ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする、新感覚対談「Career Naked」。第20回目は、ファイヤーワークスの小松大輔氏にお話を伺う。10代の頃、アメリカ西海岸のカルチャーにどっぷりはまったという小松氏。ブランド品のヴィンテージショップ「Hedy(エディ)」で自らの会社を大きく成長させ、もう1つの事業である多様な文化を取り入れたバーバーショップ「MR.BROTHERS CUT CLUB(ミスターブラザーズカットクラブ)」の海外進出1号店を2022年3月にロサンゼルスにオープンさせた。子どもの頃からの夢をかなえた小松氏だが、ここに至るまでは大きな挫折があったという。NESTBOWLの水谷朋子がその道のりについて話を聞いた。
ADVERTISING
小松 大輔さん/株式会社ファイヤーワークス 代表取締役社長
高校卒業後、モデルやバーなどさまざまな仕事を経て、ファイヤーワークスを設立。ブランド品のヴィンテージを扱うECショップ「Hedy」をオープンし、モデル・有名人ご用達ショップとして話題になる。さらに、日本のメンズカットのカリスマである西森友弥氏とバーバーショップ「MR.BROTHERS CUT CLUB」を立ち上げ、2015年に原宿に1号店をオープンさせた。
水谷 朋子/NESTBOWL株式会社 プレス
福岡県の高校を卒業後、19歳で上京。外資系ラグジュアリーブランドのビューティアドバイザーとして約10年間の経験を経て、ファッション業界に特化した人材紹介サービス、エーバルーンコンサルティングへリサーチャーとして入社。2021年からNESTBOWL株式会社にてプレスとして勤務。趣味はライブ鑑賞・飲み歩き。保護猫2匹と暮らす愛猫家。
「人生終わった」失敗から大逆転した、リブランディングという視点
―小松さんはどんな少年時代を送っていましたか?
父がアパレルの仕事をしていて、小さい頃から他の子たちと違う格好をさせられていました。みんなはジャージを着ているのに、ボア付きのGジャンとか買ってきて。「そんなのを着て学校に行ったら、ピエロみたいじゃん」と、嫌で仕方がなかったですね。ただすごく影響は受けていて。洋服は好きだったから、漠然と「洋服に携わる仕事はしたい」と思っていました。自分が10代の時はスケボー、バスケ、古着などが流行していた時代で、その時に体験したカルチャーにどっぷりはまって今に至っています。
古着は上野に買いに行っていました。私は埼玉県の西川口出身で、原宿まで行くのはハードルが高くて(笑)。自分が好んで手に取っていた古着は、ロサンゼルスから入ってきたものばかりでした。
―現在、小松さんが運営しているファイヤーワークスを立ち上げたきっかけについて教えてください。
「アパレル会社を1回やってみたい」と思い、ファイヤーワークスの前に友だちと一緒に会社を立ち上げたんです。そうしたら意外と取引先がすんなり決まってしまって。けれどその後は、どんどん業績が悪くなっていった。実際にやってみたら分かるのですが、アパレル会社を経営するためには、かなりの資金が必要です。決して小資本でやる仕事ではありません。
当時はそういったことを理解しないでやっていました。根っこには、父を見返したいという思いもあった。父はレディースをやっていたから、まったく洋服の話や仕事の話はしたことがなかったけれど、もともと父を超えたいという思いがあって。でも最終的に結構な借金を背負ってしまいました。その時に、“もう人生が終わった”と思ったけれど、それと同時に“やっと辞めることができた”とも思いました。
それから独りぼっちになって、この先はどうしようと悩みましたが、いろいろ考えたうえで、それまで細々とやっていたブランドの中古品を本格的に取り扱うようになりました。
当時、妻が15万円くらいのヴィンテージのシャネルを買ってきたんです。その商品は市場では5万円くらいで売られていて。代官山のショップでは15万円で売っているけれど、市場だったら5万円で売っている。それなら代官山より安くして、なおかつ他のヴィンテージショップよりもおしゃれにして販売してみたら、売れるんじゃないかなと考えたんです。はじめはECオンリーでやってみたところ、結構当たって。それが今、弊社の中心事業の1つとなっているブランド品のヴィンテージショップ「Hedy(エディ)」のはじまりですね。
あの頃はヴィンテージショップといっても、レトロな古着店しかなくて。ブランド品のヴィンテージショップは非常にめずらしかった。しかもはじめからSNSを使っていたのは、私たちくらいしかなくて。それでHedyを立ち上げて、ディレクターと一緒にSNSを使ってPRし、展示会(販売会)を始めました。代官山のポップアップスペースで展示会を行った時に、著名な方、インフルエンサーと呼ばれる方々をたくさんご招待し、それがポーンとバズったんです。信じられないくらい結構な数の商品が売れて、当時は社員が3、4人しかいない会社だったのですが、毎日ずっと配送作業を行っていました。
現場は職人に任せる分、マーケティングはうるさいほど口を出す
―Hedyは大成功。新しいファイヤーワークスの事業として、「古き良きAmerican Barber Culture、今も色褪せる事のないその文化を日本の中心地から発信する」というコンセプトのもと、バーバーショップ「MR.BROTHERS CUT CLUB」を立ち上げましたね。代表を務める西森友弥さんとの出会いは?
もともと自分が雑誌のモデルをやっていた頃から、ずっと同じ美容師の人に髪を切ってもらっていました。その人が独立した美容院の新卒で入ってきたのが西森で、ある時、彼が完璧に自分のオーダー通りの髪型にしてくれたんです。それで彼との付き合いが始まりました。
そこから2、3年経って、西森が「いつかこういうバーバーをやりたくて、ずっとYouTubeを見ている」という話をしていて、その時に見せてもらったのが、SCHOREM(シュコーラム)というオランダにある、世界で一番有名なバーバーショップのInstagramだったんです。タトゥースタイルとフェードカットといったアウトローなスタイルのバーバーで、ものすごくかっこよかったんですよ。それで自分でもSCHOREMを追いかけるようになって、日本ではまだ早い感じがしたけれど「一緒にやるか」という話になったんです。
最終的に彼の夢を応援する決め手となったのは、彼の人間性がとても良かったからですね。あいつが一生懸命やったら、絶対に成功するだろうと確信したし、自分のマーケティング力には自信がありました。
事業を始めるにあたって彼といくつかのルールを決めたんです。まず自分は現場に対して口を出さないということ。あくまでも現場ファーストで、何をするにしても職人が一番かっこいいと思っているから、彼に任せるべきだと思ったんです。その代わり、ブランディング、経営、バックオフィスといったことに関しては、全部自分がマネジメントする、ということにしました。
―小松さんはマーケティングにもっともこだわっていらっしゃると感じています。
とにかくその点に関しては、非常にうるさいです(笑)。たとえばMR.BROTHERS CUT CLUBの店員の1人1人のInstagramのアカウントをすべてフォローしていて、彼らがブランドイメージを正確に発信できているかどうかも見ています。そのくらい細かくこだわっています。
自分の長所を一つあげるとしたら、ものごとを客観的に見ることができる点。社員にはいつも言っていますが、結局のところ、仕事においてやるべきことは、相手の立場になればすべて分かると考えています。
マーケティングやブランディングは難しい理論がたくさんありますけれど、結局「相手が何を欲しているか」じゃないですか? その点さえ分かれば、仕事は何をやってもうまくいく、というのが私の持論です。それはオンラインでも対面でも同じ。どれだけ自分のビジネスを俯瞰して見ることができるか、というのは、一番大事だといつも思っていて。仕事とブランディングは、それに尽きるかなと。
―MR.BROTHERS CUT CLUBの方たちは、自己紹介をする時に「美容師」ではなく、「MR.BROTHERS CUT CLUBで働いています」と言うそうですね。
「お仕事は何をしていますか?」という質問は必ずあります。そこで普通は「美容師をやっています」とか「会社員です」と答えると思いますけれど、有名な企業だったら、必ず社名を言いますよね。それと同様に、MR.BROTHERS CUT CLUBの美容師は「MR.BROTHERSです」と言います。これこそブランディングの極みだと思っています。MR.BROTHERS CUT CLUBの一員であることに自信があるからこそ、彼らがどこに行っても、「僕はBROTHERSだ」と言ってくれるんです。そういう人たちが弊社には50人ほどいて、彼らがバンバン名刺を配る。それだけでスーパー営業。どんどんお客様を連れてきてくれるんです。
そのお客様から、「今度こういうことやりませんか?」と、新たな仕事の相談が来るんです。だから今は自分からコネクションを探しに行かなくても、どんどん新たな繋がりを彼らが連れてきてくれるという仕組みができあがっていて。それがたぶん、最高のブランディングだと思っています。
―ブランディングが非常に大切だと気づいたきっかけは何だったのでしょうか?
元をたどったら、やはり舐められるのが嫌いだからでしょうね(笑)。たとえば以前、「セルフホワイトニングの店をやりませんか?」と誘われたことがあって。資料を見たら、確かに儲かる仕組みだったんです。でも、「うちがセルフホワイトニング?会社のブランディングとしては、かっこよくないな」と考えたんです。お金はもちろんあった方がいろいろなことができます。だからといって魂を売って、マスなことをやりたいとは思っていない。
MR.BROTHERS CUT CLUBもそうですが、お金だけ欲しかったら、とっくにフランチャイズにしていたと思います。でもそれをやってしまうと、どんどんブランディングが薄まりチェーン店になって、よく分からないブランドになってしまうでしょう。私は昔からひたすらかっこいいことをしたいという思いがあって、そのために常にブランディングを意識しています。
BROTHERSは最近ロサンゼルスにも出店しましたが、社員にとってずっと憧れの会社でいられるような仕組みを作りたいんです。社員が「いつかはロサンゼルス店や海外で働きたい」といったように、いつも夢を追うような会社であり続けたい。
これは日々の働き方にもつながっています。例えば木曜日に、「あと1日頑張れば休みだ」ではなく、「あと1日しかない」と時間に追われるくらいの方が、仕事は面白いんじゃないかと思うんですよ。
仕事って本当は楽しいはずなのに、やらされているもの、つまらないもの、という印象を持っている人が多いですよね。自分でいろいろなことを考えて、失敗しても成功しても、すごく楽しいことがたくさんある。それをもっとみんなに経験してもらいたいと考えています。
海外に出店した店舗を日本との懸け橋にしていきたい
―小松さんは特にマーケティングを学んでこられなかったということですが、どうやってその豊かな見識を身につけられたのでしょうか?
よく聞かれるんですけれど、昔から「なぜ?」と疑問と持つ子どもだったんです。それは大人になってからも変わらず、たとえば「こうやったらもっとこのレストランは流行るのに、なぜこうしないんだろう?」とか、そういったことをずっと考え続けてきました。生きてることがマーケティングの学びの場というか。本を読んだりネットサーフィンをしたり、街を歩いていても、自分が何かを見ている限り、そういう目で見ているからヒントしかない。ずっとそれを繰り返している気がする。だから疲れますけれど(笑)。
私は自分自身のことを“リブランディング屋”だと思っています。中古ブランド品の店をヴィンテージショップと名前を変えて、内装を変えて販売しました。理髪店をバーバーという名前に変えて売り出しました。そうやって、つねにブルー・オーシャンを作ってきた感じがしますね。
―また、最初の会社がうまくいかなくなった時期は大変つらかったということでしたが、当時は何をモチベーションにされていたのでしょうか?
あの時はお金がなくて独りぼっちで追い込まれた状況でしたが、これからのことを考えた時、自分の中で成功のイメージが具体的に描けたんです。たとえば「自分はこういう机に座っていて、ここにこういうキャラクターの部下がいて、その人にこういうことを話していて……」とリアルで詳細なイメージができたんですよね。ここまで想像できるなら、必ず現実化できる、と。だからそれがモチベーションというか、間違いなくこれはできるはず、という確信はありました。
あと「よく成功の秘訣は?」と聞かれますけれど、自分の人生、寝ている時以外を仕事に投資すれば、だいたいのことは成功するのではないかと思います。ただ、なかなかそこまでできないから、成功するのは難しいのでしょうけれど。
―これからのファイヤーワークスの展望を教えていただけますか?
やはり私はアメリカ、特に西海岸のカルチャーに影響を受けて育ってきたので、仕事で何かしら携わることが幼い頃からの夢だったんです。ロサンゼルスに店を構えることによってやっとその一歩目を踏み出すことができて、感慨深かったですね。もちろんお金さえ出せばお店は作れるんですけれど、向こうの人たちと絆を深めてローカライズして成功させていった事例はそんなに多くないですから、しっかり取り組んでいきたいです。
あとロサンゼルスの店ではギャラリーを併設していて、つねに日本のアーティストをフックアップするようにしています。美術館のように何か説明するようにアートを見るのではなく、バーバーでグラフティを見せるような感じで展示して。それが逆にクールだなと思うんです。バーバーショップはインフラだから、主役の存在ではないけれど、日本と海外の懸け橋というか、ハブになるような存在になれたら、と。
また、現在MR.BROTHERS CUT CLUBのホームページをメタバース化しています。たとえば仮想のスピークイージー(禁酒法時代の隠家バー)があって、そこから額を押し中に入っていくと各店舗がある。そこからスタッフのボタンを押すと、個々のページになり、その人のYouTubeや過去の作品、本人の自己紹介などいろいろなものがあり、今後はそこにギャラリーも形成し、そこでNFTアート(※)をやろうかと思っています。それがストリートのギャラリーのアーティストとNFTを結ぶ新たな懸け橋になるのではないかと考えているんです。
(※)NFT=Non Fungible Token(非代替性トークン)NFTとはアートや音楽、コレクターズアイテムなど、唯一無二かつ代替不可能なデジタル資産にブロックチェーン上で所有証明書を記録し、固有の価値を持たせる非代替性のデジタルトークンのこと。新たな売買市場やビジネスを創出する技術として注目されている。
―それをやろうと思ったきっかけは、何だったのでしょうか?
MR.BROTHERS CUT CLUBは美容師それぞれの個性が仕事に直結するから、個々のスタイルを見せることができるメタバースと相性がいいなと思っていて。もっとファンとの絆が強くなると言うか。あと、まだ誰もやっていないことだから、挑戦してみたいという思いがありますね。いろいろな話がすごく膨らんでいくのは、非常に面白い。
そういったオンライン上の取り組みも進めてはいますが、海外に作った実店舗でもスケーターブランドなどと組んだイベントが3、4つほどすでに決まっています。私たちが先陣を切って実店舗を海外で作っていったら、お店をハブに使ってもらって、いろいろなことがまたできるんじゃないかと考えているんです。ギャラリーに関しても、うちのギャラリーから世界的な有名人が出たら最高ですね。
取材:キャベトンコ
撮影:Takuma Funaba
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【NESTBOWL】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境