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街と編集の関係性とは? 奥渋カルチャーの発信地、個性派書店「SPBS」流の店作り

「SPBS本店」外観(撮影時の外観の様子)

Image by: FASHIONSNAP

「SPBS本店」外観(撮影時の外観の様子)

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街と編集の関係性とは? 奥渋カルチャーの発信地、個性派書店「SPBS」流の店作り

「SPBS本店」外観(撮影時の外観の様子)

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 クリエイティブオフィスやギャラリー、セレクトショップ、カフェなどが立ち並び、多様なカルチャーが醸成される街 奥渋谷。渋谷区神山町に構える本と編集の総合企業「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS」(以下、SPBS)は、奥渋エリアの変遷を見続けてきた企業の一つだ。独自の視点でキュレーションした書籍や雑貨が並ぶ旗艦店「SPBS本店」は、クリエイターや編集者、アーティストの中にも足繁く通うファンは多い。2007年の創業から15年を迎え、書籍を通じて人とモノ、人と人を繋げ、街を"編集"してきたSPBSのこれまでとこれからの話。

店舗運営から書籍編集まで...個性派書店の先駆け「SPBS」

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 SPBSは「本と本屋の未来の扉を開く」をヴィジョンに掲げ、6つの事業を多角的に展開。出版物の制作・販売、店舗運営、WEBコンテンツ制作、広告物制作、スペースレンタル、イベント企画運営を手掛けている。店舗運営では、独自の視点でキュレーションした書籍が並ぶ旗艦店「SPBS本店」をはじめ、本とギフトの店「+SPBS 渋谷スクランブルスクエア店」、フェア型セレクトショップ「CHOUCHOU 渋谷ヒカリエ ShinQs店」など、渋谷エリアを中心に5店舗を展開。2020年には虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーや、アーバンドック ららぽーと豊洲に出店し、渋谷以外のエリアにも進出している。書店不況と言われる昨今においても、独自のキュレーションやユニークなイベント企画が功を奏し、着実にファンを増やし続けてきた。

 SPBS本店がオープンしたのは2008年1月。ガラス越しに見える奥のフロアには同社のオフィスがある。店頭での展開商品はメジャー、インディーを問わず雑誌や話題の作品、リトルプレスまで多岐にわたり、本好きのために厳選した雑貨や古着、読書の際にリラックスするためのディフューザーも取り揃える。会社設立から現在に至るまで、電子書籍の普及、震災、新型コロナウイルスの感染拡大などさまざまな出来事があったが、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS マネジメント本部 マネージャー 神垣誠氏は「目まぐるしい15年間でした。創業当時は今ほど奥渋谷に注目が集まっていなかったですし、最初はお客さまが中々来なくて苦労しました。震災やコロナなど外的要因の影響も大きく、立ち止まって考える機会はあまりなかったなと。とにかく変化に対応しなくてはと、みんなでがむしゃらにやってきたというのが正直なところですね」と振り返る。スマートフォンやSNSの普及も後押しし、奥渋谷エリアの認知が広まったことでSPBS本店の客足も徐々に伸びていったという。

「SPBS 本店」(撮影時の店内の様子)

Image by: FASHIONSNAP

 同店を訪れるのは近隣住民をはじめ、付近にオフィスを構える編集者やフォトグラファーなどのクリエイター、付近のセレクトショップやコーヒーショップのスタッフ、近隣のテレビ局関係者など客層は幅広い。ゲストを迎えたトークショーなどのイベントもオープン当初から実施。また、コロナ禍以前は深夜営業も行っており、日夜さまざまな人が行き交うコミュニティの場としての役割も果たしてきた。

書店を通じて見える渋谷の街の変化

 新型コロナウイルスの感染拡大を境に、来店する客層に変化が見られると神垣氏は話す。「2年前と比べて渋谷の人の流れが若者寄りになった印象はあり、店舗を訪れる客層も少し変わったように感じています。これまでとは違ったアプローチ方法を考える必要性を感じました」。渋谷エリアにオフィスを構える多くの企業が在宅勤務に切り替わり、シアターオーブやシアターコクーンといった主要な劇場が休演したことなどが、来店者の客層に影響。「コロナ前ですと本店の年齢層は20〜40代の方が多かったですが、コロナ以降は、10代後半〜20代前半など学生の方が増えてきた印象です。売れるものも変わりましたし、客単価は少なからず下がってはいます」

「SPBS本店」(撮影時の店内の様子)

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 目まぐるしく変わる渋谷エリアで生き残り続けてこれた裏にはどのような戦術があったのか?神垣氏は「実を言うと戦略的なマーケティングに人手や資本をしっかり投入できてきたわけではないので、シンプルにお客様目線を意識して丁寧な選書と商品のセレクトを心掛けてきたことが皆さんに受け入れられたのかなと。店長やスタッフが変わるごとに少しずつ、緩やかに店舗の特色も変わってきていて、飽きが来ないといいますか、うまく時代にマッチしてきたのではないでしょうか。大型書店と違って『この本を買いに行こう』と決めて来るお客さまは少なく、『行ったら何かありそうだ』とちょっとした想定外に出会える場所がSPBSなんじゃないかと」と話す。商店会にも加入しており、過去には街灯フラッグのデザインや、近隣のギャラリーとのポップアップ、祭りに参加して神輿を担ぐといったこともしてきており、さまざまな形でSPBSは奥渋谷にコミットしている。

コロナ禍で出店となった豊洲、虎ノ門での挑戦

 2020年には豊洲、虎ノ門エリアにそれぞれ新店舗を出店。いずれもコロナ前から進めていたプロジェクトだったため、オープン後は思うように集客できない壁に直面した。「ヒカリエの店舗と本店の2店舗の経営は安定していて、このまま土台を固めていくのか、拡大していくかという時にありがたいことに複数の商業施設からお話をいただいた。ここで勝負をかけてみるかということで新規出店に乗り出しました」。出店準備が進む中コロナ禍に突入し、急ピッチでの軌道修正を余儀なくされた。当初予定していた4月から約2ヶ月遅れの6月に開業を迎えた。

 虎ノ門ヒルズビジネスタワーは「ビジネスパーソンの感性を内側からサポートしていけるような店舗にしたかったんですが、実際はオープン直後はコロナ禍で入居される企業は少なかった。入居企業は徐々に増えつつありますが、人々の価値観もヘルスケアに気を使うようになったりとコロナで変わってきているので、選書の方向性を再考する必要がありました。現在もビジネス本中心ではありますが、今はヘルスケアやウェルビーイングといったテーマの本や雑貨の比重を以前よりも大きくしています」。また、集客のための施策として、「ワイアード(WIRED)」とタッグを組んだトークイベントを開催するなど、今後もビジネスパーソンのニーズを捉えた企画にも力を入れていくという。

「SPBS 本店」(撮影時の店内の様子)

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 豊洲の店舗は他店と比べてフロア面積が広い点が特長のひとつで、館の上層階にビジネスオフィスが入居するため、ワーカーの憩いの場、コミュニティが創出される空間作りを試みた。書店、カフェ、ワークスペースで構成されるラウンジとなっている。現在はオフィススペースの入居者が増えつつあり、初年度と比べて売り上げは伸長傾向にある。豊洲エリアはファミリー層が多く、ららぽーと1・2から流れてくる来店客も増えており、前年と比べると倍程度の来店数にまで復調した。虎ノ門の店舗では土地柄、企業のオフィスが多いため、オフィスのライブラリースペースの選書の依頼がくるなど、これまでにはない新たな繋がりも生まれているという。

 各店舗の形態や方向性は、出店先のエリア特性に合わせて少しずつ変えている。「一般的な大型書店とちょっとテイストの違う書店を出したいということで、SPBS本店のイメージを持って弊社に出店オファーをしてくれていると思うんですよね。SPBSのブランドはもちろん大切にしてるんですが、そこにこだわり過ぎて自分たちがやりたいことだけを押し付けることはせずに、柔軟な提案をすることを心がけています。その街の特色や人の流れなどを踏まえて、地域に溶け込む店作りはある意味"編集"作業であり、それができることは我々の強みだと思っています」(神垣氏)。

店作りと書籍作り、共通して求められる「編集力」とは?

「SPBS本店」(撮影時の店内の様子)

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 SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSの企業文化に根付いた「編集」という仕事。同社で働く書店スタッフにも編集部員にも、業務内容は違えどそれぞれ共通する軸となるのは、既存のモノ・コトを再構築する「編集力」だ。良い編集ができる人間の資質として神垣氏は「想像力と敬意を払う気持ち」を挙げる。「店舗の人間にとっては本を並べる、雑貨をセレクトするといった、どのような見せ方でお客様に提供するかを模索する作業が"編集"ですよね。一方、編集部の人間にとっては構成を考えて取材し、アウトプットしていくことがいわゆる"編集"の仕事。一言で言い表すのが中々難しいですが、編集という仕事の要素とは何かと考えた時、『問題解決に導くこと』『人に気付きを与え、新しい視点を提示すること』なのかなと。あるいは、何かファクトとファクトを繋げ合わせて分かりやすく提示することだったり、上手い具合に段取りを整えることもまた編集であると言えると思います。共通しているのは物事を掘り下げたり、繋ぎ合わせたり、分かりやすく変換したりしながらアウトプットする作業であり、そしてそれを届けることで人々に豊かさをもたらすことが編集の仕事であると考えています。クライアントや取材対象者の方にしろ来店するお客様にしろ、相手に対して思いを馳せ、そして相手へ敬意を払わなければいけない。独りよがりのアウトプット作業は編集ではなくて、ただの自己満足なんです。編集者はアーティストではないので、どちらかといえばプロデューサー的な俯瞰した視点も必要ではないでしょうか」(神垣氏)。

改めて評価される本の価値

 店頭の選書やキュレーション、ポップの作成などは、店舗ごとの裁量に任せている。「並んでいるモノは基本的にどの本屋にもある書籍なんですよね。本質は誰でも入れる新刊書店に近い。だからどのような並べ方をしたらお客様にとって新鮮な発見になるのか、スタッフたちは日頃から売り場の編集に力を入れています。普段から本を読む方々にとって発見があったら嬉しいですし、本を読まない人たちにとっても本を読むきっかけになるような見せ方ができたら」(神垣氏)。それぞれの店舗の売り場はスタッフの個性が垣間見えるといい、同店での経験を活かし、独立して書店を開業する従業員もいるという。

「SPBS本店」(撮影時の店内の様子)

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 書店ビジネスが岐路に立たされている昨今。これからの時代に書店が求められることとは何か。「電子で読むもの、モノとして持っておきたいもの、取捨選択はあると思いますけど、本や書店の価値は今後上がっていくのではと思っています。もともと書店は地域のインフラという役割を果たしていましたが、これからは知とエンタメのインフラになっていくのではないでしょうか。リアルな書店が減ってきているからこそ、今残っている書店の価値は上がっていくでしょうし、価値を高めていくきっかけにもなると思っています。書店運営というのは薄利多売なビジネスモデルではありますが、ある種の文化事業として残していくべき価値あるものだと感じています。もちろん文化事業とビジネス的側面の両立させる何か仕組みを模索していく必要はありますが」(神垣氏)。今後の同社の計画として、既存店舗の運営基盤の強化や社内体制の整備などに注力する方針。直近での新規出店の計画は現状予定しておらず、編集力を活かしたプロデュース事業、ホテルやレジデンスの選書といったtoB向けの展開なども強化し、更なる多角的な事業展開を試みていくという。

■SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS:公式サイト

■SPBS本店
住所:東京都渋谷区神山町17-3 テラス神山1階
営業時間:11:00〜21:00
※短縮営業中、イベント等により変更あり。
定休日:不定休
問い合わせ先:03-5465-0588

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