今や、子どもたちの憧れの職業にもなりつつあるeスポーツの世界。優勝賞金が30億にのぼる世界大会も開かれる巨大マーケットのひとつです。このeスポーツ業界で、日本の老舗チームともいえる「SCARZ(スカーズ)」を率いる代表の友利洋一さんに、最近のeスポーツ事情やSCARZの独自性、ファッションとの関連性についてお話を伺いました。
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友利洋一さん/「SCARZ」オーナー 株式会社XENOZ 代表取締役
自身もプレイヤーだった経歴を持ち、2012年にeスポーツチーム「SCARZ(スカーズ)」を発足。今や、eスポーツチームの老舗となったSCARZでは、さまざまなタイトルの活躍選手を抱え、日本のeスポーツ業界を支え盛り上げている。
優勝賞金30億の世界大会も!右肩上がりのeスポーツ市場
― はじめに、eスポーツとはどんなものでしょうか。
ゲームを競技にしたものです。家やゲームセンターでのゲームもありますが、eスポーツはお金で強さが変わらない、つまり課金で金額分の力を手に入れるのではなく、実際に操作する人間がどれだけ上手いのかを競うのがeスポーツだと捉えています。
ゲームのジャンルは幅広く、スポーツや格闘、島に100人降り立って最後の1人になるまで戦う「バトロワ」と呼ばれるゲームやシューティングゲームなどがあります。主軸はFPS(First Person Shooting)というシューティングゲームで、5対5のチーム戦で戦うタイプが人気があったり、MOBAと云われるジャンルや格闘ゲームも含めて幅広く人気があります。
― 日本のゲーム市場は任天堂やコナミなどゲームメーカーが強いと感じますが、世界市場はどのようになっていますか。
市場全般として、海外のゲームが8〜9割を占めて非常に人気です。日本のメーカーですと任天堂様やカプコン様の格闘ゲームがeスポーツの中でも人気があると認識しています。
― ちなみに今、業界で最も盛り上がっているタイトルを3つ挙げるなら何でしょう?
「VALORANT(ヴァロラント)」と「Apex Legends(エーペックスレジェンズ)」、あとひとつは人によって違うと思いますが、個人的には「IdentityV 第五人格(アイデンティティファイブ)」が人気かと思います。
― eスポーツは、ここ10年くらいで新しいカテゴリのスポーツとして市民権を得て、今や国際的にも活況ですね。友利さんは、現状の国際eスポーツ事情をどのように見ていらっしゃいますか。
国際的には右肩上がりに伸びています。少し前まで日本は遅れているね、と言われていましたが、今はオフライン大会があれば大勢の観客が入り、会場のキャパが足りないくらいで、eスポーツが根付いてきた感じはあります。それから、女性客が増えましたね。コロナがやっと落ち着いてきて、オフライン大会ができるようになったところで、実際に会場へ足を運ぶと女性が多い。「こんなに女性っていたっけ?」みたいな感覚です。コロナ禍を経て、ゲームへの偏見や恥ずかしさがなくなってきた印象です。
― オフライン大会のことが出ましたが、オンライン大会との違いについて教えてもらえますか?
eスポーツは、基本的にオンライン大会で、自宅にいて大会に出ます。トーナメント形式で勝ち上がると、準決勝戦、決勝戦などはオフライン大会になる。僕らはオフライン大会を目指して活動しています。オフライン会場は、さいたまスーパーアリーナ、有明の東京ガーデンシアターで「VALORANT」の大会が開催されましたし、僕らがApexで大会をやった時は渋谷のATOM TOKYOでやりました。
― 日本市場が北米や欧米と差はなくなったと感じる部分、まだ差があるなと感じる部分はありますか?
昔は、SCARZが大会で優勝しても「優勝したのは知ってる。だけど配信は見てないし、リアルタイムで応援もしてない」という人が多かったのですが、最近はリアルタイムで応援してSNSで発信してくれる人が増えていますね。世界大会だと、朝6時から試合開始という日もある。ゲーマー界隈では「寝不足なんだよね。朝まで見ていて」なんていうやりとりも聞こえて、サッカーW杯を見る感覚に近づいてる感じです。
ただ、海外と比べた場合は出資やスポンサーなどの差があるように感じますが、日本も良い方向に動いています。我々SCARZとしても10年近くいて年々それは上がってきてることは体感していますし、eスポーツがカルチャーとして認知度が高まっており、人口も増えている段階なので成長市場であることは間違いないです。
― バスケットボールやサッカーでも同じ状況だと感じますが、eスポーツをマネタイズする上でマーケットに対して何が必要でしょうか。
日本市場が魅力的だと伝えていくことですね。それが伝わっているからか分かりませんが、海外チームが日本にチームをもつ動きが出ています。実は日本で流行っているタイトルが海外ではそうでもなかったり、その逆もあったりという状態が生じています。
文化的なことも大きな要因かと。日本だと僕らの幼少期からコンシューマーゲームがあった。海外ではPCゲームが主軸だったから、「このタイトルで1位になれば本当にすごい」というニュアンスの違いがありますね。
そういう中で、日本で流行っていないゲームで世界優勝すると多くの注目されるんじゃないかなと思います。例えば、「Counter-Strike: Global Offensive(カウンターストライク:グローバルオフェンシブ)」や、賞金総額が30億超えの「Dota2(ドータ・ツー)」というゲームは、日本ではやっている人が少ない。僕らもその中でチーム活動をしましたが、海外の壁は高いと感じましたね。アジア圏だと中国と韓国が強いイメージですね。韓国はeスポーツが早くから文化として根付いている。欧米ももちろん強いですし、最近はブラジルがものすごく強いです。
だけど、新しいゲームの場合は世界で同タイミングで始まるタイトルもあるので、そういうゲームで優勝するのも大きな注目を浴びると思います。
人々の心に爪跡を残したい。SCARZ、これまでの10年間の歩み
― SCARZがeスポーツのチームを立ちあげたきっかけは?
SCARZは2012年に立ち上げました。当初はここまで大きくなるつもりもなくて、ゲーム内でチームを作ってたりして僕自身も選手でした。良い順位になっても特に支援もない環境で、普通に働きながらやっていたわけですけど、若い子たちにはゲームでごはんを食べられるようになるとか、ゲームで世界一になってほしいと思っていました。これは、僕が叶えられなかった夢でもあるんですが。
次世代に自分の夢を叶えてほしいという気持ちでした。それで、2015年から2016年の頃、プロチームを立ち上げました。
― SCARZという名前の由来、チームの人数について教えてください。
SCARZは、人々の心に爪跡を残したいという気持ちで名付けました。つねに伝説を刻んでいくというニュアンスもあります。
選手は約50名で、川崎をホームタウンにしています。スタンスとしては、「世界一になる、有名になる、eスポーツを知らない人にも伝えてカルチャーとして広げていきたい」の3つ。日本代表として世界大会で戦ったことがあるゲームは、先ほどのFPSやスポーツゲーム、バトルロワイヤル系など。また、障がい者の方やご年配の方にも、仮想空間だからできることをどんどん広げたい。あとは、体制を整えて、日本チームが世界で勝てる体制をSCARZで作りたいですね。
もうひとつ付け加えるとしたら、SCARZって日本のチームとしては珍しく海外の選手もいるんですよ。マルチに構成されたチームというのも特徴のひとつです。
日本発のグローバルチームとして動いていく。
― それは、SCARZのグローバル化と言えると思いますが、なぜそこに舵を切ったのでしょうか。
海外の選手は意識が高い方が多いと感じます「eスポーツは人生だ」と。例えば、週に4日練習するのと7日練習するのでは、圧倒的に力量の差が出ます。海外選手だと「週7やるよ。じゃないと勝てないもん」と言います。逆に「あまり練習しなくても勝てちゃうし」という感じだと世界戦で当たると勝てないわけですよ。eスポーツはオンラインでできるので、特定の国籍にこだわることはない。世界でSCARZの名前を背負ってくれるなら、出身がアメリカでもヨーロッパでも良いなと思い、僕らはグローバル化に舵を切りました。
SCARZスタンスとして人間性を重視するのは、最終的には勝利を導くことを信じており、そこに国籍は関係なくSCARZポリシーを継いでるなら問題ないという判断です。
― アスリート・プレイヤーの方は、普段、どのようなトレーニングをされているのでしょうか。
皆さん最初はソロでプレイします。時間を費やして個人技を上げる。ひたすらゲームをするしかないわけです。その先に、チーム活動。ソロで自分がうまくなったら、チームと交流する。僕たちSCARZの選手はチーム連携が魅力的だと思っているので、大前提でソロの力は必要だけれど、チーム力を重視する。そのために、チーム5人が集まって韓国や東南アジアのチームと練習試合をいっぱい組んで5人で学んでいく。
― なるほど。ATOM TOKYOでのイベントはどのようなものだったのでしょうか。
昔から、eスポーツはアニメ、マンガ、音楽、フィジカルスポーツといった、あらゆるエンタメとくっつけられると思っていて、一番近しいのが音楽だなと。実際、ゲームしながら音楽を聴く人は多いんです。そこで音楽とeスポーツを掛け合わせたSoulZというイベントの発足に至りました。だから、大会を共同主催してハーフタイムに音楽を組み入れたりしたら面白いんじゃない?という発想で、僕自身がヒップホップが好きなのでリクエストしました。
― eスポーツファンの方やSCARZファンの方の反応はどうでしたか?
最初の反応は、賛否両論でいろんな意見がありましたが、回数を重ねるごとに面白いと思ってくれる人も増えてきましたね。日本や海外のチームをやるグローバルMIX形式でApexをやったときに、海外の方が「めちゃくちゃクールじゃん」って喜んでくれたんですよ。そうすると、日本人のファンの方も海外選手の配信を見て「いけてるじゃん!」という反応が広まった。そこで、新しい文化の発信になるということを信じて大会を開いています。
eスポーツ業界におけるスポンサー獲得戦略とファッション戦略
― SCARZは応援してくれるスポンサー企業が多いと感じますが、スポンサー獲得の戦略は?
現在のスポンサー数は22社くらいですね。スポンサー獲得のためにやっていることは、地道な営業です。先方が何を求めているのか、僕らは何ができるのかを企画書に落とし込みながら、2回目、3回目と話し合いを重ねて目標が一致すればやろうとなりますし、そうでないときもある。
僕らの強みは、人間性を重視するチームで、マルチタイトルで活動しているところ。海外にも宣伝できることや川崎をホームタウンにしていることなどですね。長年、一緒に歩んでくれるスポンサーが多く非常に助かっています。共に歩んでくださる協力者の皆様の力添えがあるからこそ今のSCARZがある、そして将来のSCARZに繋がることにとても感謝しています。
― NESTBOWLの読者が興味のあるテーマですが、eスポーツ業界ではどのようなマーチャンダイジングが人気ですか?
選手も着用するグッズが人気です。洋服も展開していて、パーカーやシャツ、ブルゾン。あとはユニフォームも人気ですね。選手の服装もSNSで発信してグッズに興味を持っていただくということをしています。販売は基本的にオンライン販売か試合会場での販売の二通りしかありません。ライブの記念に買って行く人もいますし、これが好きで手に入れたかったという人もいます。
SCARZのオリジナルアパレル(https://www.scarzstore.net/)
SCARZのオリジナルアパレル(https://www.scarzstore.net/)
SCARZのオリジナルアパレル(https://www.scarzstore.net/)
― 今後の展望について、5年、10年後にどのようなチームになっていきたいと思いますか?
世界的に有名なチームの強さや知名度を手に入れたいなと思っています。そこが僕らの最大の課題だと思っていて。そのためにグローバル化をしているわけで。僕自身もグローバルチームを見てすごいなと思うので、早く追いつきたいです。
― ありがとうございました。
ここ最近、eスポーツ業界は他業種からの注目度が高く、SCARZも11月に大丸松坂屋百貨店やパルコなどを運営する、J.フロントリテイリングの傘下入りを発表したばかり。その後も海外のeスポーツチームと共にDolce & Gabbanaとの提携を発表し、eスポーツの世界にファッションブランドが進出するためのプロジェクトに参加しています。「SCARZ」自体がグローバル化を伴ってこれまで以上に強くなり世界を視野に入れ有名になること、eスポーツをより幅広い年代へと広めていくこと。老舗チーム「SCARZ」の功績はもとより、友利さんの今後のチャレンジにも大いに注目したいところです。
撮影:加藤千雅
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