ファッション業界とデジタルを切り離すことができない時代が近づいている。一方、デジタル領域に積極的に投資するファッションブランドはまだ少なく、向こう10年のデジタルとの関わりが、ファッション業界での生き残りを左右するといっても過言ではない。今回NESTBOWLでは、「Web3.0がファッション業界にもたらす変化」をテーマに、KREATION,inc.の代表 和島“Wazzy”昭裕氏にインタビューを行った。さまざまな企業でファッション×デジタルのビジネス拡大に従事したWazzyさんが日々感じているというファッション業界の危機とは? 3部作でお届けする。
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和島 昭裕さん/KREATION,Inc. 代表取締役(COO/FOUNDER)
1974年神奈川県生まれ。アメリカ・アリゾナ州立大学建築学部卒業。広告代理店、楽天を経て、2014年FARFETCH JAPANの立ち上げに従事。続いてHYPEBEAST JAPAN 日本法人社長としてメディアとECの融合をテーマに日本でのビジネスを拡大させる。2021年には元アカツキCFOの小川氏と共同でKREATION,Inc.設立、ファッションブランドのゲーム業界進出の推進やオリジナルNFTコレクション事業をグローバルで展開する。CFD TOKYO正会員。国内ファッションブランドのコンサルティングにも複数携わる。
HP:https://kreationdigital.com/jp/
Twitter: @wazzykreation
Instagram: @wazzykreation
今さら聞けない、Web3.0とは?
― Web3.0についてまだよく知らない人も多いと思います。簡単に教えてください。
まずwindows 95が発売された1990年代半ば頃、パソコンができてそのインフラが整い始め、普及をした時代からスタートします。次のWeb1.0における最大の発明はインターネットのインフラで、そのインフラの上でサービスを展開したのがいわゆるGAFA(アメリカの巨大IT企業4社Google , Apple , Facebook , Amazonの頭文字)と言われる事業者です。そしてWeb2.0になるとそれまで一方通行だったものが、いわゆるソーシャルメディアやブログを通じてユーザー同士がコミュニケーションを取りつながることができる時代になりました。Web3.0というのは実はこのWeb2.0のカウンターカルチャーからできているんです。顧客情報を集約して自分たちの事業を伸ばし、株主のために株価を上げていくというWeb2.0時代の仕組みに対するカウンターカルチャーなのです。
Web3.0の最大の発明はメタバースです。NFT(非代替性トークン)やDAO(分散型自立組織)、DFI(分散型金融システム)を活用できるのがメタバースで、このメタバースの活用がWeb3.0の本丸になっていきます。
メタバースは3種類あって、1つ目はVRゴーグルを装着して非現実世界に没入できる「VR」、2つ目は「The Sandbox」や「Decentraland」のように自らのアバターを操作し、NFTの保有者としてプラットフォーム上の土地やアイテムを売買できるNFTゲーム。3つ目が同時接続で多くのプレイヤーがオンライン上で同時にプレイできるMMO(Massive Multiplayer Online Game)。フォートナイトやモンスターハンターのように一度にさまざまなプレイヤーが参加し、コミュニケーションをしながらゲームをしたりライブを観たりするメタバース。今後、本流になっていくと思われるのがこのMMOのメタバースです。
― 従来のファッションの表現方法というと写真や動画が中心でした。それはどのように変化していくのか?
昔のいわゆる4マス(TV、ラジオ、新聞、雑誌)と言われる時代から、インターネットの普及によってラジオ的な役割をしているのがTwitterであったり、新聞的な役割をしているのがウェブメディアやブログであったり。そんなふうにチャネルごとに変化してきているなかで、表現方法としてのファッションは平面からYouTubeが生まれて、そしてコロナ禍でコレクションのライブ配信が行われるなど、大きく変化してきています。写真、動画ときて次は、という流れでメタバースというのは非常に理にかなった流れです。例えばMMOで同時接続をした3D空間でファッションを表現するというようなことが次の段階として存在していると考えます。
グッチ、バレンシアガ……メタバースを活用するブランド事例
― 今、メタバースでうまく表現しているブランドは?
グッチが「ROBLOX」というオンラインゲームのプラットフォームでコレクションを発表したり、バレンシアガが「フォートナイト」で発表したり、ラグジュアリーブランドのなかでも積極的にメタバースに参加しているブランドもあります。さきほど紹介した「Decentraland」のなかでもファッションショーが実際に行われるなど、まだまだ黎明期ではありますが、ブランディング的に問題なく参加することができるプラットフォームが増えていけば、より多くのブランドが参加できると思います。
― ゲーム空間ではどんどん進んでいるということですね。
スキンと呼ばれる自分のアバターに着せる服が多く流通していて、「フォートナイト」にいたっては1ヶ月で300億円、3年でだいたい1兆円の売上を叩き出しています。これはラグジュアリーブランドの売上に匹敵するレベルです。それなのに、この売上のなかにファッションデザイナーの仕事がまったく関わっていない。これが今のファッション・ビジネスの閉塞感につながっていると感じています。でもこれはある意味メタバースでのビジネスの礎になる非常に大きな一歩だと思っていて。「フォートナイト」は社内でスキンをデザインしていて、日本のアニメのIPとコラボするなどでスキンを販売している。ファッションブランドではバレンシアガが進んでいますが、まだまだ遅れをとっていると思います。
― デザイナーにとっては大きなチャンスがあるということですよね。
はい。ファッションの洋服をつくる工程のなかに、同じ洋服をデジタル上で3Dで作成して、それを動かすことができるプログラムに載せることが並走してできれば、リアル商品とデジタル商品を同時に開発するという流れができる。今はまだ売り先や活用先がないという現状ですが、やろうと思えばできる。僕らの会社では、メゾンミハラヤスヒロやTAAKK、TENDER PERSONと3DCGで商品をつくることにトライして、実際にNFTで販売していますが、やはりファッションデザイナーがつくるデジタルの洋服のデザインというのは、「フォートナイト」で売られているスキンと比べてアプローチがぜんぜん違う。ファッションデザイナーの着眼点や洋服の動き方を表現できる場があるのに活用されないのはもったいないと思います。
― やはりデザイナーの仕事の仕方は違うんですね。
一つ良い例があります。“非接触型”のサイバーファッションを提供するトリビュートブランドは、社内にCGのグラフィックアーティストがいるだけで、自社で商品は一切つくっていない企業。サイトでオーダーして、自身の写真をアップロードすると、その写真の上からCGをレンダリングして、まるでその商品を着ているような画像が届くサービスで人気を集めています。今までだと、いい商品があったら購入して試着をして、撮影してインスタグラムにあげるといった購買パターンでしたが、それと入り口と出口が同じだけど明らかに違うのは“生産がされない”という点。究極のサステナビリティと評価されています。CGなのでグラビティの影響をうけないですし、自由にファブリックもデザインできるので、リアル商品をつくるときの制約なく、自由につくれる点が大きなポイントです。
一人一アバター所有の時代が到来? 実名や顔をさらすことがリスクの今
― 今後一人一アバターみたいな時代がくるのでしょうか?
Web3.0のもう一つの特徴が“匿名性”です。なぜ“匿名性”が必要かというと、Web3.0は暗号資産に変えたお金を自分のウォレットに入れて、色んなプラットフォームに接続してものを購入できるので、セキュリティ面も脆弱。また匿名性の中でSNSで出会った人とのコミュニケーションも避けられないので、詐欺、スキミングは日常茶飯事。(つい先日も時価総額1億円以上のNFTが詐欺グループによって盗難に遭い話題になりました。)なので個人を特定するというのがリスクでしかない世界です。今、InstagramやTwitterのプロフィール画像を自分で撮影して、実名に近い形で登録している人は多いですが、こういったカルチャーは、ほぼなくなっていくと考えられます。自分の顔や名前をさらすことを避けなければならない時代に入っている。そこで必要になるのが、個人を特定するアバターですが、そのアバターがコピーできるものだとなりすましも出てきてしまい、乗っ取られてしまう。そこで活躍するのがNFTです。スマートコンタクトで契約されたトークンなので、そのデザインや画角が基本的に世界に一つしか存在せず所有者を証明してくれるのです。
PFP=プロフィール・フォトはアバターの第一歩になると思っています。そこから自分のアバターがどんどん普遍的なものになっていって、アバターに着せる服を毎日のように取り替える、それが次のステップなのかなと思います。
― 若い人たちが服を買わなくなっている背景も大きいですか?
Z世代の次のα(アルファ)世代の調査が2020年のファイナンシャルタイムスで行われたのですが、α世代が欲しいものランキングの調査で上位にきているのがデジタル商品そのものやデジタル商品を使うデバイスという結果でした。スマホ本体や「フォートナイト」内でスキンを買うために必要なV-Bucksという暗号資産、そして「ROBLOX」内で使える通貨など。「フォートナイト」は月間のアクティブユーザーが3.5億人で、すでにアメリカの人口を超えています。自分の時間をメタバース内で消費するという行動自体が、ファッションの表現も合わせてそこに入っていくという流れがきている。Z世代までは自分でお店に行きショッピングするのが当たり前でしたが、それ以降の世代に関してはオンライン完結型の体験の方を欲していく可能性が大きい。α世代が経済圏に入ってくるのが大体2028年くらいからなので、この世代のファッションとの関わり方には非常に注目しています。
リアル商品だけでサバイブするのが困難な時代へ、ファッション企業が生き残るには?
― リアルなファッションが減少し、バーチャルでの領域が広がっていく。ファッション企業の切り替えも重要ですね。
今年から来年にかけての世界情勢として、ウクライナ情勢や中国のロックダウンなどの影響で国内ブランドのデリバリーがかなり遅れています。もっというと生地の調達や生産工程のなかでの資源調達においても、食品がまさに今、自由貿易が崩壊している状況ですが、それと同じことがファッションでも起きうる状況です。これまでのように商品をつくり販売するということが不安定になる時代が近づいていると仮定すると、リアル商品だけで今後の10年をサバイブしていくのは非常に不安定。デジタルのIPやデジタル商品の開発は、ブランディングされたものであればあるほどニーズは高いですから、そこに参入することは重要なチャンスになるとも考えられます。α世代に向けたアバターのための服が増えていくと仮定すれば、ブランドの半分の仕事がデジタル商品の開発とリアル商品の開発を同時にやるという時代が近づいている可能性が大きいです。
― 採用面ではどういった変化が考えられますか?
例えばブランドの中にブロックチェーンエンジニアを採用する必要はまったくないですが、マーケットにアダプトできるようなナレッジを持つ人がいる必要はあります。デジタル商品をディレクションできる人材は今後ブランドに一人は必要になってくると思います。リテラシーやWeb3.0への理解を深めることで、テクノロジーがブランドの格差を生むということを防げるのではないかと考えます。
実際にバレンシアガやグッチは積極的にデジタルチームの採用を進めていますし、マーケティングに対して投資しています。メタバースに対してバジェットを取り投下するというのはすべてα世代を見据えてのことです。さきほど紹介したバレンシアガのスキンは1体約1,000円程度なんです。けれど、同じフーディーをリアルで買おうとすると12万円はする。彼らはα世代にリアル商品を売るつもりはなくて、ブランドへの憧れの情勢やブランドへのタッチポイントとしてつくっているというのが彼らの戦略です。
― 今後、リアル店舗がどうなっていくのかも気になりますね。
Web3.0は確実にリテールショップやECを変えていくものですし、そういう時代に直面していて、既にそこに入っているという事実をファッション業界に携わる方たちには知っていただきたいと思います。
中編 Future of Retail編に続く。
撮影:Takuma Funaba
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