アパレルメーカーやブランドを中心に、ファッションビジネス(FB)業界でも商品や店舗などXR(仮想現実、拡張現実などの総称)の取り組みが続々と登場している。現実をバーチャルで再現するデジタルツインが盛り上がるなか、多くの企業にとっては新たな領域のデジタル資産であるために、知的財産権の面での悩みや問題も生じる。弁護士、弁理士は、そうしたバーチャル領域の相談の門戸を開いている。
ADVERTISING
あの街並みがVRに
FB業界でバーチャルな取り組みのスタンダードは、デジタルウェアだろう。「あのブランドの服をアバターに着せられる」という体験価値を提供する。
他方で、街づくりが日本のバーチャル領域全体で進んできた。企業が合同で参加する大型のイベントを実施できる場として活用されることが多い。その街の中に、さらに出展企業ごとにブースとして店舗を作りこむ。
現在、これらの動向においてキーワードとなるのがデジタルツインだ。フィジカル(現実にある実物)と同じものを3D・CGなどでバーチャルに再現することが、一つの付加価値となる。街の場合、パラリアルとも表現される。渋谷や秋葉原、大阪、沖縄――と街並みそのままの全国の都市が散発的に現れた。
家具や建物の許可は
しかし、自社商品はともかく、店舗や街といった空間の再現では、インテリアや建物など自社が知的財産権を所有していないものも含まれる。権利処理の必要な範囲を判断しづらい企業も少なくないだろう。弁護士・弁理士の松永章吾氏は、「企業は権利について敏感になっているが、萎縮する必要はない。正しく知識を理解して選択してほしい」という。
インテリアについては、専門家によって考え方が分かれるものの、松永氏は日用品など実用物のデザイン(応用美術)の再現する度合いが著作物性や意匠権侵害の判断に影響するという考えだ。「精緻(せいち)に再現した場合、実際と同じ用途で使えるなら、著作物性は認められない。しかし、デフォルメして実用性がないというような、独立した鑑賞の対象になるなら意匠権の権利侵害となりうる」という。例えば、フィジカルのオフィスチェアをアバターの座れる機能を持たせた高精度な3D・CGとしてバーチャルで再現する場合は権利侵害に当たらない。
屋外建造物については、基本的に知的財産権は発生しないため、建造物の所有者などから許可を得る必要はない。しかし、フランスではエッフェル塔のデザインが著作権で保護されるなど例外もあるので、弁理士を通じて各国の弁理士などに調査依頼する形で他国のリスクを知っておく必要がある。これは、シャツの柄のモチーフにするなど、フィジカルの商品の場合にも当てはまる。
こうした権利については、なるべく早期に専門家に相談することが重要だ。日本弁理士会では、オンラインで予約・相談できる無料相談窓口を設けている。同会では著作権、特許、意匠、商標など各委員会で集まって、メタバース(インターネット上の仮想空間)領域の知財保護について議論しており、各権利の専門家を多く抱えている。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【繊研plus】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境