新型コロナウイルスの感染拡大以降、新しい生活様式に適応するために購入した物や、過去に購入した思い入れのある一着というのは、誰しもが持っているはず。今回のセンコミでは、メンズカジュアルに精通する30~60代の4人の業界人に、それらの物を購入した理由や思い入れなどを聞いた。
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ジャーナルスタンダードメンズディビジョンディレクター 松尾忠尚さん
街着になじむトレランシューズ/海外出張で買ったスエードジャケット
コロナ下で購入したものは、「アルトラ」の「ローンピーク」というトレイルランニングシューズです。元々趣味であるランニングをする時間が増えたため、昨夏ごろに「ジャーナルスタンダード」で購入しました。1週間に40~50キロは走ります。平日は家の最寄り駅の手前で降りて2~3キロ走ったり、週末は10キロぐらい走ります。
展示会シーズンの今、都内を歩き回る際にも心地よく履けるので便利です。本気のギアを日常のファッションスタイルとして取り入れるのが好きで、この志向はバイイングポリシーにも反映されていると思います。
店で扱う商品は、できる限り自ら試して良いと思える物にと考えています。そのため、5~6年前から山を登ったり、走ったりするようになりました。実際に機能を知ると知らないとでは、重みが異なる気がするので。
思い入れのある一着は、入社3~4年目の20代のころの海外出張時に、仏パリの「メゾン・マルジェラ」で購入した牛革のスエードジャケットです。確か10万円は超えていたと思います。おそらく米ワークウェアブランド「ラプコ」のカバーオールをサンプリングしたであろうデザインに一目ぼれしました。
当時は海外出張時に仕入れとは別で、その国や土地ならではの物を自分用にも購入して帰るというのが当たり前でした。「ロレックス」の腕時計や「オールデン」の革靴も購入しましたね。出張報告会というものがあり、そこではオーダーしたものと自身のために購入した物を発表するんです。そのときに自分用に何も買っていないと「何やってんだ」と先輩に叱られました。
最近の若者、特に20代前半の人たちは、買い物に積極的だと感じています。経験だけに頼らず、彼らに負けないようにと思っています。オンラインで簡単に情報を入手できる時代ですが、実際に見て触れて、日常的に身に着けてみることは、とても勉強になります。身に着けて初めて分かることもあるので、若い人たちには知識だけでなく体験も大事にして欲しいです。
スロウガン代表 小林学さん
豆を手でひく幸せな時間/大人っぽく上品な軍パン
外出自粛の中、家で過ごす時間が増えました。そうした時間をじっくり充実したものにするには、手回しでゴリゴリと豆をひく作業が最適です。コーヒーミルは気分転換の儀式にもなります。元々コーヒーを飲むのは好きですが、古着同様にレアハンター気質なので、コーヒーミルにもこだわりがあります。特に自動車の「プジョー」が1938年に販売した初号のコーヒーミルを復刻した50年代のものを愛用しています。メイド・イン・フランスで木製のアールデコデザイン。当時の雰囲気に浸り、コーヒーを飲みながら昔のフランス映画を見るのが幸せな時間の過ごし方です。
コーヒーミルは昔から集めておりフランスに出張するたびに面白いものを探していました。ですから今でもたくさん持っていますが、木製は傷みやすく、ちゃんとひけるものはあまり残っていません。今回は九州のアンティークショップにオリジナルパーツでオーバーホール済みのものが見つかりました。希少な存在です。大人の男性にとっては自分のために使う時間として靴磨きに近いかもしれません。
思い入れのある逸品は、古着で購入したフランス軍のパンツ、M47でしょうか。尻部分が丸く作業しやすいアメリカ軍のパンツと違い、フランス軍のパンツは腰回りがすっきりときれいなシルエットなので、古着でもサイズさえ合えば、チノパンのように大人っぽく上品にはけます。メンズファッションにおいて、軍パンのブームは定期的に巡ってきますが、今はフレンチワークの流れが急上昇しています。アメカジ好きでもとっつきやすいのがM47の良いところでしょう。
私自身は古着全般が好きで、米国や欧州に偏ることはありません。18年に立ち上げたメンズブランド「オーベルジュ」は欧州ビンテージをベースにしていますが、レプリカブランドではないので、フレキシブルに現代的なアレンジを加えています。オーベルジュでもM47を上質な素材で表現し、高い人気を誇っています。
Pt・アルフレッド店主 本江浩二さん
還暦記念の赤の手帳/80年代に購入したスエードブルゾン
コロナ下に還暦を迎えたので記念に何か赤いものを買おうと探した結果、赤い革の手帳を購入しました。「ホワイトハウスコックス」の分厚いタイプです。昔からペンと紙が好きで、スケジュール管理もアナログ派です。プライベートなことですが、60歳を機に30歳から定着してきた長髪を切りました。これまでくせ毛なので後ろで縛っていましたが、新しい髪形では整わないので、整髪スプレー代わりに、のど用ミストを買いました。一石二鳥ですね。
仕事用ではデジタル機器を購入しました。遅ればせながら動画配信をしようと思い、詳しい知人に相談し、必要なものを買い足していきました。今はスマートフォン1台あればライブ配信できる時代だからこそ、逆に本格的にしっかり取り組みたいと一念発起しました。プロ仕様のスイッチャー(画面切替)を購入し、パソコンや昔使っていたデジタルカメラとつなぎ、店内にちょっとしたミニスタジオを作りました。そこから街の動向や展示会でのバイイングの様子などの動画をライブ配信と融合させるつもりです。将来的には縫製工場や知人の地方個店と生中継したり、ファッション講座などにも挑戦したいですね。服屋が担ってきた〝たまり場〟の役割をオンライン上でも再現したいと思っています。
思い入れのある逸品としては、昔の「ポロ・ラルフローレン」の服です。特に80年代の服はたくさん持っています。なかでもニューヨークの本店で購入した茶のスエードのGジャンタイプのブルゾンはよく着ていました。通常のカントリースタイルだけでなく、ジーンズでもチノパンでも、フラノパンツにドレスシューズにも、何にでも合う万能選手です。一つの定番アイテムを工夫して着こなすという考えは、Pt・アルフレッドの原点でもあります。自分もエディター感覚で、来店する顧客にコーディネート提案をしています。どうしても捨てられない服をタンスの奥から引っ張り出して久しぶりに着てみるのもいいかもしれません。
にしのや代表兼「ニート」デザイナー 西野大士さん
密を避けるためのマウンテンバイク/パーソナルオーダーのブレザー
コロナ下で極力電車に乗らない生活をと思い、昨夏ごろに米サイクリングブランド「スペシャライズド」の古いマウンテンバイクを「ヤフオク!」で購入しました。新品を買おうと思っていたのですが、古いモデルは案外値段が手頃で、確か1万8000円ぐらいでした。修理費を含めて4万円ぐらいで乗れる状態になりました。東京・神宮前のオフィスに置いて、商談や直営店に行く際に乗っています。元々自転車が好きで、自宅には「サーリー」のクロスバイクがあります。20代後半で購入したのですが、16万円ぐらいでした。高い買い物でしたが、今年で12年目。長く乗ることができています。
思い入れのある一着は、「ブルックスブラザーズ」のブレザーです。24歳の春の入社して間もないころに購入しました。当時は痩せていたので、今となってはもう着ることができないのですが、捨てることはできない一着ですね。
今は分からないですが、当時は入社するとまず、つるしではなく、パーソナルオーダーでブレザーを買うという風習がありました。オーダーの一連の流れを見て学ぶためです。先輩に言われるがままで、サイズや細かい仕様などは選べません。当時は「トム・ブラウン」がはやっていたので細身が着たかったのですが、出来上がったのは、ブルックスらしいボクシーなシルエットでした。
小学校の教員を辞め、専門学校に通っていた当時、雑誌『2nd』で見た「オールデン」のローファーに引かれ、神戸の「ビームス」へ買いに行きました。しかし、販売員の方に「オールデンのローファーならブルックスの一枚革が良い」と教わり、その足でブルックスへ行き、購入しました。その際の接客が魅力的だったことが、同社への入社を志望した理由でした。
高い金額の物を背伸びして購入すると、大切に扱うので、結果的にコスパが良いのではと思います。購入するという体験が、会話のネタにもなりますしね。
(繊研新聞本紙21年3月5日付)
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