「ザラ」などを擁する世界最大のSPA企業インディテックスのトップが交代する。会長職がパブロ・イスラからマルタ・オルテガ(創業者アマンシオ・オルテガの2番目の妻との娘)へ、CEOがカルロス・クレスポからガルシア・マセイラスに2022年4月1日からそれぞれ代わる。2019年にトップ交代があったばかりだから、わずか2年しかパブロ・イスラ(56)&カルロス・クレスポ(50)のタッグは活躍できなかったことになる。特にイスラは、創業者の後を継いで2005年にCEOに就任。さらに2011年には会長職をアマンシオ・オルテガに代わって就任し、会長&CEO兼務で10年務めた。2019年にCEOをクレスポに譲ったが、まさにこの16年間インディテックスの成長を支えた立役者とも言える存在だった。インディテックスに2005年に入社する前はスペインの大手たばこメーカー「アルタディス(Altadis)」の会長だった。2017年と2018年には「ハーバード・ビジネス・レビュー(HARVARD BUSINESS REVIEEW)」誌による優秀なCEOトップ100で連続首位に輝いている。今回の人事は簡単に言えば、「中興の祖」である、このイスラへの「御苦労さん」人事と言ってもいい。そして2011年以来こうした実力者たちが活躍した10年間から創業者の娘マルタの会長就任で「大政奉還」がなされたと見ていいだろう。
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マルタはインディテックスで15年間仕事はしているが、経営に関しては全く経験がない。またCEOになるマセイラス(46)は今年3月にインディテックスに入社。4つの銀行で勤務したことはあるが、アパレル流通に関しての経験はない。この2人がトップになることを不安視して株価はこの人事発表後5%ほど下げている。
社員15万人、年商4兆円の巨大企業ともなればトップの2人がアパレル流通のことを知る必要もないし、各部門のトップに任せえていれば、企業は動いていくのかもしれないが機関投資家にしてみれば不安だろう。
さらにインディテックス社株の59%を保有するという絶対君主アマンシオ・オルテガ(85)及びファミリーの意向で回っているインディテックスという上場企業が今後どうなっていくのかを長期トレンドで考えるなら、「オルテガ王朝」には、かなりの不安を感じるのが普通の感覚だとは思う。
一方、このインディテックスを急追するSPA業界世界第3位(第2位はH&M)のファーストリテイリングでも最近注目すべき発表が12月2日にあった。メイン発言者は柳井康治グループ上席執行役員(1977年生まれ。44歳)。柳井正会長兼社長(72歳)の次男である。サステナビリティに関する2030年までのアクションプランを発表した。「ライフウェアをより多く届けることで社会や生活を豊かにするだけでなく、今後は我々の事業そのものが社会の持続可能性や安心につながるものに進化させていく」と壮大な目標を話した。柳井会長兼社長は「世襲は絶対にしない」と常々語っているが、やはり同社にいる長男の柳井一海グループ上級執行役員(1974年生まれ。47歳)もなかなか優秀という評判である。「世襲は絶対にしない」が覆るようなこともあるかもしれない。なによりも、2005年に日本IBMからスカウトした玉塚元一現ロッテホールディングス社長を社長職から解任してから16年間も使っている会長兼社長という肩書きがちょっと重苦しくなっていると感じるのは私だけか。後任社長が16年間も見つからないというのはやはり異様なのではないか。自分以外にファーストリテイリング社長にふさわしい人物はいないということは、自他ともにもう十分分かったのではないか。そろそろ社長職を譲り、育てる時期に来ているのではないか。それが従業員13万人、2兆円企業ファーストリテイリングがインディテックスを追い越すために必要なことのように思えるのだが。
ちなみにSPA業界第2位のH&Mでは現在取締役会会長はカール・ヨハン・パーション、CEOはヘレナ・ヘルマーリンという経営体制である。カール・ヨハン・パーション(46歳)は10年以上CEOを務めた後に、父親のステファン・パーションから会長職を2020年5月から引き継いでいる。ステファン・パーションは創業者アーリング・パーションの息子だ。
インディテックス、ファーストリテイリング、H&Mの世界3大SPA企業は上場企業であるにもかかわらずいまだに創業一族が支配している。一概に同族経営が悪いわけではないし、経営と所有の分離という問題もあり、サステナビリティへの対応に加えて、このあたりの企業統治のあり方がそれぞれに問われる時代になっているのではないだろうか。
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