「インスタ映え」というキーワードが世間に登場し、年月が経過する中で、言葉の定義となる写真のテイストや撮影の構図はトレンドに応じて変化しています。
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2Dから3Dへ
「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれたのは4年前の17年。「映え」の定義はカラフルでビビットな色味の写真が主流となっていました。写真の構図も、多くが羽のイラストなど完成度の高いグラフィックが描かれた「映え壁」を背にして撮影されていました。「非日常感」が重視されており、既に出来上がった世界観に若者が参加していく形がとられていたのです。
それに対し、現在の「映え」は彼らの日常を切り出したような、自然で飾らない写真であることが重視されています。写真の色味はベージュや白を基調とした淡い色味がマストレンドとなっており、日常の表現を阻害しないようなナチュラル感が意識されています。構図についても、作り込まれたグラフィックではなく、単色のシンプルな壁や海、公園などの自然を背景にしたものが主流です。
「背景」と「人物」の二つの軸で表現されていた初期インスタ映えに対し、最新の動向ではさらに「写真全体が醸し出すニュアンス・空気感」という軸が追加され、インスタ映えの定義が2Dから3Dになっているように感じます。
顔を隠す加工
なかでも若者から特に重視されているのがこの「ニュアンス・空気感」です。どこでどんな写真を撮るかも大切ですが、一緒に映っている人との関係性や空気感を演出するための構図について、とくにこだわりを持っています。例えば、一緒に映っている友達と仲が良さそうに見えることを狙い、カメラを意識せずに飾らず笑い合っている様子を写真に収めたり、構図だけでなく、友達とファッションのテイストを合わせるなど、理想の〝映え〟を完成させるための準備も欠かしません。
さらにニュアンスや空気感を優先させるため、撮影後に被写体の人物の「顔を隠す」加工をすることもトレンドです。彼らの求める理想のインスタ映えにとって、顔が映っていることが必須事項ではなくなっているのです。
写真を撮る際、顔の前に手を置いて隠したり、首から下だけを撮影したり、撮影後に友達と自分の顔を絵文字や、SNSのアカウント名、撮影地の位置情報タグで隠すなど、様々な隠し方を実践しています。
ビジュアルコミュニケーションが主流となり、写真からニュアンスを読み取るスキルにたけている彼らならではの表現方法なのではないでしょうか。
企業としてもSNSでの接点を持つことは欠かせなくなっている今、ターゲットが好む空気感を把握しておくことは非常に重要です。
●長田麻衣(おさだ・まい)
シブヤ109ラボ所長。総合マーケティング会社で、主に化粧品・食品・玩具メーカーの商品開発・ブランディング・ターゲット設定のための調査やPRサポートを経て現職。毎月200人の若者と接する毎日を過ごしている。好きなものはうどん、カラオケ、ドライブ。今年の目標はシブヤ109ラボを日本一の若者マーケティング機関として認知してもらうこと!
(繊研新聞本紙21年7月14日付)
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