都会の喧騒を離れ、気の合う仲間たちとチルに過ごす時間を提供するプライベートホテルブランド「norm.(ノーム)」。ニューヨークにある倉庫のような外観で、天候や季節を問わず、365日自然のなかのラグジュアリーな非日常を堪能できる。こちらを運営する株式会社norm.の代表取締役社長・初鹿竜也さんは、大学卒業後に留学で訪れたニューヨークで体験したアートやチルを日常で感じられるよう、ホテルに置かれているインテリアからコンテンツまで、さまざまなこだわりが散りばめられている。元々は仲間とキャンプするために購入したという土地が、どのようにしてビジネスに転換されたのか? 未経験だからこそ、仲間とともに新たなホテルブランドを提案する初鹿さんのこれまでのキャリアや、今後norm.が目指す宿泊業の形をうかがった。
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初鹿 竜也さん/株式会社norm. 代表取締役社長
大学卒業後、ニューヨークへ留学。現地の食品商社や卸問屋にて経験を積み、帰国後は伊藤忠食糧に就職。伊藤忠商事へ出向し原料の輸入業務に従事。その後、伊勢角屋麦酒へ転職。伊勢角屋麦酒では法人案件や輸出業務を担当しながらプライベートホテルブランド「norm.」を立ち上げ、自ら代表として活動している。
ビジネスのスキルを高めるため、ニューヨークと日本で食のビジネスに携わる
― 大学を卒業後、ニューヨークへ留学したそうですね。新卒での就職活動をせずに、留学を選んだのにはどういった意図があったのでしょうか?
「新卒ブランド」を活かして就職したいと考える人も多いですが、わたし自身は大学を卒業して22歳で社会に出たとしても、「まだまだスキルが足りないのでは?」と思っていました。さらに、一度社会人として働きはじめると海外に行く機会が難しくなってしまうことから、まずは海外に出て、外から日本を見てみようと留学を決意。言語やビジネスの仕方など自分自身の幅を広げるために、ビジネスの最先端であるニューヨークを選びました。
― 留学生時代も含め3年半ほどニューヨークで過ごされていましたが、具体的に、現地ではどのようなことをしていましたか?
マーケティングの勉強をしながら実際に起業を試みたのですが、未熟だった部分もあり、起業するまでには至りませんでした。現地の大学を卒業したあとは、OPTというアメリカの留学生として1年以上学校に通った後、専攻と同じ分野で最大1年間フルタイムの仕事ができる制度を使い、日系の食品を輸入する商社に入社しました。当時のニューヨークは、ラーメンブームの真っ只中。日本食のニーズが高まりつつあるなかで食を扱う仕事に興味を持ったので、日本から食材を輸入したり、輸入した食材を日系のレストランやスーパーに卸したりしていました。
ニューヨークでの生活は、日本人として当たり前だったことがそうではなく、生活や仕事などのルールの違いにまずは驚きました。ただ、3年半ニューヨークから日本を見つめ直すことで、日本の人や文化の魅力を改めて知るいいきっかけになったと強く感じています。
― 家族の事情を機に、25歳で思い切って日本へ帰国。その後「伊藤忠食糧」に転職した理由を教えてください。
過去にレストランのアルバイト経験があり、その後ニューヨークで食品をレストランなどに卸す問屋さんでお仕事をさせていただいて。そこからさらに川上に行き、業界全体を俯瞰できるようなビジネスとしたいと考え、食の大元となる原料を取り扱う伊藤忠食糧に転職しました。入社初日に本社の伊藤忠商事に出向し、本社が担当している仕事を子会社の伊藤忠食糧に完全に移管する業務にアサイン。豆腐や味噌、納豆、醤油などの原料となる食品用の大豆を輸入していました。
― 伊藤忠食糧に約5年間勤められて、そこから三重県伊勢市に拠点を構える「伊勢角屋麦酒」に転職。どういったいきさつで、転職されたのでしょうか?
もともと伊藤忠食糧に所属している段階から、現在経営している株式会社norm.(ノーム)を立ち上げるスケジュールを組んでいました。現在の取締役6人全員海外経験があったため、働く場所を選ばずに仕事ができる環境を理想として掲げていたところ、伊藤忠商事時代にお世話になった伊勢角屋麦酒の取締役の方からタイミングよくお声がけいただいて、2020年に転職することとなりました。伊勢角屋麦酒の社長さんは、すごく寛大で先見性もある方。コロナ前でリモートワークが注目される以前から多様な働き方を容認してくださったので、とても感謝しています。
ニューヨークで出会ったキャンプ仲間と、好きが高じてビジネスをスタート
― 伊勢角屋麦酒で働きながら、株式会社norm.の立ち上げも並行しておこなうのは大変だったと思います。実際にnorm.が動きはじめるまでについて教えてください。
現在の取締役6人のうち、よくキャンプに行っていたメンバーが3人いました。その3人のメンバーとの出会いは、ニューヨーク時代。日本に帰ってきてからも絆があり、毎月のようにキャンプに行っていました。すると道具や交通費、食費などを合わせて、おおよそ1人当たり1万5,000円〜2万円ぐらいかかります。この価格はホテルに泊まる料金とそんなに変わらないとだんだんとわかってきて。ならば自分たちで遊ぶ場所を確保しよう、とキャンプの帰りに不動産屋さんに寄り、河口湖の付近にある土地を購入したのがnorm.のはじまりです。
― norm.の運営で、大切にしている部分を教えてください。
ビジネス優先ではなく、自分たちのやりたいことをベースに事業を進めています。衝動的な部分もありますが、自分たちのやりたいことが最終的にビジネスとして回るようになるのが、norm.の一番重要な核となる部分。好きを突き詰めていったところにnorm.があったような感じがします。いろんな巡り合わせのなかで仲間という存在があり、その仲間とスタートできたのはとてもよかったと思います。
― 仲間たちと好きなことをはじめるためにスタートしたビジネス。土地を購入して、どのような形でビジネスに行き着くのでしょうか?
自然と触れ合うのがキャンプの醍醐味ではありますが、天候や季節によってアクティビティに制限されてしまうことがあります。そのような条件があるなかで、1年中遊びに行ける場所というのがわたしたちにとって重要だったので、野外ではなく箱を作ることにしました。ただ、箱を作ったとしても、おそらく365日の一部分ぐらいしかわたしたちは使いません。持て余すくらいなら、使わない日はお客様に貸せるような箱にして、ビジネスとしてチャレンジしてみようと考えました。メンバー全員とも宿泊業の経験はありませんが、だからこそ宿泊業を客観的に捉え、これまでの宿泊施設に足りないものや、これから流行りそうなものをうまく肉付けできたのだと思っています。
― norm.のコンセプトは、どのようにして決まっていったのでしょうか?
自分たちがどういう遊びをしたいのか、どういうコンテンツを体験したいのか、というのがnorm.のコンセプトとなる出発点。我々がニューヨークで体験したチルな体験やアーティスト支援、地域の活性化など、楽しかったことや日本の方々に体験してほしいコンテンツが、今のスタイルに反映されています。現在、「hotel norm. fuji」と「hotel norm. air fuji」の2棟を運営していますが、norm.の構想から1棟目をスタートさせるまでの期間は、約3年間。資金調達も含めてビジネスの素人が立ち上げを決めたので、一筋縄では行きませんでした。だからこそ、メンバー全員が同じように走り出せた部分もあり、行動力とやりきる力がこのチームの良さだと思います。
アートやチルを発信する、メディアとしての宿泊施設を目指す
― norm.のこだわりや魅力を教えてください。
ホテルの名前にもなっている「norm.」というのは、ノーマル(normal)の略。norm.で体験したものや感じたことが、少しでもみなさんの日常になってほしいという思いを込めて、名付けました。お客様もですが、運営する自分たちもそれがノーマルでありたい。わたしたちメンバーのほとんどが地方出身者なので、少なからず田舎での生活がDNAのなかに眠っているんです。幼少期に体験したような、無邪気に楽しめる場所を提供し、みなさんの日常にインパクトを与えられるような存在になれれば、というのが我々の思いです。
― みなさんのバックボーンが、norm.の魅力につながっているんですね。
元々外資系の化学メーカーや地方のテレビ局、コンサルティングファームで働いていたり、実家が旅館のメンバーなど、多種多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。チームを作っていく上で1番大切にしたのは、ひとり一人の長所を生かすこと。1人1つずつは必ず何か秀でるものがあるはずなので、その特徴やキャラクターが生かされるようなチーム作りを意識しています。norm.の立ち上げ当初は、6人中5人が兼業しながらプロジェクトをスタート。立ち上げから2年が経過した今、ありがたいことに安定的に宿泊者様に入っていただき、6人中3人がnorm.1本でビジネスができているのが、成長した部分だと思います。
― 2棟の宿泊施設を軸に、ウェディング事業や神奈川県大磯にある「Shonan Soy Studio」とコラボし、グリーンファストフードをコンセプトに掲げたテイクアウト専門店をオープンしていますね。幅広く事業をされていますが、今後実現したいことはありますか?
取締役全員の地元にnorm.という宿泊業を展開することを目標に掲げています。我々にとって宿泊業はあくまでも手段のひとつだと思っていて、箱を通じて情報を発信するメディアになるのが最終的なゴールです。そこにはアートやチルがあったり、ローカルという地元の良いものをリブランディングして、より多くの人に知ってもらう媒体になればと。
「業界初」という言葉が好きなので、他の宿泊業では見られないような取り組みをサプライズとして提供していきたいと考えています。例えば、アーティスト・イン・レジデンスという形でアーティストの方に長期滞在していただいてひとつの作品を作っていただいたり、音楽配信やライブミュージックなどのコンテンツを計画中です。あとは、空を使った移動手段が取れないか、と考えていたり。1日1組限定だからこそできる強みを生かしていきたいです。
― 宿泊業というメディアとして企業とのコラボレーションも生めると思いますが、これから実現したいアウトプットはありますか?
これまでに、ハンガーやバスローブといったプロダクトを企業様とコラボレーションして作ってきました。「ホテル」という文脈で、いろんなコラボレーションができると考えていて、家具やインテリア、調理器具など、一緒にプロダクトの開発ができると嬉しいです。最終的には我々が箱だけを用意して、中に置いてあるものが定期的に変わっていくのもアリかなと。宿泊業の新しいスタイルを、norm.でやり続けていきたいです。
文:Nana Suzuki
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