ドイツ生まれのシュタイフは、日本でもおなじみのロングセラー、テディベアのぬいぐるみでよく知られるブランド。まさに世代を越えて愛され続けるシュタイフは、おととし創業140周年を迎え、今年でテディベア誕生から120周年を迎える。最近では藤原ヒロシ主宰の「フラグメント デザイン」とのコラボレーションなど、これまで多くのブランドとのコラボレーションを通じて、常に革新を続けてきた。1世紀以上経つ今も変わらず世界中の人々に愛されるシュタイフの魅力について、シュタイフの日本総代理店である株式会社MS1880の西本学代表取締役社長にインタビューを行った。
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西本 学さん/株式会社MS1880 代表取締役社長
ルイ・ヴィトン・モエヘネシーグループ、シャネル株式会社、ジョルジオ・アルマーニジャパン株式会社においてジェネラルマネージャー職に従事。数々のライフスタイルブランド戦略や大型プロジェクトを手掛けた。2009年にリヤドロジャパン株式会社の代表取締役社長に就任し、2014年からはシュタイフの日本総合代理店として立ち上げた株式会社 MS1880の代表取締役社長に就任。
ラグジュアリーブランドの変革期を見てきたGM時代。
― まず、西本さんのご経歴についてお聞かせください。
最初はLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンでキャリアをスタートしました。約10年間の勤務のうち約8割は海外勤務で、本社のあるフランスやロス、グアム、ニュージーランド、サイパンなど、さまざまな国を渡ったのち、ルイ・ヴィトン ジャパンで勤務することになり帰国しました。ちょうどその1997年頃は、マークジェイコブスがルイ・ヴィトングループに加入した頃で、それまでバッグのイメージが強かったルイ・ヴィトンが総合ライフスタイルブランドになっていこうというフェーズでした。
そのあとシャネルのGMとして転職をし、2004年に完成したシャネル銀座の立ち上げを行いました。1990年代後半から2000年前半はラグジュアリーブランド界にうねりがでてきた頃で、バッグや化粧品ブランドといったイメージを脱して総合ライフスタイルブランドへと多くのブランドが移るフェーズでした。このシャネル銀座のプロジェクトもその流れの一貫で、一つの建物のなかにプレタポルテからウェア、ビューティ、アクセサリー、さらにレストランまで、まさに総合ブランドとして変革しました。そこからジョルジオ・アルマーニジャパンに転職をして、アルマーニ銀座タワーの立ち上げも行いました。
― 今でこそ総合ライフスタイルブランドが当たり前になっていますが、その当時はレストランが入ったりするのはとても革新的でしたね。まさに当時のブランドビジネスの立役者である西本さん。どのタイミングでGMから社長のポジションにチャレンジされたのですか?
アルマーニにいたときに、スペインの「リヤドロ」から声をかけていただいたのですが、それがはじめて代表取締役としてのオファーでした。これまでさまざまなヨーロッパブランドでやってきたので、スペインブランドということも非常に興味がありましたし、取り扱う商材がファッションから陶磁器というカテゴリーになることも、大きなチャレンジでしたから、ぜひやってみたいと思いました。実は当時、そのリヤドロの会社のなかの事業部としてシュタイフがあったんです。数年後、シュタイフとして分社化する話があり、MS1880株式会社を立ち上げることになりました。
小さなゾウのぬいぐるみがシュタイフ社創業のきっかけ。
― MS1880という会社名の由来はどこから?
創業者のマルガレーテ・シュタイフが世界最初のぬいぐるみの会社として創業したのが1880年。それに彼女のイニシャルを合わせたのがMS1880です。マルガレーテはわずか1歳半のときに骨髄生小児麻痺を患い、両足と右手が不自由となるハンディキャップを背負っていました。左手しか使えない状況でも、両親はほかの兄弟たちと区別することなく育て、やがて彼女は手芸の才能を開花させます。そして、女性や子どもの洋服を製造販売するシュタイフの前身となる会社をオープンさせたのです。
― 世界最初のぬいぐるみの会社として創業されたのが1880年なのですね。
ある日、マルガレーテがフェルトで小さなゾウのぬいぐるみをつくったところ、たちまち評判となり、ぬいぐるみを求める人々の行列ができたほどです。この出来事があった1880年に、シュタイフ社は創業しました。マルガレーテをモデルにした映画などでも描かれていますが、彼女の経営者としての精神は当時からとても先鋭的。ハンディキャップを持つ人に仕事を与え、子どものいる人には会社につれてくることを認めるなど、今でこそあたりまえになってきた、女性が活躍できる環境・多様性のある環境をすでにつくりあげていました。本社に行くと、ガラス張りのアトリエが当時のまま残されているのですが、その空間からも彼女の従業員に対する思いやりが感じられます。
― シュタイフといえばテディベアですね。
創業から20年が経った頃、事業を手伝っていたマルガレーテの甥のリチャード・シュタイフが、「本物のようなクマのぬいぐるみ」をつくることを思いつき、世界で最初のテディベアと呼ばれる「55PB」が誕生しました。この「55PB」は多くのバイヤーから注目され、ルーズベルト大統領の晩餐会のテーブルディスプレイに使われることになります。そこからセオドア・ルーズベルト大統領のニックネームである「テディ」にちなみ、テディベアと呼ばれることになり、一大ブームを巻き起こしました。
コラボレーションで大切にしてきた、“伝統と革新”の融合。
― 現在の日本におけるビジネス展開とは? 我々を驚かせるようなコラボレーションもたくさん実施されており、とても注目されていますよね。
現在は直営店が7店舗、コーナー展開を含めると全国に約40店舗ほどあります。今までディズニーやカール・ラガーフェルドとのコラボレーションなど、本国ベースに多くのコラボレーションを実現してきましたが、近年では日本限定のコラボレーションも非常に大きな柱になっています。10年前に実施したくまモンとのコラボレーションは発売5分で1500体すべて完売するなど、大きな反響がありました。直近では藤原ヒロシさん主宰の「フラグメント デザイン」とのコラボレーションも発表しましたが、世界からも日本限定のアイテムが注目されています。
― そのほか西本さんの印象に残っているコラボレーション事例があれば教えてください。
以前、ゴジラ50周年のときにコラボレーションでゴジラのぬいぐるみをつくりました。歴史あるゴジラのブランドを大切に、シュタイフの伝統でつくる作品は、まさに伝統と革新の融合でした。また、手塚治虫先生が亡くなってからですが、アトム90周年でアトムをつくりました。こういった歴史あるキャラクターとのコラボレーションをドイツ企業でありながらできるというのは、シュタイフの歴史が広く知られていて、守ってきたクラフトマンシップが信頼いただけているからこそだと感じます。
― そのクラフトマンシップが創業140年以上の今も受け継がれているからこそですね。
マルガレーテが残した2つの言葉があるんです。「こどもには最高のものを」と「一生のともだち」。シュタイフのぬいぐるみは劣化してもアンティークになり次世代へ受け継がれていけるものです。こうした想いから、クオリティへのこだわりは今でも守られています。私は日本でブランドビジネスを長く経験してきましたが、日本の人たちは、“良い”高いものについてとても理解があると思っていて。“見る目”を日本市場は持っているので、そういう点においてもシュタイフが愛され続ける理由があると思っています。
アパレルにも挑戦。4回目の実施となる「フラグメント デザイン」とのコラボレーション。
― 今回の「フラグメント デザイン」とのコラボレーションでアパレルも取り扱っていることを知り、驚きました。
「フラグメント デザイン」とのコラボレーションは今回で4回目になります。ブランドビジネス全般で言えることですが、コアなファンだけに向けた取り組みだけでは、ブランドはファンと一緒に歳をとってしまいますから、常にファン層を広げるためのアイデアが求められます。そういう意味で、「フラグメント デザイン」を知っている人というのは、若い世代のなかでもとても感度が高い人たち。そういう方々がシュタイフを知る一つのきっかけになってくれればうれしいです。
実はアパレルは、もともとドイツでは20年ほど前からベビー・こども服を取り扱っていましたが、5年ほど前に完全自社工場をつくり、デザインチームを設けて、いまやヨーロッパ全域では売上の半分くらいがベビー・こども服になっているほどです。今回の「フラグメント デザイン」とのコラボレーションでは、はじめて“大人用”をつくることになり、かなりのチャレンジでした。最初にコラボレーションをしたのが8年前なので、今こうして続けられていることがうれしいですね。
― とても良い関係ですね。
シュタイフでは戦争や子どもの貧困問題など、世界中で起きているさまざまな問題に対するチャリティを行っていて、今年の11月にも世界的なオークションがあり、そこに出品する一点物のテディベアも藤原ヒロシさんにデザインしていただいています。
シュタイフがどの時代もファンを魅了し続ける理由とは?
― 西本さんが考える、ファンを魅了し続ける理由とは?
まず、時代を問わず人々はいつでも癒やしや優しさを求めていると思います。しあわせな時にはその大切さを忘れてしまうものですが、たとえば今のような時代では、必ず人は癒やされるもの、それも自分がじっと見ているだけで癒やされるものというのが必要なんですよね。それがマルガレーテの言葉にある「一生のともだち」というものです。いつでも見守ってくれている普遍的な存在が自分に語りかけてくれるような、それがシュタイフ全体の作品の魅力です。そういった創業者の想いを継承しているからこそ、未だに愛され続けているのだと思います。本社では今でも「マルガレーテが今生きていたらどうするのだろう?」と話されることがあるのですが、それって素晴らしいことですよね。普遍であることの素晴らしさがあるからこそ、私たちが変化することの素晴らしさも見せ続けていかなければならないと感じています。
― これから実施されるイベントについてお聞かせください。
2020年に創業140周年を迎えたのですが、コロナの影響でほとんど開催することができませんでした。今年ようやく、テディベア120周年ということで9月から近鉄本店を皮切りに、広島や横浜など、年末までさまざまな場所で展示もふくめた企画を開催します。ドイツから希少なアーカイブも届くので、展示を見てシュタイフの歴史を感じていただきながら楽しんでいただければ。
― 今後シュタイフジャパンとして、どのようなコラボレーションを実現したいですか?
今までもさまざまなブランドとのコラボレーションを行ってきましたが、もちろんまだまだいろんな可能性があると考えています。さらに、自分たちすらも気づいていない新たな可能性というのもたくさんあると思っています。ですから、まず多くのパートナーとの接点をもち続けて、互いを高め合うことができればいいですね。そのような可能性を潰さないためにも、カテゴリーを絞ることはせず、いろんな可能性を一緒に見つけていけたらいいなと考えています。
― ありがとうございました!
シュタイフではコラボパートナーを募集しています!
業界や業種を問わず多くの方と接点をもち、お互いを高め合うコラボレーションを実現できればと考えています。
ご興味をお持ちの方はこちらから詳細をご覧ください。
撮影:Takuma Funaba
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