6月以降、大雨による洪水被害に見舞われているパキスタン。「史上最悪レベルの大雨被害」(日本貿易振興機構=ジェトロ)と言われ、甚大な被害とともに経済活動への深刻な影響も報道された。ジェトロのリポートによると、川沿いの農村部で被害が大きく、主要作物の一つの綿花は22/23年度(22年7月~23年6月)の作付面積が200万ヘクタール(前年度比6.9%増)に増えたものの、洪水の影響で収穫量の減少が懸念されている。ところが、「現時点で洪水被害による大きな影響は、いまだ明確な形で聞こえてこない」(綿花商)という。
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パキスタン綿は世界の綿花生産量の約5%を占める。主用途はタオルや寝装品用の綿糸。米国農務省の9月のリポートによると、パキスタンの綿花生産量は前月の予想値より70万俵減の550万俵(前年度は600万俵)に下方修正されている。この数値は8月末の状況を反映したもの。調査が進むにつれて、被害の大きさが明らかになると見られている。
とりわけ洪水被害が大きかったのは、同国の主要な綿産地であるシンド州、パンジャブ州。同綿花商は「現地の紡績の関係者に問い合わせたが、直接的な被害は聞こえてこない。綿花の引き合いや商談は活発な印象」という。米国やブラジルなどのように機械摘みする地域なら、浸水した畑に入ることはできずに放置されてしまうが、パキスタンは手摘みが主流であり、水に浸かった畑でも収穫が可能との見方もある。
とはいえ、「綿花畑にどれほどの被害があったのかは今もわからない。これから全容が見えてくる」という状況のようだ。「雨にさらされて品質の低い綿花が出てくることが考えられる」ほか、「これから収穫量がスローダウンするかもしれない」という可能性も指摘する。また、「洪水で道路が浸水し、ロジスティック関連でも多少なりとも影響が出ていることも予想される」という。
綿花の需要は世界的に低調な予測が出ているなか、パキスタンは今のところ堅調で輸入量が前年比で増えている。22/23年度の輸入量は500万俵(前年度は430万俵)の見通し。これは、「自国の綿花供給が不足し、価格の上昇も見越して、割安な他国の綿花を買い付けているのではないか」との見方もある。同国は綿花生産国であり、主要な綿花輸入国でもある。世界の綿花輸入量の約10%はパキスタンが占め、〝バイヤー〟としての影響力は小さくない。パキスタン綿の収穫実態次第では、世界の綿花の需給に影響を与える可能性もあるだろう。
日本への影響については現時点で大きくないと見られている。日本は綿花ではなく、綿糸あるいは綿織物をパキスタンから多く輸入している。綿糸、綿織物の生産・出荷についても洪水被害の影響が懸念されたが、「紡績工場は高台にあり、操業に影響はない」「停滞しているという声はない」(日系メーカーや商社)という。ただし、ある日本の商社は「船積みの遅れが一部で発生している」とのコメントもあり、関係者にとっては注視が必要だろう。
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