「これまでの下着作りや経験を咀嚼(そしゃく)し、協業商品に落とし込んだ」と話す尾花さん
「Nハリウッド・コンパイル」とワコールのメンズインナー「ワコールメン」が協業し、2型のボクサーパンツを作った。Nハリウッドのデザイナー、尾花大輔さんに、下着に対する考え方やワコールとの協業、23~24年秋冬ニューヨーク・コレクションについて聞いた。
ADVERTISING
(壁田知佳子)
方向性を変えるのに良い機会だった
――ワコールとの協業の経緯は。
下着に関しては我々もいろんなトライをしてきました。下着は小さいわりに工程数が多く、特殊な縫製やパターンの技術が必要。手間もコストもかかる。
以前からアンダーウェアは作ってきたのですが、残念ながら取り組み先が廃業することになりました。ワコールは女性下着のトップ企業で、ブラジャーのような特殊な商品を作る技術がある。そんな会社がメンズもやっていることに興味を持ちました。
僕は元々古着のバイヤーで普通の服は分かるのですが、下着のような特殊なアイテムはディテールが面白い。コルセットやガーターベルトなどはディテールが満載で、どう作っているんだろうと興味が沸きます。
ワコールはメガブランドとして、下着側の考え方、マーケットでの在り方など、我々にとってもありがたいアドバイスをいただけた。肌に近いデリケートなものにもかかわらず、非常にスムーズにコラボレーションさせてもらいました。
――どんな方向性で商品作りに臨んだか。
元々作っていた下着は11、12年前に始めたものです。そのときの定番と、今の自分の気分、環境、お客様との向き合い方など、方向性を変えるのに良い機会かなと思いました。
清潔感がありスタイリッシュなものがいい。適度にフィットし、若い人がはいても60代がはいてもおかしくない。自分がボディーメイクをしていることもあり、ローライズは僕好み。レギュラー丈は、体に自信がない人にも優しいフォルムになっています。
自分でも国内ブランドからハイブランドまで、いろんな下着を試してきました。いろんなブランドのいいところを自分なりに咀嚼(そしゃく)したものが、デザインに落ちている。フロントカップの大きさやホールド性の加減などは、下着に熟知しているワコールから提案してもらった。ワコールメンはタグをグレーで統一していますが、目立たないよう黒に変えてもらいました。いろいろとそぎ落とされて今の形になった。自分でも満足しています。
実際はいてみて、“印象がない”のがこの下着の良さ。何年もはき続けて肌の一部になったような。何も感じさせてくれないのがいいのかな、と思っています。
お客様の反応や売れ行きなどを見ながらですが、定番として続けさせてもらえるのであれば、ぜひ続けたい。女性にも買ってもらえたらいいなと思います。男性下着をはく女性もいますし、ギフトで使ってもらえてもうれしいです。
パンデミックでショーへの考え方が変わった
――パンデミック(世界的大流行)以降、コレクションはデジタルで発表している。
この3年間、フィジカルでやってないからこそ分かったことがある。ファッションショーは、ごく限られた時間に、ごく限られた人が選ばれて来る。でも結局、一番見たいのはファンの人。ファンの人が見ていないなら、誰に向けてショーをやっているんだろう、と。デジタルではブランドサイトだけで10万人以上、自分のオウンドメディアでも何万人も見てくれる。
以前はファッションショーが大前提でしたが、ショーも映像や舞台などの一つのカテゴリーでしかなくなった。フィジカルで見せることに意味のあるプレゼンテーションであればやろうと思うのですが、今はそれがない。今は、映像やシューティングが自分にとって新しい刺激なんです。20年少々のフィジカルを経て新たに挑んでいることが楽しい。
――23~24年秋冬コレクションは。
アシスタントも成長し、組織的にもアップデートしてきました。2月のコレクションは我々が考えているテーマとは関係なく、立てたアートディレクターがスタイリストやヘアメイクなどを用意し、ブランドを見せた。我々は無監修で、俯瞰(ふかん)した発表の仕方です。僕は自分でフルコンプリートしたいタイプなのですが、だいぶ手を放した。経験と時間が僕を成長させてくれたこと、周りが成長したことに感謝しています。
自分では想像していなかった良い違和感と、今後の新たな可能性を広げてくれたコレクションとなったかと思います。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【繊研plus】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境