日本のヴィンテージ家具
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山口:少し前に、リビングの模様替えをしたんですよね。メインに据えた天童木工のHacoチェアとテーブルが、僕の中で今年一番のベストバイです。
F:ウッド調の部屋の作りと合っていて、落ち着きのある空間にまとまっています。
山口:僕は何年も前からピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret)の家具を集めてきたんですけど、療養中に考え方が変化していったのもあって、手放そうとも思っているんです。歴史を守るというか良さを広めたいという思いもあって集めていたのですが、今割とたくさん出回っているじゃないですか。偽物も多くなっているようで、僕が持っているということで欲しくなった人が偽物を手に入れるケースも出てくるかもしれない。それだったらもっと価値を見出すべきものがあるんじゃないかと考えたのが、日本のジャパニーズモダンのヴィンテージ家具に興味を持つきっかけでした。
F:前回、日本のものに嗜好が変わってきているという話をうかがいました。続いていますね。
山口:はい。価値に気づかれずに廃棄されていっている日本の家具もあると聞いてから、自分が好きなデザインを見つけて、守るべきものを守っていきたいなと思って勉強し始めました。このHacoチェアは剣持勇のデザインで、チーク材の1970年代のものですね。
F:古さを感じさせません。座り心地も良いですね。
山口:その奥のパソコンを置いているデスクも天童木工のヴィンテージで、最近入れ変えたところです。デスクは僕にとって、家の中で一番長く過ごす大事な場所なんですよね。
F:以前のデスクは確かジャンヌレでした。
山口:そこでたくさん曲を作ってきたので、デスクを変えることは自分の中で大きくて。でも僕は歌詞を書く時に本や書類がいっぱいになるので、前よりも大きくなった分、作業がしやすそう。これも1970年代のものなのですが、当時ならではの特徴として脚の素材がスチールだったり珍しいんです。こういう良い状態のものが見つかった時は歓喜しましたね。
F:重厚感があって素敵です。
山口:もうひとつ良い買い物をしたのが、ジョージナカシマの椅子。座ってみますか?
F:おお〜......なるほど、座面が低いんですね。
山口:そう、ちょっと変な感覚で違和感がありますよね。和の感じもするというか。もともと持っていたジャンヌレの低いテーブルに合う椅子を探していたんです。それで片山さん(ワンダーウォール代表 片山正通)に協力してもらったら、ジョージナカシマのコノイドラウンジという椅子が合うんじゃないかって。
F:まさかのシンデレラフィット。少し座椅子のような雰囲気もあって、床に近いからか落ち着きます。
山口:ですよね。この独特な存在感が最高なんです。
F:これでリビングのインテリアは完成形ですか?
山口:実はまだで、ここにペルシャのラグが届く予定です。黄色が入った珍しいもの。そして暖かくなったらラタンの家具に入れ変えたりとか、季節によって模様替えをしていこうかと思っています。日本のジャパニーズモダンの家具のいいところって、実はリプロダクトとしても存在していることで、欲しいなと思ったら現行のものを手に入れることもできるんですよね。また色々と見つけて大切にしていきたいと思っています。
F:そんな山口さんが作る椅子も見てみたいです。
山口:僕はインテリアデザイナーではないので、デザインするというよりも考え方を提供するといった形であれば、何かできたらとは思いますね。でもお休みをいただいて家で過ごしている時、作ったわけではないですがDIYをやってみたんですよ。ルンバを収納する家具とかバッテリーとか、どうしてもインテリアと合わないデザインのものに木目調のラッピングシートを貼るという。
F:ものすごく綺麗......そんな才能が(笑)。
一年を振り返って
F:様々な決断と変化の年になったかと思いますが、今年のベストバイにも新しい考え方が反映されているように感じました。この一年を振り返ってみていがかでしょうか。
山口:やはり6月に体調を崩してしまったことは大きかったですね。担当医に燃え尽き症候群と言われて、すぐ治るものではなくて一生付き合っていかなければならないことを知り、しんどい時期もありました。最初の頃は「元に戻りたい」という気持ちが強くて、その分どこか「変わらないように」と敏感になっていたんです。でもある時、自分は元には戻れないということがはっきりとわかって。じゃあ、新しくなろうと。
サカナクションではコロナ禍も「新しいものを発明していこう」と色々とやってきたのに、自分の中では壊せない部分もあったのだと思います。怖くて壊せない。そこを一旦リセットすることで、自分を壊せるようになったのかもしれません。ファッションも「結構変わったね」と言われるんですよ。今まで見ているだけだったルイスレザーのライダースを着てみたのもそうですし。自分と向き合いながらどう変わっていくか冷静に考える時間を、この療養中に作れているんじゃないかな。なので今は苦しくないというか、自然にそのまま曝け出すことができている気がします。
F:ずっと走り続けてきたので、一度立ち止まる時間も必要だったのかもしれません。
山口:15年間で休んだ日数を足してみても1ヶ月もなかったので、今思えば忙し過ぎたんですね。なので今、15年分の有休消化をしているような(笑)。みなさんにはご迷惑をお掛けしましたが、しっかり休んで整えながら、いままで触れてこなかったエンターテインメントやカルチャーを経験してみたりしているんです。モノ選びもそうですけど、何か違うものに触れることでそれを好きな人の気持ちを知ることができるし、これから自分がアウトプットするものにも生かしていけたらと。
F:ずっと温めていたという自身初の書籍(「ことば: 僕自身の訓練のためのノート」青土社)の発表などもありました。まだ療養は続くと思いますが、これからの活動についてはどのように考えていますか?
山口:僕は本に囲まれて育ったので、背表紙に自分の名前が書いてあることが本当に信じられないほど嬉しかったですね。音楽制作については来年から徐々にですがスタートしていけたらと考えています。インスタライブなどでたくさんの人と交流したり仲間と話しながら自分の頭の中を整理して、これまでとは違う活動を始めていきたいなと。またお待たせしてしまうかも知れないですが。
F:音楽のことも音楽以外のことも、楽しみに待っています。
山口:やっぱりワクワクすることが好きだし、それに僕は失敗も好きなんですよね。なので失敗してもいいからワクワクするようなチャレンジを選んでいきたい。早く失敗すればやり直せるので、それも面白いと思う。もしこの病気を失敗と呼ぶならば、これを糧にして、また新しい作品を生み出せていけたらと思っています。
■山口一郎
1980年北海道生まれ。5人組バンド「サカナクション」として2005年に活動を開始し、2007年にメジャーデビュー。ほとんどの楽曲の作詞作曲を手掛ける。2015年に「NF」をスタートさせ、カルチャーをミックスした多様なプロジェクトを展開。2020年のコロナ禍には初のオンラインライブ「SAKANAQUARIUM 光 ONLINE」、2021年には山口一郎の自宅から生配信する画期的なオンラインライブ「NF OFFLINE FROM LIVING ROOM」を開催した。同年10月に新プロジェクト「アダプト/アプライ」を発表し、11月にオンラインライブ「SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE」、そして全国アリーナツアー「SAKANAQUARIUM アダプト TOUR」を開催。常に時代の先端を歩む姿勢で、様々なシーンに影響を与え続けている。著書に「ことば: 僕自身の訓練のためのノート」(青土社・2023年3月31日発売)。
サカナクション公式サイト
「SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE」Blu-ray & DVD 2023年2月22日発売
■山口一郎のベストバイ
・2016年に買って良かったモノ
・2018年に買って良かったモノ
・2019年に買って良かったモノ
・2020年に買って良かったモノ
・2021年に買って良かったモノ
【2022年ベストバイ】
・ユナイテッドアローズ 栗野宏文が今年買って良かったモノ
・アトモス創設者 本明秀文が今年買って良かったモノ
・シスター 長尾悠美が今年買って良かったモノ
・ファッションエディター 大平かりんが今年買って良かったモノ
・“インスタグランマ”内藤朝美が今年買って良かったモノ
・GR8久保光博が今年買って良かったモノ
・元GQ編集長 鈴木正文が今年買って良かったモノ
・さらば青春の光 森田哲矢が今年買って良かったモノ
・音楽家 渋谷慶一郎が今年買って良かったモノ
・ダイエット美容家 本島彩帆里が今年買って良かったモノ
・美容クリエイター GYUTAEが今年買って良かったモノ
・スタイリスト TEPPEIが今年買って良かったモノ
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・川谷絵音が今年買って良かったモノ
・アメリヴィンテージ 黒石奈央子が今年買って良かったモノ
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・ゲームコミュニティ・ボルトルームオーナー DOIが今年買って良かったモノ
・スタイリスト&フリーランスPR 柳翔吾が今年買って良かったモノ
・NOSE SHOP代表 中森友喜が今年買って良かったモノ
・[Alexandros]川上洋平が今年買って良かったモノ
・繊研新聞 小笠原拓郎が今年買って良かったモノ
・あさぎーにょが今年買って良かったモノ
・FASHIONSNAP社長 光山玲央奈が今年買って良かったモノ
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