古着屋の相場ではなく“ファッションとしての価値”を見る 本当に良い古着屋を求めて。学芸大学 ISSUE編
【連載】本当に良い古着屋を求めて 第3回
IMAGE by: FASHIONSNAP
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古着屋の相場ではなく“ファッションとしての価値”を見る 本当に良い古着屋を求めて。学芸大学 ISSUE編
【連載】本当に良い古着屋を求めて 第3回
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同じ時代に作られた服をセレクトしていたとしても、そのラインナップや店構え、スタイリングの提案によって古着屋のアイデンティティは千差万別。支持される店ほどそのキャラクター性は明確で、自分らしく服を着るとは何なのか、その佇まいで物語る。自分らしいファッションとは何か、人気古着店の名物スタッフたちに学ぶ連載「本当に良い古着屋を求めて」第3回。
学芸大学駅から東横線沿いを祐天寺方面へ歩くこと約5分。駅前や高架下の雑多な雰囲気を抜けた先に現れるのは、静謐な雰囲気の古着屋「イシュー(ISSUE)」。今でこそ学芸大学エリアには数多くの古着店が軒を連ねるが、同店は同エリアへ10年以上前に出店したパイオニア的存在。周囲は住宅街、隣はおにぎり屋というローカルな空気が漂う中、店の入り口に向かう階段を登りながらISSUEのソリッドな世界観に入り込んでいくような感覚を覚えた。複数店舗を展開し、多くの社員を擁するISSUEの創業初期から社員第一号として10年以上オーナーを支える右腕であり、ファッションフォトグラファーとしても活動しているショップマネージャーの齋藤一平さんに話を聞きながら、何気ない服をかっこよく見せるISSUE式スタイリングを紐解く。
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目次
“野暮ったい服”の洗練性を飾らず引き出す
ISSUEのオープンは2018年11月。学芸大学という場所を選んだ理由は、東急東横線沿線で祐天寺ともゆかりのある街だったこと、夜遅くまで開いている店が多い雰囲気、そして当時古着屋があまりなかったから。
同社の始まりは、2011年12月にオーナーが祐天寺に1人で立ち上げた古着店「カタチ(KATACHI)」。その後メンズウェアのショップとしては、2015年5月三軒茶屋に2000年代のテック系アイテムを中心にセレクトする「スリー(THREE)」を、2018年にISSUEを、2023年1月三宿にヨーロッパの1980〜1990年代アイテムが揃う「カーブ(CURVE)」をオープン。ウィメンズウェアのショップとして、2017年1月には三軒茶屋に「ルイク(LUIK)」を、2021年4月にはISSUEの裏手に「フィン(FINN)」を開業した。現在は閉店した1店舗目のカタチの名を取った運営会社を立ち上げ、それぞれオリジナリティを持った系列店を5店舗を運営する体制も同社の特徴だ。ISSUEのコンセプトは、「すべてが洗練されている、セレクトアイテムとしての古着」を提示すること。中でもアメリカ古着特有の良い意味での野暮ったさや土臭さと、美しいシルエットやヴィヴィッドな色彩を併せ持つアイテムの絶妙なバランスの面白さを提案する。
野暮ったさの中に隠れた古着特有の洗練されたディテールを下手な言葉で飾らず、ソリッドな空間の中に配置する見せ方もバランス感を意識するISSUEならでは。内装はオーナーの友人である空間デザイナーによるもので、各店のコンセプトはもちろん、フォトグラファーである一平さんの意見も反映しながら写真を撮るときの見え方まで意識して空間設計されている。店内にはヨーロッパを中心とした世界各地で買い付けた家具を配置し、様々な国や年代の要素がミックスされながらも雑然とするのではなくシックな雰囲気を醸し出す。メンズウェアの3店舗に並ぶ商品は、同じ買い付け先から仕入れることも多いが、ひとつひとつのアイテムがどの店の空間や色調に似合うか、どこにあることで一番美しく見えるかを想像しながら買い付ける。逆を言えば、自分たちが買い付けるものを美しく見せるために的確に機能する内装を考えて店舗を作っている。提案するスタイルは創業当時から変わらず、だが日を追うごとに店舗それぞれの世界観は研ぎ澄まされ、棲み分けが明確化してきていると一平さんは話す。
一点物を中心としたISSUEらしさが詰まったエリア
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「ファッションとしての相場」で古着を見ている
ブレないコンセプトと審美眼を持ち続けるからこそ、古着業界のトレンドやそれによって上下する「相場」に左右されないセレクトもISSUEの特徴の一つ。大事なことはそのアイテムを実際に着たときどう映るのか、古着も1着の服としてどのような魅力を持っているかどうかを見極める。古着の"ファッション"としての価値が「古着相場の価格なのか」と問われると答えはNO。そのため、ファッションとしての提案に満足する顧客からは、「安い」と言われることもしばしばだという。
創業当初から取り扱っている「襤褸(ぼろ)」や「ペンキ物」といったアイテムも、最近価値が高まりつつある市場の中でその「古着としてのジャンル」でばかり語られがちだが、ひとつひとつのアイテムのペンキの跡が、ただ汚くなっただけのペンキなのか、ファッションとして、アート的にかっこよく見えるものなのか、という見極めが欠かせない。古くてボロボロだから安い、ボロボロのものが今価値が上がってるから値段を上げる、と言った簡単な話ではない。
週5働いている人間が綺麗すぎる服を着てもリアリティがない
「相当神経質に選ばれた服が並んでいる」と一平さんはISSUEのセレクトを説明する。洗練性と野暮ったさの絶妙なバランスを見極めるには、裏打ちされた審美眼が必要だ。素材感やサイズ感にこだわるのは当たり前。良い古着が持つ、ネックの開き具合や脇周りの収まりの良さなど、着て初めて実感する、見た目でわかりにくく言語化しづらい魅力を接客を通じて伝えている。
尖った意匠のアイテムで「ドヤりたくない」。買い付ける側は、シビアな目線で商品に向き合う必要がある一方、買い手側はそれに気づかなくたっていい。「気づいてくれたら嬉しいけど、そこに気づかなくてもいいんじゃないっていうのが、うちのかっこよさだと思ってる」と一平さん。ISSUEという言葉は「再定義」や「再発行」といった意味も持つ。この店にとっての“ISSUE”とは、刺々しい問題提起ではない。洗練されているアイテムを洗練された感を出さずに普通に着やすいものとして提示する。店に来て、服を着て、服が並んでいるのを見て、説明できない何かに気がつかせることができる店であることが、ISSUEが考えるかっこよさだ。
「週に5日間働いている人間なんだから、擦れたスウェットとか擦れたシャツとかがファッションにならないなんてのは、そもそもおかしい」というのはオーナーの小野さんの言葉。「週5日も働いて過ごしてる人間が綺麗すぎる服を着たってなんのリアリティもない。我々は労働者なんだから、カーハートとか、ただただ使い古したスウェットみたいなものがよく見えて、それが一番体に馴染んでかっこよく見えるって当たり前じゃない?」。勤勉に働く人間たちにとってはリアテリティのあるはずの使い古された古着に対して「ぼろ」などとネーミングしてコンテンツ化しようとすること自体が、ISSUEにとっては「イタい」こと。古いものを古く感じさせないのではなく、古いものに対して真剣にリアルクローズとして向き合っているからこそ、この店は東京で暮らすの現代人の日常に馴染むミニマムな雰囲気を纏うのだと納得させられるのである。
スタッフが組む“ISSUE的な”3ルック
一平さんが組むISSUEなスタイル3選を紹介。組み合わせや細かいシルエットの塩梅を吟味する。
カーハートのダブルニーはサイズをシャープに
一平さん
カーハートのダブルニーはウエスト36、38とかで履いちゃうと子どもっぽい。あえて32とかシャープなサイズ感とシックな色合わせで、大人にも通用するアメリカの野暮ったいスタイルにしました。
色使いが鮮やかなダル着スタイル
一平さん
ワークやジャージーをベースにしていて基本的はダル着ですけど、色使いの綺麗な70'sを、ヴィンテージだけど古臭く見えないサイズ感と色感で。
一点物カーディガンを主役に
一平さん
素敵なカーディガンなんで、クセなくTシャツにさらっと羽織ってスラックスと合わせました。一点物ってかっこつけて着られがちだけど、さらっと着こなしたらかっこいいかなと。
Fスナスタッフが変身
ISSUEにもよく通っている、古着大好きFスナスタッフSが取材に同行。一平さんと相談しながらアイテムを吟味する。
パーカっていなたすぎるアイテムなのでなかなか良いものが見つからないのですが、これは色合いとテンションが丁度良くて気に入りました。
スタッフS
このバッグも古着ですか?
スタッフS
一平さん
古着です。ボロのパーカにそのバッグを持って、スラックスにあわせてみましょう。前はちゃんと閉めて。
■ISSUE
所在地:東京都目黒区鷹番2-13-9 1階
営業時間:月〜金 15:00〜22:00、土日 15:00〜24:00
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【連載:本当にいい古着屋を求めて】
第1回:祐天寺「Gabber」
第2回:下北沢「ムー」
第4回:渋谷「DESPERATE LIVING」
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