新型コロナウイルスが続いている2021年。国内でのワクチン接種が本格化したこともあり、収束に向けた希望も見られるが、都心部を中心に感染状況は一進一退を繰り返している。通販業界においては、引き続き、緊急事態宣言下での購買活動を支える社会インフラとしての役割を果たすことができた一方、行政処分などの暗い話題もいくつか見られている。今上半期において通販業界に起きた主な出来事を振り返ってみる。
コロナ禍ならではの新たな販売手法として注目されるようになったのが「ライブコマース」。昨年もアパレル企業を中心に活用が進んでいたが、この上半期もその流れが続いている。2月には宝島社とモフリーが共同で企業のライブコマース参画を支援する事業を開始しており、3月にはイオンモールが全国約80のイオンモールでライブコマースを開始。KDDIとauコマース&ライフでは、吉本興業と共に仮想モールでライブコマース番組を開始している。画面越しに商品の使い方などを見せられるという利点もあって、新たな手法として各社で本格導入が進んでいる。
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顧客とのコミュニケーションの強化という観点では、アパレル企業などで「OMOストア」の開設が相次いでいる。大手アパレルのオンワード樫山やアダストリアなどが4月から5月にかけて、専用店舗を出店。基本的にはサービスの設計面でECなどのデータを活用するなど通販サイト名を冠した店舗として運営している。コロナ禍で変わりゆく小売市場において、今後の実店舗の新しい在り方を模索している。
そのほか、コロナ関連の話題としては大手通販企業や物流といった周辺企業で、6月下旬頃から社員への職域接種が徐々に始まった。本社内に接種専用のスペースを設けるなど、スムーズな作業に向けて各社で工夫がなされている。
ニトリが島忠を子会社化
M&Aなどを中心とする事業再編や統合の動きも大きく進んだ。1月にはニトリホールディングスがホームセンター事業を手がける島忠をTOBで連結子会社化。通販事業関連では、双方のECやアプリの運営・管理、会員情報の利活用などが検討されており、共通ポイントの導入による相互送客なども予想されている。
3月にはヤフーの親会社のZホールディングス(ZHD)とLINEが経営統合。仮想モールなどのコマース事業については、バーコード決済サービスなど「フィンテック」とともに、集中的に取り組むべき集中領域の1つと定め、強化していく考えで互いのEC関連事業を掛け合わせることで規模拡大を進めていくことを目指している。
昨年から活発な動きを見せていたのはユーグレナで、1月には化粧品通販のLIGUNA、6月にはキューサイをそれぞれ子会社化しており、事業拡大を図っている。
また、西友の株式取得を進めている楽天グループでは、自動配送ロボット(UGV)を使い西友店舗で取り扱う商品を配送するサービスや、農業サービス「楽天ファーム」の「100%国産オーガニック冷凍野菜」の西友店舗での販売を実施するなど、両社で連携した施策が順調に進んでいる。
日本郵便と楽天が合弁物流会社
物流を巡る環境にも変化が見られている。EC需要の拡大を受けて、2020年度の宅配便の「ゆうパック」(「ゆうパケット」含む)が10億個超となり、過去最高を記録したことを明らかにした日本郵便では、楽天グループとの合弁で物流事業を手掛ける新会社「JP楽天ロジスティクス」の設立を発表した。楽天の物流拠点を日本郵便の配送網に組み入れることで、シームレスで効率の良い物流ネットワークを構築する考え。
同じく、日本郵便ではコロナ以降、停止していた米国宛てのEMSを6月より再開している。越境ECなどでの需要を大きく見込んでいるものだが、同時に航空運賃の高騰などを踏まえて、欧州宛てなども含めて、一時的に値上げする措置も導入した。
また、アマゾンジャパンでは有料会員である「アマゾンプライム会員」向けに展開する専用アプリを介した即配ECサービス「プライムナウ」を3月末で終了した。同サービスなどで展開してきたライフコーポレーションの生鮮品などのネット販売は、アマゾンの通販サイトやアプリで継続するという。
今年も相次ぐ行政処分
今年度についても通販企業に対する行政処分が見られている。中でも景表法に基づく措置命令が目立っており、1月の健食通販のECホールディングスを皮切りに、2月にはだいにち堂、3月には除菌効果をうたうスプレーの販売事業者3社や、健康茶などの通販を行うティーライフ、4月には洗濯用品の宮本製作所、6月にはまつ毛美容液や健康茶のハウワイなどがそれぞれ処分を受けている。
とりわけ、大きな波紋を呼んだのが、アフィリエイト広告を巡る行政処分だ。3月に育毛剤通販を行うT.Sコーポレーションに対する景表法に基づく措置命令では、アフィリエイト広告そのものを対象に企業責任を初めて認定。消費者安全法に基づく「アフィリエイト広告の注意喚起」でも、虚偽・誇大と判断した広告の表示責任を企業に求めた。
従来から、その構造の複雑さやステークホルダーの責任回避の連鎖から不当表示の温床になっていた面もあり、消費者庁も対策強化に向けて本腰を入れ始めている。6月にはアフィリエイト広告に対する景表法適用の考え方、不当表示の未然防止に向けた方策を検討する会合も始まっている。
関連して、3月には大阪府警が薬機法違反の疑いでアフィリエイターの男性を書類送検した。健食で医薬品的効能効果を標ぼうしていたというもので、アフィリエイターの立件という非常に珍しい事案でもあり、今後もアフィリエイト広告を巡る動向が大きく注目されている。
また、企業の不祥事というところでは、個人情報の流出が今年も散見された。セレクトショップ運営のアーバンリサーチの通販サイトが外部からの不正アクセスで個人情報が流出した恐れがあることを発表。
さらに個人情報に関連したニュースでは、3月にLINEが、コミュニケーションアプリ「LINE」ユーザーの個人情報にアクセスする業務を中国で実施していた問題などについて記者会見で釈明。同社では中国からのアクセスを遮断したほか、国外で保管・管理しているデータは順次国内に移転するとしており、総務省からも指導を受けるなど大きな話題となった。
そのほか、商品関連の話では、昨年末よりニトリやカインズホームといった大手量販店で、中国製の珪藻土関連商品から基準以上のアスベストが検出されるという問題が露見した。通販サイトでも取り扱われていた商品であり、後に厚労省が実施した買い取り調査ではアマゾンの出店者が販売する商品からも検出されたことが分かった。
各売り場では商品の取り下げや自主回収などに踏み切っており、再発防止に向けたガイドラインなどを設ける仮想モールも出てきている。
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上半期だけで2回の緊急事態宣言が発令されるなど、依然として、国内ではコロナ感染に対して高い警戒状態が続いている。それに伴い、リアルでの小売り活動の範囲も狭まっており、通販の需要も引き続き拡大していった。コロナ直後の前年ほどの勢いを持続しているというところは限られているものの、2019年度との比較では大きく伸びているとする通販企業は少なくないようだ。コロナ禍も2年目を迎え、各社で新しい生活や消費環境に対応する動きが一層進んだことが伺えた。
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