、公表にあたり「海外に比べると規制が緩いという指摘もある。まずは何が広告で、何が違うか認識して選択してもらうことにつながればいい」と、規制されるべき「ステマ」の概念の浸透を図る考えを示した。過剰規制を避けつつ、執行実績の積み上げを図るものとみられる。

自由な表現活動に配慮、「不必要な不安、本意ではない」

<運用基準修正の意味>

 ステルスマーケティング規制は、これまでの景品表示法規制と性質が大きく異なる。ステマに対する消費者、事業者の認識も一致していない。規制すべきステマの社会への浸透を図る必要があり、慎重な運用が求められる。

 景表法は、広告の「優良・有利誤認」など、商品の品質や性能、取引条件の内容を評価し、消費者の誤認を招く表示を規制する。一方、ステマ規制は、内容の悪質性は考慮しない。「事業者の表示」を隠していると認められるかだ。違反の構成要件はシンプル。措置命令のハードルは下がるが、「優良誤認」等と同じ制裁効果を持つ。

 景表法の規制対象は、「商品・役務の供給者」のため、規制を受けるのは基本的に広告主だ。ただ、ステマの実態把握に向けた調査過程で、消費者庁は、景表法に定める調査権限(報告徴収、立入検査)を活用するとしている。権限は、広告主に関係する広告代理店、アフィリエイター、インフルエンサー等にも及ぶ。「第三者の自主的な意思」など関係性の把握に必要なためだ。事業活動に大きな影響があるにも関わらず、運用基準は、問題事例が抽象的であるため、事業者から不満の声があがっていた。これを受け、規制の提言を行った自民党部会でも慎重な調整が行われていた。

 追記、修正が行われた運用基準は、事業者の予見性に対する配慮がみられる。

 「なりすまし」と判断される可能性のある事業者の従業員による表示では、販促担当でない従業員による個人としての発信は、問題とならないとした。「ある意味で、規制の抜け道になる」(業界関係者)との指摘もある。明記したのは、個人の自由な表現活動を優先したためだろう。

 基準も、前段で改めて景表法の趣旨、規制対象の説明に触れ、事業者の自由な広告、第三者の自由な表現活動を不当に制約するものではないと明記した。ある公取OBは、「ガイドラインで景表法の趣旨に改めて触れるケースは珍しい。全く新しい規制であり、丁寧な説明を心がけたのだろう」と印象を話す。

 「利益提供秘匿型」においても、第三者が行った表示に誤記があり、その修正を依頼しても、これをもって「表示内容の決定に関与」と判断しない旨を追記した。アフィリエイト広告規制でも課題として浮上した「適切な表示を心がけても管理すればするほど、関係が密になり、表示に関与したと判断される」(事業者)という懸念の払しょくを図ったとみられる。

 消費者庁は、ステマ規制について、「規制の趣旨はあくまで、一見、第三者の表示であるのに事業者の表示であるものを規制すること。不必要に不安を与えるのは本意ではない」(南雅晴表示対策課長)と話す。

 悪質なステマは、確信犯のケースが少なくない。セーフハーバーを示し、予見性や「表現の自由」への配慮を優先したのも、丁寧な調査に基づく実態把握を通じ、取り締るべき対象を絞り対処する意思の表れだろう。

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