【ニューヨーク=杉本佳子通信員】23年春夏ニューヨーク・コレクションは、ジェンダーレスの流れが今まで以上に広がっている。ショーの会場では、総レースのシャツとショーツのセットアップ、透けるオーガンディあるいはレーシーニットのパンツをはく男性が見かけられ、ジェンダーレスは時代が求めているものだと実感する。メンズ、ウィメンズとカテゴライズすること自体、時代にそぐわなくなってくるのだろうか。
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ピーター・ドゥは、摩天楼を見下ろすウォール街の高層ビルで、初のメンズを交えながら60ルックスを見せた。ほとんど白黒とベージュ、グレーなど落ち着いたカラーパレットで、冒頭は男女似たようなセットアップ。ジェンダーの境目が希薄だ。1体目は男性、2体目は女性。どちらも、背中を大きくカットアウトしたテーラーカラーのジャケットとパンツのセットアップ。インナーのシャツもジャケット同様にカットアウトして、背中を大胆に露出する。全体的にマニッシュなソフトテーラーリングが多く、ゆったりした量感が静かな迫力を感じさせる。スカートはほとんどフロアレングス。パンツはワイドレッグ。存在感のあるモノトーンの服を揃えた。ドゥによると「今までもピーター・ドゥの服を着る男性たちがいた。これでメンズもウィメンズもなく、みんなのための服になった」といい、ブランドの方向性を位置付けた。
マルニはニューヨーク初のショー会場として、ブルックリンのダンボにあるマンハッタン橋の下を選んだ。ショー開始予定時刻は夜9時で、暗闇の中、橋の下に高さの異なるスツールが並べられている。同じく橋の下に待機していた管弦楽団の演奏と合唱団の歌がドラマチックに響きわたる中、ブラトップとスカート、あるいはスキンタイトのドレスをまとったモデルが石畳の上を歩いてくる。しなやかに体にまとわりつくジャージー、メッシュ、ニットが多く、グラムロックのにおいが漂う。ふくよかなモデル、男性モデルもスキンタイトのセットアップ。テーマは「日没」で、胸の部分を丸くカットアウトしたり、太陽を模した円を大きくプリントしたり。肌の露出の多いラインナップで、時々ソフトテーラーリングのロングコートやジャケットを羽織ってみせた。クリエイティブディレクターのフランチェスコ・リッソは、「日没は他の誰かの日の出でもある。太陽は決してどこかに沈むものではなく、どこでもいつでも見る人次第」とし、「日没は地平線上で起こる太陽の現象ではなく、空に火をともす肉体の現象」と結論付ける。だから、太陽をイメージしたモチーフと色と肉体を強調したのだろう。
アシュリンは、イーストビレッジのラ・ママ劇場で初のショーで見せた。冒頭は、真っ赤なオーバーブラウスとサルエルパンツを着たダンサーが前衛舞踊を見せる。1枚の布にドレープをたっぷり寄せて作ったゼロウエイストの服だ。その後は、メンズのジャケットやシャツのデコンストラクション&リコンストラクション、思い切りギャザーで膨らませたレッグオブマトンスリーブ、アシンメトリーにラッフルを入れたドレスが登場する。メンズシャツをセクシーなビュスティエに作り変えるアイデアとカッティングが秀逸で、そのバリエーションをもう少し広げてほしい。
プラバル・グルンのショーは終始、攻撃的ムードが支配した。透けるシフォン、きれいなピンクやミントグリーンなど、素材と色はフェミニンだが、ボンデージや肌を極端に露出するデザインが挑発的。上腕まで覆うラテックスの黒いロング手袋、サイドを刈り上げたヘアも、激しいトーンをつくる。対アジア人憎悪犯罪など社会に起きていることに不満と憤りを隠さないグルンだが、かつてのエレガントな路線の方が顧客に受け入れられやすいのではないか。
(写真は各社提供)
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