

今年に入ってから「ポンパレモール」をはじめとする仮想モール事業の立ち上げや既存のファッション通販サイトのリニューアルなどを立て続けに行っているリクルートライフスタイル。4月1日付で新社長に就任した北村吉弘氏に、同社における通販事業の位置付けや今後の目指している方向性などについて話を聞いた。
(聞き手は本紙編集長・鹿野利幸、本紙記者・山﨑晋)
──近年通販事業を強化している印象だが、社内での位置付けに変化は。
「以前から通販形態のビジネスは行っていた。何か位置付けが変わったとは捉えていない。昨年10月の分社化で『リクルートライフスタイル』という会社になったタイミングで、各事業会社の取り組みとしてECに関するサービスが多く出てきた部分はある」
──分社化の効果は。
「今まで分散してやっていた事業を束ねられるようになり、統合効果が出ている。例えば新サービス開発のスピードや、立ち上げ後の集客について当社の抱える会員など内部集客がスムーズにできるようになった。今まで事業部ごとに壁になっていたものが取り払われ、計画されていたものがここにきて立て続けにリリースされている」
──新事業の印象は。
「市場からの期待が大きいことは日に日に感じている。参画する企業に私も直接話を聞く機会があるが、(リクルートに)会員の基盤があるが故に非常に高い期待を持たれている」
──特にポンパレモールに対する出店者の期待は高い。
「ECの分野において当社は最後発に当たるが、それでもこれだけの期待をもらえるのは嬉しい。一方でその声に応えるために、現場に対しては出店者の声をきちんと聞いてその中で会員とwinwinの関係が築けるようにするよう言っている。ただ単に『ないから作ります』というのではなく、可能な限りプラスアルファの価値を提供できる提案を入れながらサービスの磨きこみをするように伝えている」
──出店者の意見はどのように集めているか。
「出店者の声は全部レポーティングして、分類分けしている。どのような希望があってなぜその意見が出ているのか全て集積し、私も含めてそれをすべて見る体制を取っている。最後発なのでこういった分析を見ながらやらないと、最短距離でいいサービスになっていかない。まだ開始したばかりということもあり、可能な限り出店者と一緒になって作っていければと思う」
──今後、ポンパレモールでの仕掛けは。
「5月30日から始まる『リクルートカード』(クレジットカード)がその1つ。ポイントを使う・貯める目的のカードで、ポンパレモール単体の利用でもポイント付与率が3%ある。カードとの組み合わせでポンパレモールを利用する可能性が高くなり、集客に活きていくと考えている」
商材ごとの専門特化を切り口に
──3月に「ERUCA」を下着専門サイトに刷新、4月には家具専門の情報サイト「タブルーム」を立ち上げた。商材ごとに特化したサイトを次々と開設する狙いは。
「背景にあるのは、当社が今後ネットの中で販売や情報提供するやり方の学習としてのひとつのきっかけにしているということ。元々当社は情報誌というビジネスの中で大量の情報を集めて並べるということをやってきた。そのため、ネット事業を行う際にも同様に大量の情報を満遍なく集めるという手法をやりがちだった」
「ところが、社内の若手エンジニアから『本当にそれが好きな人だけ見てくれればいい限定的なものを作って、そこでポジションを築いてからビジネスに変えていくということが必要なのではないか』という指摘があった。『タブルーム』もそこでできたひとつ」
──「タブルーム」の役割は。
「あれは本当に"家具オタク"が作ったようなサイト。1つのキーワードとして一部の熱狂的なファンをまずきちんとつくることが、サービス立ち上げ作業のバリエーションとしてあっていいのではないかと思った。『狭いところで深くやってみる』というやり方が分かっただけでも非常に成果があった」
──「ERUCA」の刷新も同様の理由か。
「ファッションといえば何かと広くしがちになるが、あえて(下着の)専門分野に特化して深くすることで一部熱狂的なファンがつきやすくなる効果が期待できる。このやり方を、『ポンパレモール』や『じゃらんnet』など幅広く行っているサービスと並行して使うことで、会員のロイヤリティーを高める施策として非常に面白いものになるのではないか」
──今後、別の商材で専門サイトを作る予定は。
「可能性としてはあるかもしれない。実はタブルーム開設で一番反響があったのは社内のエンジニアたちだった。『自分のここだけは誰よりも詳しくてぜひやりたい』という声が多かったので、いくつかそういうものを作ってみてもいいのかもしない。会員からも『こういう深いものをつくれないか』という要望もある。『ERUCA』の下着特化と『タブルーム』の立ち上がり方は、元々が少し違う話だが、狭く深くやるという意味では同じひとつの手段として見ている」
「人と地域」をキーワードに
──4月1日に社長に就任したが改めて抱負を。
「当社では『日常消費領域』を会社の領域として定義しているが、実はこれが非常に広い。そのため、どのように定義してどういったビジネスの作り方をしていくかということを今まで以上にしっかりと考えなくてはいけないと思っている」
──「日常消費領域」と聞くと非常に競争相手が多い印象だが、その中での差別化策は。
「とらえ方によっては(競合が)非常に多いといえるかもしれない。『日常消費領域』というドメインの中で当社が1つのキーワードとして持っているのが『人と地域』ということ。個人的には当社のような会社形態は非常に珍しいと思っている。旭川から沖縄まで事業所を持っていて、その地域で『ホットペッパー』を通じたビジネスも行い、さらにネットでもビジネスをやっている。自分では『マルチコンポーネント』と言っているが、色々なパーツが組み合わさったプラットフォーマーのようなビジネスをやっているところは他ではあまりないと思う」
──その特徴こそが大きな武器になっている。
「よくよく振り返ってみるとそれこそ当社の人間も旭川から沖縄まで住んでいて、その地で日常消費をしている。当社が主に扱っているのは『サービス』だが、基本的にその地で生まれその地で消費されるもの。地域で地元の人がそのサービスを享受し、そこにお金を落として産業が活性化し雇用が生まれ、そこで余裕ができて消費に回していくというこの大きなサイクルをきちんとイメージしながら事業展開をしていきたい」
「サービスが大都市圏に集まりがちになってしまうのも自然の流れだが、旭川から沖縄までの事業所という特徴を生かして、競争とは別に事業会社としての価値をきちんと提供することを心掛けていきたい」
──それを通販にどのような形で反映していこうと考えているか。
「私は『果たしてネットは人々の機会を最大化する方向に動いているのか』という疑問を持っている。社内で考え方のきっかけになるひとつの事例として若手によくしている話がある。ある地方で、料理のつまとして使われる『もみじの葉』をおばあさんがネットで市場の相場を見ながら採りに行っていた。これはネットで情報をリアルタイムに取得して何がお金になるのかを把握し、そこに人が動くということを表しているのだが、全国から自治体を含めたくさんの人がこの取り組みを見学したそうだ。しかし、実際に真似をしたという地域はなかった。それは、この前提条件としておばあさんがパソコンを使えたからできたことであって、ほかの地域でこれをやろうと思っても壁が存在してしまうのだという」
「このような現実的なギャップに対していかにしてネットの世界を開放していくのかということに非常に興味がある。まだネットを使っていない人に対して開放したその先に、何か新しい日常消費のきっかけや我々のビジネスのきっかけができればいいと思う」
会員ロイヤリティーの向上が最優先課題
──現在の取り組みの中で優先順位が最も高いものは何か。
「当社の持っている会員に対するロイヤリティーをどうやって高めていくかということに尽きる。単純にインセンティブという意味ではなく、その人たちに提供できる新しいサービスであるということ。もちろんポンパレモールもその一つ」
──既存のネットでのサービスは完成形に近いと考えているか。
「ネットのビジネスで完成系に近づくものはないと思う。デバイス一つとってもPCからスマホに変わり、通信の速度も変わっている中で、我々が提供できるサービスのバリエーションも変化して増えていくことになる。どこまでいってもゴールにたどり着いたり、越えたりすることはないだろう」
──これから先、ECの世界で起きる変化としてはどのようなものを想定しているか。
「1つ目はスマホの進化。他社でも同じように注目して取り組んでいると思うが、当社でもある程度その進化を想定しながら動くようにしている」
「2つ目はデータの活用方法だ。例えば、ビックデータの使われ方が今までは単なるモニタリングだったりした。しかし、実際に仕組みを動かすアルゴリズムに変換され、どんどんネットの世界に入ってくるようになるとよりパーソナライゼーションが進んでいくと思う。今まで人のアイデアから生まれていた事業が、もしかしたらデータ側にある程度の答えがあってそこに近づくためのサービスを作っていくという考え方に変わるかもしれない」
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