ファッション業界に“世界を変える若手”がまた新たに誕生した。フォーブスの名物企画 『30 UNDER 30 JAPAN』の今年の受賞者に、yutori代表の片石貴展氏(26歳)が選ばれたのだ。多くのアパレル店舗の閉店やブランド撤退という暗いニュースが続くなか、ファッション業界に明るい未来を照らしてくれた注目の若手、片石氏にyutori という会社について、今後の展望を伺った。
片石貴展さん
株式会社yutori 代表取締役社長
1993年神奈川県出身。明治大学商学部卒業。株式会社アカツキにて新規事業部の立ち上げに従事。2017年12月に個人的にインスタグラムアカウント『古着女子』を立ち上 げ、2018年4月に初期投資0円の”インスタ起業”としてyutoriを創業。『9090』をはじめ複数のD2Cブランドや、バーチャルインフルエンサー事務所『VIM』などを手掛ける。 2020年7月、51%の株式譲渡によりZOZOグループへジョイン。尊敬するアーティストはSuchmosとThe Flipper’s Guitar 。
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―まずはフォーブス『30 UNDER 30 JAPAN』受賞おめでとうございます。 ファッション業界の起業家としての受賞は珍しく、嬉しいニュースです。まずは、yutoriの事業について聞かせてください。
ありがとうございます。僕らyutoriは“デジタルストリートカンパニー”として、ストリートの思想にこだわり、それをオンラインで売っていくコンセプトのもと展開している会社です。事業としてはまず、インスタメディア/コミュニティの『古着女子』と『古着男子』の運営、『9090(ナインティナインティ)』や『spoon store(スプーン ストア)』、『centimeter(センチメーター)』をはじめとするD2Cブランドをプロデュース。ブランドのなかでも特に『9090』は売上規模として一番大きく、『spoon store』も最近かなり好調です。昨年7月にはバーチャルインフルエンサーのモデルエージェント『VIM(ヴィム)』も設立しましたが、メインの事業はアパレルで、実店舗は持たずオンラインで直販しています。
―D2Cブランドが好調な理由は?
すべてのブランドが古着へのリスペクトを持っていて、大好きな古着をアイデアリファレンスとして展開し、売上の70%はオリジナルが占めています。他ブランドとの差別化も理由の一つだと思います。今、僕と同じ年代の人が好む傾向のアパレルは、中国や韓国のファッションで、いわゆる世の中で短期的に流行っているものを仕入れてコスパ良く売っていくものが主流ですが、僕らは『9090』だと『9090』、『spoon store』なら『spoon store』というように、新しいものだけでなく古き良き文化を今っぽくリバイバルさせて、 “古いけど新しい”という価値をつくりだしています。
―各メディアのフォロワー数も膨大で、コミュニティづくりが非常に上手いですよね。
全メディア合計で今100万人弱フォロワーがいます。約2年半、ほぼオーガニックで数字を伸ばしてきて、ゼロからつくってきたコミュニティです。僕自身、知名度があるわけでは ないので本当にゼロの状態からスタートしました。これはまさにストリート的な思想(= ゼロからつくって這い上がっていく)なんですよね。
―こうしたコミュニティがどうやって数字に結びつくのでしょうか。
『9090』の例でいうと、オンライン抽選会で当選された方だけ参加できるポップアップストアを東京、大阪で開催したんですが、合計2000名が応募してくれました。1日の来場人 数のキャパが200名弱程度の規模だったので、応募に対して落選者数がとても多かったです。ここでの売上は2日で約700万円。その直後のオンライン販売で1,300万円を売り上げました。
―そんな大きな売上が発生しているように見えない独特のゆるさを感じます(笑)。
それがいいんじゃないですかね(笑)。若者が淡々とつくってるけど、実はめちゃめちゃ売れているっていう。生産もカットソーとかだと国内で受注生産で2週間程で発送しているんですが、生産背景も僕らの事業にとって適切な生産背景なのかを精査して、OEMや工場と協力してつくっています。最初はカットソーがメインでしたが少しずつアイテムにも セットアップが増えたり、事業規模拡大によってどんどん幅も広がっていっています。
―コンセプト以外のこだわりは?
グラフィックにはめちゃめちゃこだわっていますね。何にこだわっているかというと、“インスタで伝わる服”っていうのをすごく大事にしていて。洋服ってコミュニケーションツールだと思っていて、(サンプルを見せながら)これが今つくっているサンプルなんですけど、タピオカ飲んでいる女の子がいて、そこに「量産型にはなりたくない」っていう意味 の英語のメッセージが入っているんです。古着が好きな人って僕もそうですが、少しマイノリティでナイーブな人が多い。そういう人こそ伝わる人にだけ伝われっていうスタンスでファッションで自己表現をするんです。そういう人たちが普段思っているけど言えないメッセージをグラフィックに落とし込んで、自身の主張とかスタンスを発信してもらう。 それぞれのブランドでそういったメッセージを込めてつくっています。
―今、ブランドが撤退したり、厳しいファッション業界ですが、yutoriのビジネスは従来のファッションビジネスとは何が違うのでしょうか。
まず僕らはネットでコンテンツをつくることに長けています。コンテンツをつくって、お客さんに楽しんでもらうための媒体がファッションだったというだけで。僕自身がめちゃ めちゃファッション好きで、古着も大好きで。でも得意なのはネットで、特に知らない人に知ってもらうキャッチーなコンテンツをつくることが得意だったから今こうして支持してもらえているのかなと思います。
既存のアパレルといえば、やっぱり実店舗じゃないですか。一つのブランドをいろいろな店舗に出店して、オペレーションを誰がやっても大丈夫なように研ぎ澄ましていくといった、決してそれが悪いというわけではなくて、ただ、僕らは働いている一人ひとりが企画をつくることができて、面白い洋服をつくれる。全員本当に服が好きで、今の子たちにうけるような企画やアイデアを持っているし、会社としての強みがそこにある。信頼しているから、僕が今ブランドから手が離れていても安心できるんです。
―ファンのつくり方や成長の速さも驚異的ですが、それをゼロからつくっていることが凄いです。
今働いているメンバーもアパレル未経験の子が多いです。「臆病な秀才の最初のきっかけをつくる」を会社のミッションに掲げているんですが、好きなことはあるけど披露する場がない人や、好きなことへの情熱はあるのにくすぶっている人とか、チャンスがなくて前に進めない人っているじゃないですか。実際にそういう人たちがyutoriには集まっている。 「ゼロからつくる」、僕は本当のストリートってそれだと思っていて。本当のストリートのマインドってゼロから短いスパンでつくりだしていく、そういうことだと思うんです。
―本当に好きなことを真剣に取り組んでいるからこそ会社が成長し続けているのかもしれませんね。ビジネスの上では何をKPIにしていますか?
売上利益はもちろんですし、日時レポートもですが、インスタでいうと保存数を見ています。フォロワー増加も大切ですが、本質的なKPIはオンラインに商品をドロップした時のリアルタイムの待機数にあると思っています。それがいわゆるオンライン上で可視化されている行列の数なので、そこでどれだけ熱狂されているかが見える。売上は結局その熱狂がどれだけ還元されたのかということで、本質はお客さんがワクワクしている、このブランドのドロップをいかに楽しみにしてもらっているのか、そこを重要視しています。
―ファンの熱狂を生むためにしている施策は?
毎回撮影にはめちゃめちゃこだわっています。新商品を出すために毎週撮影をして、特に大人が目をつけていない、一般的には知られていないけど人気がある新しい人にモデルとして出てもらったり、キャスティングにはかなりこだわっています。あとは、商品を実際に買ってくれたユーザーが自発的にコンテンツをあげてくれるので、そういうコミュニ ティからの広がりも多くて、ポップアップストアをやった時も、当選した人が送った招待状をアップしてくれて、当日もその様子をアップしてくれたり。ユーザーが自ら楽しんで 「アップしたい」と思ってもらえるようなアナログなコンテンツを、戦略的につくっています。招待状や商品の箱、手紙とかも、フォロワーが多いからこそ、いかにこの子たちが楽しみにしてくれるか、考えながらつくっています。新規のお客さんを連れてきたいというよりも、今いる人たちをどれだけ熱狂させられるかを、常に大切に考えています。
―今回の展望とは?
やっぱり上場を一番の目標として持っています。アパレルで最近上場したのはTOKYO BASEで、過去のアパレルの上場企業もほとんどが店舗メインのビジネスでした。僕らのように、オンラインで直販メイン、しかもストリートのテイストで上場した会社ってないと思うので、まずはそこを目指したいです。上場する時の売上規模は2ケタ億中盤、営業利益が大体15-20%くらいと想定していますが、ほとんどの会社が営業利益4-5%なので、これはアパレルの会社ではない数字です。じゃあ僕らはなぜできるのか?オンラインで直販だから。広告に頼らないオーガニックでの集客づくりを強みに、自分たちの純粋に好きなもの、お客さんが熱狂できるものをピュアにつくって、っていうのが僕らのビジネスです。ビジネスモデルとしても受注生産が多いし、受注でも早く届けるということころにこだわって生産背景もつくりあげています。今あるブランド数を10-15ブランドくらいに拡大して、規模をもっと広げていきたいですが、古着からインスパイアされてブランドをつくっているのでそこのスタンスは変わらないです。
―yutoriってずばりどんな会社ですか?
メンバーは20代が中心で、18歳のスタッフもいます。僕たちはyutoriっていう名前ですけど 全然“ゆとってない”し、理想をつくるためにゆとりあるわけない、っていう逆説的な発想から、最近「ゆとらない採用」っていうのを始めました。年齢層も20後半から30前半くらいのITとかアパレルで働いていて経験者で、新しい場所で動き方ができる柔軟な人にもっと入ってほしいなと思っています。
人の面でいうと、これはほぼ日の受け売りですが、「やさしい・強い・面白い」を重視していて、基本的に自分のこだわりはあるけど、人とちゃんとコミュニケーションしながらチームプレーできるやさしさと、ものごとをつくることって泥臭いし最後までやりきることって大変だからそこのタフネス=強さ、あとそれだけだと意識が高すぎてしまうから、そこにユーモアがあるっていう、優秀だけど面白さのあるメンバーが多いです。話してみると見えてくるものがある、自分からできるってアピールする人よりもこの人実はこんなこともできるんだ!っていう発見がある人が多いですね。
―応募者は多いのでは?
8月にも250名ほど応募がきました。一緒に働く人は互いに好き同士がいいと思っているので通過率は少なくて、月に3,4人いるかどうかです。書類と人事面談、現場面談、役員面談、お試し入社と、プロセスは意外と長いんですけど、長いということはそれだけ情熱があって志望度が高いかが分かるので。このプロセスを短くして付け焼き刃的に入る人を増やすよりかは、本質的に会社の魅力を高めて、長いプロセスでも入りたいと思ってもらえる会社にしたいと思っています。
―これから入社する方が上場を経験できたら素晴らしいです。
服が好きな人ってすごく多いと思うんですけど、服を生業にしていこうっていう人ってどんどん減っていると思うんです。そこは、自分たちがしっかり結果を出して、そういう人たちの希望をつくりたいです。
―yutoriで働くにはどういうスキルが求められる?
「ゆとらない採用」でも出していますが、やっぱりブランドマネージャーのポジションが重要で。アパレル経験者かどうかは問わないですが、一定のビジネススキルがあって、ファッションが好き、主観と客観のバランスが取れている人を求めています。うちの会社は3ヶ月もいれば慣れる社風だし、新しく入ったからといって下積みとかもないので、すぐに活躍できると思います。
―最後にyutoriとしての次のチャレンジを聞かせてください。
シンプルにブランドをつくっていく、っていうのをやっていきたいです。今、70’sの波がきているので、そのあたりの年代だけどテイストはストリートみたいなブランドを立ち上げたり、個人的にはサーフブランドもやりたいんです。サーフ系って死語みたいになっていますが、僕の世代だとムラスポとかクイックシルバーとかビラボンとか、ど真ん中で。でも今の子たちってあんまり知らないじゃないですか。だからサーフ系をリバイバルしたり、またゼロからつくっていきたいですね。あとはスタイリストさんとか、ファッションに長年従事していて情熱を持っている方々と一緒にブランドをつくっていきたいです。僕らはまだ人と一緒にブランドをつくったことがないから、長年アパレルにいる方たちにめちゃめちゃリスペクトがあるんです。10-20年ファッション業界にいて情熱を持った人と一緒に、根っこはすごく深いけどビジネスモデルが新しいみたいなものをつくりたい。外部の方と一緒に組むので、間に立ってくれるようなアパレル経験があって、ブランドをつくる動きが得意で、新しい働き方がしたいっていう人にも是非来てほしいですね。
―ありがとうございました。
今年ZOZOの傘下に入ったことでますますビジネス規模の拡大が期待されているyutoriは、この10月にも新たなD2Cブランドを立ち上げた。既存のブランドに続き、このブランドでも熱狂的なファンが完売状態となったアイテムの再販を待っているそうだ。まさに“ゆとってない”片石氏の起業家としてのこれからと、今後のyutoriの未来に今後も注目したい。
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