群馬県桐生市の縫製業、ナガマサ(長谷川博社長)は数年前から自社ブランドの生産に乗り出し、卸先の拡大を目指している。オリジナルブランド「シーズンオフ」は、地元、桐生産地や周辺地域の企業と連携した商品開発に力を入れている。5年前から本社工場にカフェ併設のセレクトショップ「イーチオブライフ」を開設し、地方からのファンづくりにも挑む。
ADVERTISING
ナガマサは長谷川博氏の父親が創業した縫製業、ナガマサ商事が母体。博氏は東京の大学を卒業し、アパレルメーカーの営業担当を10年経験した後に実家に戻り入社。OEM(相手先ブランドによる生産)の営業を担当していた。その後、アパレルの海外生産シフトが拡大する時期と重なり、父親が国内生産の難しさから会社を閉めた。
それを博氏が事業承継し新生ナガマサを設立したのが20年前。先代の時に30人だった従業員も3人を残し、OEM事業を継続した。同社は元々ブラウス工場で先代の時から働いている熟練職人が在籍しており、最近入社した若手職人は布帛もカットソーも縫製できる。現在、OEMはカットソーアイテムが中心だ。それから10年間はOEMも順調だったが、取り組み先からの受注量が落ち込み、外注先の高齢化などもあり、7年前から自社ブランド中心の生産に切り替えていった。
若い世代に継承
工場のスタッフは指導的立場の70代の熟練職人1人と30代3人の計4人。技術者の高齢化が進む中で技術を継承するために「縫製をしてみたい」という若年層を雇用し、「ベテラン技術者を先生として社内工場に来てもらい、技術のみならず量産商品の組み立て方、ラインの流し方など長年培ったアパレル縫製のノウハウを伝授してもらい、2~3年後にはその人たちがさらに若い世代に継承するシステムを作りたい」(長谷川社長)としている。
工場設備は本縫いミシン4台、本縫い上下送り1台、ロックミシン2台、三本針ミシン3台、メローロックミシン1台、穴かがりミシン1台、ボタン付けミシン1台、閂(かん)止めミシン1台で構成する。ミシン以外にも、裁断機1台、アイロン台2台、アイロン2台、CAD(コンピューターによる設計)1台、ローラープレス機1台、検針機1台が揃う。
オリジナルブランドのシーズンオフは自社のショップで販売するとともに、数年前から東京の合同展にも出展し、卸先の拡大を目指している。同社が桐生という複合繊維産地にあることから縫製だけではなく、織物、染色、刺繍、プリントなどの加工も地元で対応できるのが強みだ。「桐生は古くから繊維産業で栄えた街であり、いまだに多くの企業が残っている。それらの企業が持っている伝統的な職人技や新しい技術をシーズンオフの商品をフィルターとして、多くの人に見てもらう機会になれば」との思いが長谷川社長にはある。
刺繍ボタンで協業
ナチュラルでベーシックなアイテムを提案するシーズンオフは地元、桐生産地の強みを生かした商品開発が特徴だ。カスタマイズ対応の「イロドリ」シリーズでは桐生の刺繍にフォーカスした。
近所のチャームファッションオオキ(桐生市)が開発した刺繍で作ったカラフルなボタンをシャツに採用した。企画提案型の刺繍のOEMを主力としてきた同社は、数年前から従来型のOEMに危機感を覚え、自社の製品化に挑んだ。「どうせ挑戦するなら得意分野で勝負しよう」(大木康雄社長)と刺繍糸だけでボタンを作った。これは世界的にも珍しく、通常プラスチックで作られるボタンが綿糸やリサイクルポリエステル糸で代替できてサステイナブル(持続可能な)でもある。「刺繍糸なので染色する必要もなく、密度を変えれば硬さも変えられるため、ファッション用途以外に、パジャマや介護などの分野でも今後は期待できる」としている。
ナガマサのカフェ併設セレクトショップ、イーチオブライフの店頭では、今秋には刺繍で作ったカラフルなボタンを選べるセミオーダーシャツの先行受注会を開く予定。両社では刺繍で作ったカラフルなボタンをワンポイントロゴのようにTシャツのデザインアクセントとするカスタマイズ企画なども検討中だ。
「小さなファクトリーの自社ブランドにとって重要なのは愛着を持って着てもらうこと。そのためには、ものづくりの背景やストーリーが大切。将来的にはパーソナルニーズに対応したセミオーダーに力を入れたい。その時には誰に縫ってもらいたいかを求められるまでになりたい」と長谷川社長は生産現場の地位向上に努める。
《チェックポイント》地元の洋服以外のアイテムも紹介
自ら作り・売る場として直営店、イーチオブライフ(店舗面積約165平方メートル)を開設したのは17年9月。オリジナルブランドのシーズンオフは春夏中心の軽衣料が強み。自社の商品だけでなく「地元の作家による雑貨やアクセサリー、インテリアなども紹介したい」との思いからライフスタイルショップとして、洋服以外のアイテムも充実した。
オープン当初は地方の住宅街立地にある工場併設ショップだったため、カフェを前面に押し出し、ふらっと立ち寄れる場を演出した。最近では地元で服を買う場がないと来店してくれる50~60代のリピーターも増え、土日には市外・県外からの来店も目立つ。
オリジナルとともに「桐生産地の技術も広く伝えたい」との意識も強く、群馬県をはじめ関東の百貨店での期間限定店の開設にも力を入れている。なお、直営店では服作りに従事するスタッフも店頭で接客することで、モチベーションアップにもつながっている。
《記者メモ》チームとして新たな付加価値
縫製工場がオリジナルブランドを立ち上げ、ECなどで販売する動きはコロナ下で加速した。さらに工場併設ショップを開設する話もよく聞く。ただし、工場は作るのは得意でも、売ることが苦手というところがほとんどだ。やったことがないのだから当たり前のこと。それでも新しいことにチャレンジする精神が重要だと思う。
ナガマサは地元である桐生産地の様々な企業と連携した服作りができるのが大きなメリットになっている。1社ではできることも限られるが、チームとして協力し合えれば、新たな付加価値を生み出すことができる。
これからは規模の大小に関係なく、長く愛される商品を提供し続けられるファクトリーブランドが求められる時代になるのではないか。
(大竹清臣)
(繊研新聞本紙22年8月24日付)
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【繊研plus】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境