デジタルファッションウィークが始まって1年、ファッションショーの形は様変わりした。コロナ下以前は、大勢の人たちが駆け付けた会場で同時に見るのが大前提だった。それが不可能となった今、ブランドがおのおのの方針に合わせて日程や場所を選んで発表するようになっている。進化する発表の形と、ファッションウィークのあり方を考える。
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不自由な今だからこそ、発想は無限大だ。デジタル配信は、いつどこでショーをしても、世界中の人が同時に見ることができる。その自由度の高さが、幅広い発表の形を生んでいる。
ボッテガは独自路線
脇目も振らず、独自路線を突き進んでいるのが「ボッテガ・ヴェネタ」だ。ダニエル・リーによるコレクションは今、数あるブランドの中でも指折りの存在だ。中わた入りのバッグ、スクエアトウのサンダル、サイドゴアブーツ、長靴風のブーツなど、見たことのないボリュームはどれもヒットし、他が追随してビッグトレンドを生んでいる。独特な色や質感のモダンな服にもファンは多い。
そんな第一線を走るブランドが、長年発表し続けてきたミラノ・コレクションから20年2月のショーを最後に、姿を消した。コロナ前の最後のリアルショーのシーズンだ。代わりにスタートしたのが、さまざまな土地で発表する新しい取り組み。メインコレクションをサロン、プレコレクションをワードローブと名付け、シーズン名は記さないというものだ。
最初に披露されたのは、21年プレスプリングにあたる「ワードローブ01」。日常生活のためのエッセンシャルな服を意識したコレクションを発表した。
21年春夏メインにあたる「サロン01」は、20年10月9日、ロンドンで発表された。招待者は少数のゲストのみ。オンライン投稿は一切せず、新作の情報は伏せたため、メディアの報道はなかった。2カ月後の12月中旬、ショーの映像がオンラインで公開され、晴れて公に新作が披露された。
当初はどういうことなのかと訝(いぶか)しんだが、ボッテガの考え方は、既成概念にとらわれず自由に前向きにクリエイションしたいということなのだろう。商品が店頭に並ぶ直前にショーを配信したいという意図もある。
21~22年秋冬にあたる「サロン02」は、4月に独ベルリンで発表、一般公開の時期は数カ月後とアナウンスされている。22年春夏にあたる「サロン03」は10月、米デトロイトで披露する予定だ。
それぞれの狙い
同じケリング傘下の「バレンシアガ」も、発表の形が独特だった。21~22年秋冬シーズンは、20年12月に発表した21年フォールコレクションから始まった。ショーの舞台は2031年という近未来のヴァーチャル体験ができるビデオゲーム。その作りは精巧で、ゲーム好きでなくても熱中させた。それから5カ月後の5月、ウインターコレクションと題して、世界の有名な観光地を背景にしたルック写真を披露した。バイヤー向けには、その間にもプレにあたる商品を提案している。
既存のサイクルであれば、12月にプレ・プレコレクション、1月にプレ、2月にメインといった順番だ。最初に定番、最後にがっつりとブランドの新しいスタイルを提案するという流れ。しかし、今回のバレンシアガは、それが逆転している。その意図は定かではないが、こうすることでメインの販売時期は長くなる。しっかり作りこんだものを、時間をかけて売りたいという狙いも感じる。
ほかにも、ファッションウィークの時期にこだわらずに発表したブランドは多かった。「サカイ」もその一つで、5月中旬に21~22年秋冬の新作をデジタル配信した。展示会はそれ以前に行われたものの、秋冬を5月に発表するというのは、通常であればかなり遅い。
ただ、その配信が遅すぎたかというと、そんなことはない。むしろ、ファッションウィーク中の混み合うタイミングよりもじっくり見られたし、紙面にも余裕があるのでしっかり報道できるという利点もあった。渋谷スクランブル交差点を舞台にした映像の面白さに引き込まれたからこそ言えることだし、サカイが人気ブランドだから成り立つことでもあるが、これも一つの形と言える。
デジタル配信を余儀なくされている今、ブランドは試行錯誤を繰り返しながら、意味のある仕組みを模索している。ただ、全てのブランドがバラバラと発表するようになると、ファッションウィークという文化はすたれてしまう。無名の若手が発信する場所としてファッションウィークの重要性もある。リアルショーが再開された後、コロナ下の経験を生かしながら、ファッションウィークがぐっと進化することを期待する。
青木規子=東京編集部コレクション担当
(繊研新聞本紙21年7月26日付)
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