ここ数年、外資系ラグジュアリーリテールにおけるデジタル人材の採用が加速している。“デジタル”と一言でいっても、Eコマースの運営だけでなく、顧客とのコミュニケーションからデータ分析まで、いまやその業務範囲はかなり幅広い。そんな今の時代、外資系ラグジュアリーブランドにもっとも求められているデジタル人材とは、どんな人材なのか? 今回はLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン株式会社(以下、LVMH ジャパン)デジタルディレクターとして日本のデジタル戦略を担当する遠藤友己さんがご登場。デジタル人材にまつわるさまざまな疑問に答えていただいた。
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遠藤友己さん/LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン株式会社 デジタルディレクター
オンラインメディアでのラグジュアリーブランド向けの広告セールスやマルチメディアプロモーションを経て、外資系ラグジュアリーブランド数社でデジタルマーケティングやデジタルコミュニケーション、Eコマースやクライアントサービスの立ち上げや運営に携わる。2019年にLVMH ジャパン入社。オンラインメディアとブランドでの経験をもとにLVMH グループ内メゾンのデジタルトランスフォーメーションをサポート。
LVMH デジタルという組織について。
― グローバルから見た日本のマーケットの位置づけとは?
2021年において日本は単独国として世界3番目のマーケットです。日本の売上のシェアは、2021年にフランスのシェアを超えています。すなわち、日本はLVMHにおいて、さらに重要なマーケットであることが言えます。2019年からのコロナウイルス感染拡大で世界的な大打撃を受けたなかで、日本は安定して成長し続けているマーケットの一つです。そしてLVMH ジャパンは、現在21の法人、38ブランドを展開しており、日本全体では約8000人の従業員、約700個所のセールス拠点(オンライン含む)を持っています。
― LVMH デジタルの組織とは?
パリに本部があり、2015年に設立されました。Eコマースとオムニチャネル、データ、クライアントサービスという3つの部門からなる組織です。LVMHの企業理念に基づき、グループとしてのあるべきデジタル戦略を立案、各メゾンのビジネスメリットを増やすために、デジタルを介したサポートを提供することがこの組織の役割です。注力する職務としては、日本マーケットに特化したビジネスインサイト、Eコマース、CRM/クライアント デベロップメント 、ノンペイド・オンラインマーケティング、リテールテック、データなど。マーケティングから販売、そして販売の後のお客様とのコミュニケーションまで、非常に幅広い業務範囲となっています。
― LVMH ジャパンデジタルという組織について教えてください。
LVMH ジャパン デジタルは、2019年10月に設立され、私が設立メンバーの一人目です。LVMH デジタル本国の戦略をベースに、日本のマーケットにふさわしい戦略を見出し、各メゾンの日本におけるデジタルビジネス発展のための支援をしています。私は本国と日本の間に立ち、グループストラテジーをどうブランドとコミュニケーションして日本で推し進めていくかというのが役割です。
グループ全体がオムニチャネル化を加速するという戦略に対し、LVMHの企業理念を受け継いだ上で、デジタルをどう活用していくかを常に考えています。オンラインとオフラインのビジネスをどのようにブリッジし、いかにそれぞれのお客様を循環させていけるか。お客様にとってブランドはオフラインでもオンラインでも同じブランドですから、オンラインとオフラインで差があってはならないと考えています。ラグジュアリーメゾンとしての“シームレスな体験”というのを、常にどのようにお客様に提供するかを考えています。
ラグジュアリー業界における“デジタル人材“の在り方とは?
― ラグジュアリー業界におけるデジタルポジションについて教えてください。
ラグジュアリーリテール業界におけるデジタルポジションは、デジタルマーケティング/コミュニケーションやEコマースなどがあります。最近のデジタル人材でよく耳にするのは、ビジネス遂行に必要なITやソリューションを専門に取り扱うデジタルITや、オムニチャネル担当、デジタルトランスフォーメーション担当(エバンジェリストやトレーナー的な役割も兼務)、データサイエンティストやデータアナリストといったものがあります。
― なぜラグジュアリー業界のマーケットにおいてデジタル人材が少ないのでしょう?
私見ですが、デジタル職務経験のある人材は日本で極端に少ないと感じます。私が思う限り、外資系ラグジュアリーリテールにデジタルという職種が登場したのもここ数年で、デジタルマーケティングや日本オペレーションのEコマースがスタートしたのもここ10年以内。まだ成熟していない分野だということは大きいです。そしてオムニチャネルやOMOなどの時代の流れに合わせて、デジタルという役職にEコマースやオンラインマーケティング、CRM、カスタマーサポートといったR&R(Role and Responsibility=役割と責任)が統合されてきている動きがあることも理由の一つではないでしょうか。通常は中小規模のブランドで各1名、多くて2名程度の体制が主流なため、少人数で多くのタスクのプランニングから予算管理、オペレーション、プロジェクトマネジメントまで、多くの業務を担当しKPIを達成しなければならず、業務の幅がかなり広いのです。
また、バイリンガル人材が非常に少ないということも大きな理由です。外資系ラグジュアリーリテールにおけるデジタル人材には英語が必須で、それも少し話せる、メールができるといったものではなく、バイリンガルレベルが求められます。仕事ではEメールからzoom、資料作成、意思決定プロセスまで、各プロジェクトの進行を本国とやり取りするため、問題なく英語でコミュニケーションがとれることが重要です。実践的な英語を使える方にお会いする機会が極端に少ないので、まとめると、“一人で何役もこなせる、業務経験のあるバイリンガル人材”が求められます。
デジタル人材に向いている人材、必要なスキルセット。
― どんな人材がデジタルに向いている?
傾向として、ブランドには本国の制限があることが多いので、クリエイティブにローカルで実現可能なことを探し、プレゼンして人を巻き込み、実行に移すことができる人が向いていると感じます。フレキシブル、アジャイル、プロアクティブといったキーワードが重要です。担当職務に最重要なスキルセットや知見は何かを理解し、それらを十分に活かせる職務か否かを見極め、選択する。これからより一層オムニチャネルになっていくので、マクロで捉えてミクロなアクションに移せる人が向いていると感じています。
コアスキルでいうと、アウトプット能力。資料作成やプレゼンなど、人を巻き込む力のある人。マルチタスキングでさまざまな人と関わる必要があるのでコミュニケーション能力。各業務に必要な深い知識、理解、経験。そして、それ以上に重要なのが興味と好奇心。好奇心があれば、自らが主体となり動く力になりますから。ツールでいうと、グーグルアナリティクスのような分析ツールが使えること(分析、課題発見、ソリューション、改善)、エクセルの表計算、パワーポイントやキーノートなどが使える人が望ましいですね。欧米の人はビジュアルでインフォメーションをとっていくことが主流なのでこういったツールが使えることはマストになります。
一緒に働きたいと思う人材かどうか──面接で見るポイントとは?
― 遠藤さんが一緒に働きたい人材とは?実際に面接する際に見るポイントがあれば教えてください。
やはり一番チェックするのは、その人の“人間的魅力”。どんな場所にいっても、その人の人間的魅力がなければ、人との関係構築をすることは難しいですよね。人間的魅力がどういったことをいうかというと、1.コミュニケーション力 2.情報収集力 3.処理能力 4.期待値。
- コミュニケーション力は、日本も本国もコミュニケーションが円滑にとれないと業務遂行ができないので重要なポイントです。自分やチームとフィーリングがマッチするかを見ています。
- 情報収集力は、キャッチする情報のセンスが、業務や会社、ブランドが求めているクオリティにふさわしいかどうか。
- 処理能力は、ストーリーテリング、ロジカル、端的、明確にアウトプットができるか。スキルセットや経験を十分に活用するポテンシャルがあるかどうか。
- 期待値は、本人の期待値やキャリアビジョンと、実際の業務内容や企業としてサポートできることに大きな差がないか、です。
― 面接でこれらのことを判断するためにどんな質問をしていますか?
採用するポジションによって内容は変えますが、例えば、
- 現場でもっとも成果を出したと思うこととその要因
- ベンチマークにしているウェブサイト(フォローしているアカウント)とその理由
- ウェブサイトやソーシャルメディアアカウントの改善点とその理由
- 入社したらどんな貢献をしたいか、どんな貢献ができるか。
このような質問をして、コミュニケーション力、情報収集力、処理能力、期待値を測る参考にしています。
今後デジタルはどう進化していくのか?
― 遠藤さんご自身は普段どのように情報収集をしているのでしょうか。
ドメスティックや外、職種の枠にとらわれず、人に会うことやメディアのフォローを徹底しています。マクロのトレンドをつかみ、デジタルがどう介在していくかどうかを軸に情報を捉えるように心がけています。
― 最後に今後のデジタルはどう進化していくと予想しますか?
今後さらにデジタルはあらゆるサービスや行動に必要なツールとして定着するため、特別な存在感はより薄くなっていくと思います。当然の存在へと進化するフェーズです。そうなれば逆にヒューマナイゼーションのような、より人間味あふれるエモーショナルなものにハイライトが当たっていくので、そういう時代においてのデジタルの役目や活用方法といった改善に、今後は重きがおかれていくのではないでしょうか。
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