消費の在り方が大きく変わる中で、ファッションブランドの役割も変わりつつある。持続可能な成長に向け、クリエイションの役割を見直す時期に来ている。映画など多方面に活動の場を広げている「アンリアレイジ」のデザイナーの森永邦彦さんにその考え方を聞いた。
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コロナ禍で明確になったことの一つは、必要な量を必要な箇所に届けるビジネス。独自のクリエイションによって大量生産し、それで会社の売り上げを上げればいい、という時代ではなくなった。アンリアレイジも10人の小さな規模で活動している。その発表の場を独自の商品に限ることなく、他社と結びつき、その技術に寄り添ったコンセプチュアルなデザインをすることで、規模的により多くの人に届けていければと考えている。僕たちの上の世代は、自社内にたくさんのブランドを作るやり方が一般的だった。しかし、そのために人をたくさん雇用し、モノを大量に作らないといけないことが第一になってしまう。
アンリアレイジとして作るものは、日常と非日常をファッションにどう落とし込んでいくかにある。卸売り、直営店、ECと洋服を売っていく場が広がれば広がるほど、やりたいことは薄まっていく。僕は「より多くの人に届く」ものより、「もっと好きな人に届く」服を作りたい。数年前、自社で在庫を積んで売り上げを拡大する経営を改めた。ただ、その購入層はそんなに多くはない。代わりに他のプラットフォームや企業と結び付き、自分たちが蓄えたものを届けたいと、協業に取り組むようになった。ライフスタイルやデジタルコンテンツに可能性はある。映画「竜とそばかすの姫」の衣装デザインはその成功事例で、業界をまたいで新しい客層にリーチするきっかけとなった。
ブランドの第2段階として、デジタル、メタバース、NFT(非代替性トークン)といった場で実践を積んでいく考えだ。僕自身は、人と会って大事なことを言いたいし、アナログな人間だが、そこに向き合わないと、いつまたパンデミック(世界的大流行)がくるか分からない。大きな災害が訪れ、日常とバーチャルの非日常が入れ替わってしまうことが起きてしまうかもしれない。危機管理としてバーチャルで何が出来るか、デジタル上の資産を蓄えておかないと、ブランドが持たないんじゃないかと考える。
専門性を生かした業務提携は増えていくだろう。ユニフォーム事業に強いシキボウとの提携もその一つで、企業の制服をデザインすることは今の時代に合った表現の場だと感じている。機能素材の開発では、別の視点を持って新しい価値を生み出せるだろう。それを多くの人や企業に使ってもらいたい。
アンリアレイジの規模は小さくても、異なる分野で販路や受け皿となるブランドを持つ企業のハブになることは可能だ。企業の中に見いだされていない魅力を見つけ、僕たちのリソースを生かして〝つなぐこと〟は、ファッションブランドがやるべきことだし、やれることだと思う。
(須田渉美)
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