アパレル、リテール業界などで店舗スタッフから本社勤務を叶えた先人たちを直撃し、本社勤務を掴み取ったエピソードや苦労などを赤裸々に語って頂く「本社の壁」。第3回目は、数々のラグジュアリーブランドで販売やリテールマネージャーを経験したK氏にインタビュー。前編では、販売からリテールマネージャーになったエピソードを語っていただき、今回の後編では、リテールマネージャーから、ストアという、お客様に一番近い現場の一線に戻った理由に迫る。そして、転職を繰り返しながらどんなフィールドでも活躍するK氏に、自身のバリューの見極め方を聞いた。
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K氏プロフィール
大学卒業後、テキスタイル商社で営業としてアパレルメーカーと関わる中で販売職を志す。百貨店での販売職を経て、外資系アパレルや人気ラグジュアリーブランドでストアマネジメントを経験し、販売からリテールマネージャーへキャリアアップ。現在は世界的に活躍する日本人アーティストの展開ブランドで店長として活躍中。
リテールとしての戦略では、お客様ですら分析の“ツール”に
―リテールマネージャーとしての仕事について教えていただけますでしょうか?
K:まず、“店舗の売上管理をする“という点においては、ストアマネージャーと同じです。決定的な違いは「どれだけ先を見ているのか」という点です。半年先、1年先どころか、3年先を描いてストラテジーを練っていき、それを基にスピード感を持って店舗にアジャストさせていくのがリテールマネージャーの役割です。リテールマネージャーのポジションにいると、店舗の頃の“お客様第一”という考え方から、“お客様も本社側の分析ツールの一つ”へと変わり、今後の戦略を決定する大切な判断材料になります。そして、すべての未来を見据えるためのツールとしていく考え方で優先順位を付けていく。数十店舗ある中でどこが優先順位高いのか、スタッフ一人とっても誰が一番売れてそれを最大化できるのか、すべてにおいて仕組み作りである部分が店舗と違う部分。それを3年続けていました。
―リテールマネージャーとしての仕事は楽しかったですか?
K:もちろん素晴らしい学びはたくさんあったんですが、正直あまり楽しくはなかったですね(笑)。ストアと違って、すぐに問題点を改善することができなくて、かつ時間の使い方が難しいんです。ストアマネージャーはお店の中で8時間勤務を振り分ければいいのですが、オフィス勤務は店にも行かなくちゃいけない、出張もしなくちゃいけない、急遽ミーティングが入ることもある…自分のエネルギーがいろいろな業務に散っていくので、一個のことを集中してスピーディーに改善することができない。一つ一つ時間がかかってしまうんですよね。
お店に落とし込むにしても、遠隔で指示した後は経過も見なければならない。レイヤーがスピード感を殺してしまうんです。物理的な距離とレイヤーのせいで結果が出ないことを実感しましたね。
―リテールマネージャーになって変わったことはありますか?
K:給与含めて待遇面は大きく変わりました。人にもよりますが、待遇面は過去の実績に直結するので、転職の方は前職のブランド規模も考慮される。私の場合は横並びの事情もあって、給与面で言うと数百万円ほど上げていただけましたね。どこのブランドさんもストアマネージャーからリテールマネージャーになる際は100万円前後上がると思いますよ。
宝飾業界への転身は「お客様と向き合うため」
―リテールマネージャーからストアマネージャーに戻ったきっかけは何ですか?
K:デザイナー交代によるリブランディングに、商品カテゴリーの拡大など、エキサイティングな変化が起こったことにより、リテールマネージャーとして多くの経験を積むことができました。これ以上の新たな経験はないだろうというところまで、存分にやり切りました。
あと、この職種は百貨店の動向や他ブランドの売上など情報収集が常に必要なポジションで、年中休みなしという側面もありました。売上とは別の部分で、あらゆるアンテナを張り続けなければならず、お客様と向き合う時間がほとんどなくなってしまって…。お客様のことを考えながら仕事するよりも、横並びを見て仕事をするようになってしまったと感じてしまいました。自分にとって大切なこと、仕事の目的が違う方に行ってしまっている感覚があって転職を決意しました。ブランドがデザイナーによって大きく変わることって歴史を重んじる部分では戦略的なのですが、コロコロと変わってしまうとお客様が迷ってしまう。オフィスばかりにいると商品が分からなくなることもあって、それはこの業界にいる意味がなくなってしまうので、クラシックなブランドでその看板を背負ってお客様にそれを伝えていきたいと思うようになったんです。それで新作がバンバン出るわけでもなく、デザイナーの交代も関係なくモノづくりを重視している宝飾ブランドへ転職しました。
―宝飾ブランドではストアマネージャーとしてやりたかったことを実現できましたか?
K:私が入った宝飾ブランドはクラシックで、社歴が長いスタッフも多く販売力はあるんですけど、店舗オペレーションが皆無だった。でも店舗オペレーションは、マニュアルや指示書通りに動いてくれればすぐ改善できるんです。そういったもので目に見えて良くなっていくのはやりがいとして実感がありました。
自分自身を客観的に評価して見えてきたものこそ、己のバリュー
―キャリア選択をもっと自由にするために、自身の武器を認識することは大切だと思います。リテールからストアに戻ったからこそ、その部分に気づいたこともありますか?
K: リテールマネージャーを経験した後にストアマネージャーに戻ったことにより、その会社のリテールマネージャーに対して、もどかしく感じてしまうことがありました。自分がリテールマネージャーだった頃は「果たしてこのポジションは必要なのか?」と自問することもありましたが、いざ自分がストアに戻ると、リテールマネージャーの動き一つで、店舗側が左右され、場合によっては店の負担になってしまうこともあるのだと、身をもって気づくことができました。
―自身の武器を見つけるためにはどうすればいいと思いますか?
K:自身のバリューというのは一人で完結することではないので、周りを巻き込むことができるか、そしてその人たちから吸収できるかが重要。「コミュ力」って感情抜きでそれができるかってことだと思うんです。耳が痛いことにも耳を傾けてそれを吸収していけるか。
自分自身を部下だと思って客観的に評価したときに、見えてくることこそが自分のバリュー。転職を繰り返している私が未だにいろんなところからオファーをもらえるのは、自分のスキルやポリシーを明確にして、企業側に使ってもらえるかどうかというスタンスだからこそだと思います。自分のバリューが、会社に対して役に立てるかどうかをしっかり考えないといけない。だから逆に、価値が発揮できない会社には行かない方がいいと思いますね。
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