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プラスチック廃棄物の削減、排出抑制に取り組む「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(以下、プラスチック資源循環促進法)が、4月1日に施行される。新法では商品の販売・サービス提供時に消費者に無償でプラスチック製品を提供している事業者に対して、使用の抑制や回収・再利用などを義務づける。対象製品はフォークやスプーン、ストロー、マドラー、歯ブラシ、シャワーキャップ、カミソリ、衣類用ハンガー、衣類用カバーを含む12品目。業種はコンビニ等の小売店をはじめ、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業、宿泊業、衣類クリーニングなどが対象となる。各企業が対応を迫られる中、対象業種の一つである衣類クリーニング業界の動向を探った。
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クリーニング事業者に求められることは?
プラスチック資源循環促進法において、対象事業者は有償での提供や利用者への使用可否の意思確認といった提供方法の工夫、減量化・代替素材への切り替え等の使用製品の見直し、利用者への排出抑制に関する情報発信、回収の呼びかけ、使用量の把握・記録などが求められる。必要があると認められた際には、事業者に必要な指導・助言を行うほか、特定プラスチック使用製品多量提供事業者※に対しては、取り組みが著しく不十分な場合に勧告・公表・命令等を行う。
※特定プラスチック使用製品多量提供事業者・・・前年度において提供した特定プラスチック使用製品の量が5トン以上である事業者。
新法では企業規模の大小に関わらず、すべてのクリーニング事業者が対象で、プラスチック資源の使用抑制に向けた取り組みが求められる。全国クリーニング生活衛生同業組合連合会(以下、全ク連)は、一般社団法人クリーンライフ協会と共同で制作した、プラスチック資源循環促進法への対応をまとめた「クリーニング事業者のためのプラスチックハンガー&ポリ包装 資源循環ガイドブック」を公式サイトで公開。クリーニング事業者およびハンガー・ポリ包装製造事業者向けに、新法の概要や取り組むべき内容を紹介している。
全ク連は公開したガイドブック上で、事業者に対して「店頭での回収」「リユース・リサイクル」「よりプラスチック使用量の少ないハンガー/代替素材のハンガーへの順次切り替え」などを可能な範囲で取り組むよう呼びかけている。また、衣類用ハンガーや衣類用カバーは品質保持・衛生保持等の観点から必要なものであるため、現状では利用者に使用可否を促す対応は現実的に困難であると明記している。なお、全ク連の調査によると、クリーニング店のプラスチックハンガーの回収率は約50%(2022年1月1日時点)。そのうちのリユース率は60〜70%、ハンガーの再生原料使用率は85〜95%と既に高い回収率・リユース率に達しており、ハンガーのほとんどは環境負荷の低い再生プラスチックが採用されているという。
リサイクル強化、クリーニング各社の対応
衣類クリーニング大手の白洋舍では以前より、エコ施策のひとつとしてハンガーのリサイクルと、持ち帰り袋の使用量削減を推進。リサイクルではハンガー5本につき1ポイントを獲得し、貯まったエコポイントに応じて液体洗剤やランドリーバッグを提供している。以前より展開している施策を継続する方針で、今回のタイミングでハンガーの有償化や代替素材への切り替えなどは現時点で予定していないという。
「ポニークリーニング」を展開する穂高は、既に実施している店頭でのハンガー回収を強化し、回収率を高める。今後、ハンガーの代替素材への切り替えや、包装ビニールを薄くする取り組みなども視野に入れている。新法関連の施策による大きなコスト増は無いといい、同社の担当者は「店頭設置のハンガー回収ボックス購入費用程度でこの法律施行による大きなコスト増はない。今回の法律が要因のクリーニング料金の値上げは予定していない」と話した。
プラハンガー製造業者への影響は?
リネン・クリーニング機材製造販売メーカーのオリタニは、約20年前からプラスチックハンガーのリサイクルシステムを構築し、取り組みを推進。自社で販売したプラスチックハンガーをクリーニング店から回収し、ハンガーの粉砕および新たなリサイクルハンガーの製造を行っている。同社の担当者は「発注状況については今後、変化していく可能性があるので見通しを明言するのは難しいが、長年取り組んでいる弊社のリサイクルに賛同してくださったクリーニング企業様から新たに発注してくれるのではないか」と新規顧客の獲得に期待を寄せた。
プラスチックハンガー・クリップの製造販売を行うマルソー産業は、出荷総量のうち約96%が再生プラスチックとなっている(2021年実績)。クリーニング各社の今後の業務用プラスチックハンガー発注の見通しについては「ハンガーの回収・リユースが進めば全体としてハンガーの消費量は減っていくと思う。その影響は現時点では非常に読みにくい。しかしながら、弊社のハンガーは強度検査や耐溶剤性検査等の高い品質基準維持を長く続けているため、商品ライフサイクルの長い高品質メーカーとして選ばれるチャンスでもあると考えている」(マルソー産業担当者)。また、同社は代替素材としてバイオマスプラや農業廃材・紙等の異素材をプラスチックに混ぜた新素材のテストも実施。新素材に関しては現在、クリーニング業務用ハンガーに適した耐熱強度や耐溶剤性、コスト・供給面が課題となっているが、テストは続けていくという。また、再生プラスチック製品の製造ノウハウを活用し、クリーニング業務用のハンガーだけではなく、アパレル業界向けの新製品開発に着手するなど、新たな市場への進出にも意欲を示している。
新素材のハンガーに乗り出す企業も
こうした中で、新たなハンガーの開発に乗り出す企業もある。兵庫県 西脇市を中心に地域密着型の宅配クリーニングサービス「リナビス」を展開している東田ドライは、工場の出荷時や店舗の受け渡し時に簡単に衣類から外すことができる再利用可能なハンガー「ワンタッチハンガー」をメーカーと共同で開発。ハンガー自体をつけずに納品するアイデアを産み出し、ハンガー全体の6割をワンタッチハンガーに順次変更することで、10年間で約350トン以上のプラスチックごみ削減を目指す。
このほか、カレンダーや付箋等の紙製品を手掛ける昭和23年創業の東京紙器は今年3月、紙製ハンガー「カミハンガー」を発表。ハンガーに文字やイラストの印刷が可能となっており、現在スポーツ用品を扱う店舗から数千部の受注が決まっている。湿った衣類を掛ける可能性のあるクリーニング用途でのハンガー使用には不向きなため、クリーニング事業者による導入事例は現時点では無いものの、アパレル店舗や宿泊施設への導入などさまざま用途での活用を見込んでいる。
プラスチック資源循環促進法による対応を各業界が迫られる中、先んじてプラスチック使用量削減に取り組んできたクリーニング業界。今回の施行を機に、クリーニング業界の取り組みに対する一般利用者への認知拡大に繋がるほか、老舗メーカー各社がビジネスチャンスを掴むべく新素材・新製品開発に乗り出すことで、業界全体に新たな風を吹き込む一端となりそうだ。
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