「フレグランスにおいて、ボトルやデザインは退屈なものでいいと思っている」。そう語るのは、オランダ・アムステルダムでブランド「フガッジ(FUGAZZI)」を立ち上げたブラム(Bram)氏だ。2018年にローンチし、ヨーロッパを中心に45ヶ国に販路を広げ、今年アムステルダムにバーを併設した旗艦店をオープンするなど順調に成長するブランドのブラムは、てっきり業界でのキャリアを活かしてビジネスを展開しているのかと思えば、全くの未経験者で、最初のフレグランス作りは「なんでもググった」というから驚きだ。
ミニマルなデザインとは裏腹に、ブランドのSNSでは「バッドレビュー(悪い評価の口コミ)」をあえて紹介したり、街中の電柱に香りのサンプルを取り付け、ゲリラ的にサンプリングを行ったり、ショップでDJイベントを開催したり、業界の慣習に縛られない“身軽さ”に惹きつけれる。初来日したブラム氏への取材から、ブランドの“dope”な魅力に迫る。
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ブラム:オランダ生まれ。2014年からアムステルダム・ファッション・インスティテュート(Amsterdam Fashion Institute)でファッション・マネジメントを学び、2018年に卒業。その後、自身のフレグランスに対する経験から、情熱を凝縮したブランド「フガッジ(Fugazzi)」を立ち上げた。ブランドは現在45ヶ国で展開中。
目次
ファッション学生が“見よう見まね”でフレグランス作りをスタート
⎯⎯今回が初めての来日だそうですね。
日本のカルチャーやファッション、街のムードは刺激的で、来日をとても楽しみにしていました。今回は伊勢丹新宿店で行われる「サロン ド パルファン 2024 @ISETAN MEN'S」に出展する目的で、ノーズショップ(NOSE SHOP)のブースでの展開になります。今冬にはノーズショップの店舗で正式に販売する計画を進めています。
⎯⎯ブラムさんはファッションの専門学校に通っていたのだとか。
アムステルダム・ファッション・インスティテュート(Amsterdam Fashion Institute、以下 AMFI)に通い、ファッション・マネジメントの学士号を取得しました。学生時代はもちろんファッションの道に進もうと思って、“ブランド”を成立させるためのコンセプトメイキングや、マネジメントの知識を学び、テキスタイルを基にどうやってブランドを形成するか考えることにとても興味がありました。2015年ごろ、僕は「オフ-ホワイト™(OFF-WHITE™)」が好きで、デザイナーのヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のファーストピースをよく着ていたら、彼がインスタグラムでコメントしてくれたことがあります。そのくらいファッションに情熱を注いでいました。
⎯⎯なぜフレグランスの道に進むことになったのでしょうか。
元々ラグジュアリーマーケットに興味があり、卒業プロジェクトも進めていたのですが、個人的に建築デザインにも興味があって、祖父とエジプト旅行に行ったんです。現地でツアーに参加して、香油のブティックを訪れ、さまざまな香りに触れて一気に虜になりました。エジプトからの帰路ですでにプロダクトコンセプトのアイデアを書き溜めていたのを覚えています。と言っても、その時もまだ、フレグランス業界にこれほどコミットすると思っていませんでした。
⎯⎯え、そうなんですか?
まずは自分がイメージするフレグランスを作ってみたいという強い思いに突き動かされて、単独のプロジェクトのような形でスタートしました。「フガッジ」(現在は商品名を「パフューム 1」に変更)という名前の香りを作ってみたら、家族や友人たちが大変気に入ってくれて、フレグランスづくりを続けてブランドにするべきだって背中を押してくれたんです。
⎯⎯なるほど。最初の商品名であり、今のブランド名でもある「フガッジ」とはどんな意味なんでしょうか。
フガッジやフゲイジなど地域によって読み方は変わるのですが、ある種スラングのようなもので、「イリュージョン」「フェイク」「理解できないもの」というニュアンスを持っています。普通に生活していたとしても、自分のありのままの生活と他者の視線がある生活ってある意味リアルとフェイクというか、少なからずズレがあったりするじゃないですか。そういう絶妙な乖離や、何か種があるんじゃないかとイリュージョンに対峙した時の、虚構とも興奮とも取れるようなものを表現したいと思ったんです。フガッジ、フゲイジと読み方が異なるのも面白くて、こちらから正しい発音を伝えることはなく、その人それぞれの呼び方で呼んでもらっていいんです。
⎯⎯最近ニッチフレグランスや新たなフレグランスブランドを立ち上げるファウンダーは、大手メーカー出身者やブランドビジネスの経験といった“バックグラウンド”を持つ人が多い印象です。ファッション専門学生だったブラムさんが“初心者”としてスタートしてみて、どんなことに苦労しましたか?
苦労だらけでしたよ(笑)。エジプトで体験した香油にインスパイアされてスタートしたものの、何をどんなふうにミックスして、どんな容器を使えばいいのか、文字通り「右も左もわからなかった」。フレグランスにはトップやボディ、ベースのような香りのピラミッドがありますが、僕はそれぞれ人間関係のように思っているんです。トップの香りは初対面の段階で、ボディは徐々にその人のことを知っていく過程、そしてボディはより深くキャラクターを理解するためのもの、というふうに。香りが興味深い変化をしていくには、どういう構成、組み合わせがいいのか、あらゆることを“ググって”ようやく形になりました。「香油 何が違う」とか、「フレグランス 容器 メーカー」とかから始まり、「フレグランス トップの作り方」みたいにね。
一般的なフレグランス作りは、香料メーカーが持つ原料や香りのレシピをベースに整えていくのですが、当時はそんなこと微塵も知らなかったので、自分が作りたい香りをどうしたら作れるのかと四苦八苦しましたね。今では香料メーカーもとてもいいパートナーと出会えて、一緒にフレグランスづくりをしています。
フガッジが大切にする“ラグジュアリーさ”とは?
⎯⎯当時学生で、“初心者”だったブラムさんのブランドは、どのようにして広がっていったのでしょうか。
最初のフレグランスを知ってもらえたのは、本当に運としか言いようがありません。学生で、お金はないけど時間はありましたから、土日に自分でお店を回って、「ハーイ!ブラムといいます、僕のフレグランスを見てもらえませんか?」と営業していきました。原始的で地道な方法ですが、通っていたAMFIは入学者の半数が辞めてしまうような厳しくも優秀な学校として有名だったこともあり、興味を持ってもらうことができました。
一番最初に取り扱ってくれたセレクトショップ「FOUR Amsterdam」は、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「トム フォード(TOM FORD)」のようなラグジュアリーブランドを販売しているアムステルダムの中でも屈指のハイエンドなショップなんです。シャンパンのコーナーの隣で「これもテイスティングしてみてください」という風にユニークな方法で売ってくれたことも、いろんな人に興味を持ってもらうきっかけになったと思います。お客さんからも反響が良く、お店のオーナーからもっと売ったらどうかと言われたこともあり、最初の香りの名前を「パフューム ワン」に変えて、「フガッジ」というブランドにしようと決意を固めました。
⎯⎯AMFIに通っていたからこそ、フガッジを形にすることができたんですね。
その通りです。学校でブランディングやコンセプトメイキングについて学んでいなければ、香りに興味を持ったところでプロダクトを作ろうと思わなかったでしょうし、今ブランドを一緒に運営してくれいてる仲間のほとんどが在学中に出会った人たちです。グラフィックやデザインも立ち上げ当初から友人たちに助けられました。
⎯⎯フガッジのプロダクトデザインについてですが、誤解を恐れずにいうと、とてもシンプルですよね?
フガッジにおいては、ボトルやデザインは“つまらないもの”であるべきだと思っています。言い換えれば、スタンダードということ。フレグランスにおいては香りが主役ですから、本来は華美なデザインではなくても成立しますよね。僕たちは、見た目で一時的なトレンドを追いかけたりするのではく、本質的でコンテンポラリー、尚且つラグジュアリーなブランドを作りたいと思ったからです。極力シンプルに削ぎ落としてはいますが、キャップをマグネット式にしたり、リミテッドエディションはキャップの色を変えたり、ちょっとした変化で遊びを取り入れることができます。
オードパルファムは白のキャップ
エキストレ ド パルファムは黒のキャップ
⎯⎯フガッジにおいてラグジュアリーさはどのようなところに反映しているのでしょうか。
端的に言うと、質を追求しているかどうかだと思っています。元々学生の時にラグジュアリーマーケットについて勉強していて、ブランドを作る際にフレグランスにおけるラグジュアリーとは何だろうかと考えていました。僕らのブランドは決して潤沢な資産があるわけではありませんが、限られた予算の中で高いクオリティをキープしたい。
また、僕らのフレグランスはオイルイン処方で、香りの広がり方が繊細です。肌にしっとりとなじむように香りが広がっていくので、この使い心地は人気のポイントのひとつですね。
⎯⎯「ラグジュアリー」と言うキーワードが出たので、価格設定についても聞きたいのですが、フガッジの商品はオードパルファムが95ユーロ(約1万6000円)、エキストレ ド パルファムで145ユーロ(2万4000円)と比較的手に取りやすい設定のように感じました。
気がついてくれてありがとうございます。正直に言うと、香料や品質を考えると価格をもっと上げて儲けることもできます。でも、例えば僕たちのブランドをかっこいいと思ってくれた人たちが「購入できるか」も大切だと思ったんです。もちろん若い世代にも使って欲しいので、高額すぎないという点は努力しました。ある意味、高品質でありながらアフォーダブルであるということもブランドの価値で差別化できるポイントだと考えているので。
業界慣習に捉われないアイデアの数々 SNSでは時に“悪口”さえユーモラスに投稿
⎯⎯SNS投稿のクリエイティブを見ていると、ムードやストーリーを感じさせるようなクリエティブが目立ちますね。
質が高く、ラグジュアリーであることと同じくらい、自分たちがかっこいいと思うことだけを追求したいと思っています。それはチーム全体でも常に共有していること。グラフィックやヴィジュアルの抽象的なイメージは、香りについて明確に説明してくれるわけではありませんが、スタイルやムードを伝えてくれて、見るひとの香りに対する想像を掻き立ててくれます。
⎯⎯同じくSNSコンテンツで、「BAD REVIEW(悪い口コミ)」を紹介しているのがユニークだと思いました。
あれは僕のアイデアなんです。facebookなどで悪いレビューや投稿を上げている人を「facebookwarrior(フェイスブックのギャング)」と呼んでいるんですけど、どんなブランドでも一定数悪いコメントは見かけます。時には熱心に悪いコメントを残すことに必死になっているユーザーもいますが、それは顔が見えないオンライン上だからこそ活発になるものですよね。ですから、そういう“熱心な”人たちのコメントをブランドが敢えてピックアップしたら面白いんじゃないかと。最初の投稿は150万回も再生されて、そのおかげでフガッジを知ってくれた人も多いと思います。悪いコメントが認知拡大を助けてくれるなんて皮肉で面白いですよね(笑)。
⎯⎯こうしたSNS向けの取り組みは、常に考えているんですか?
コンテンツクリエイターやマーケティング担当など僕を含めた4人のグループチャットがあって、日頃からSNSコンテンツについて話し合っています。ちょっとした思いつきや流行っているコンテンツなどをシェアして、面白いと思ったものをどんどん進めていくんです。SNSはトレンドの推移がとても早いので、このチャット欄はめちゃくちゃ活発。
この投稿もグループチャットから生まれたプロモーションなんですが、「バニラ ヘイズ(Vanilla Haze)」(日本での発売は未定)というフレグランスの紹介で、アムステルダムの街中の電柱に、実際にテスター付きのポスターを貼ってフリーサンプリングを行いました。この香りはバニラやトンカビーン、ココナッツミルク、アーモンド、ヘーゼルナッツなどの香料が入っていて、グルマン系の香ばしいクリームブリュレみたいな香りがするんですが、キャッチコピーは「Don`t eat me, wear me!(私を食べないで、まとって!)」。そのほかの投稿でも香りにちなんだストーリーで“シャレ”を効かせた投稿をしています。
アムステルダム市内でのサンプリングの様子
「Don`t eat me, wear me!」を表現したコンテンツ
⎯⎯こうしたSNS発信は、デジタルネイティブだからこそ思いつくもののように感じます。いわゆるフレグランス業界を経験していないからこそ、慣習などに捉われずに企画できるというか...。
確かに、そういう側面はあるかもしれませんが、先ほども言ったように根本的には自分たちがクールだと思ったことだけを突き詰めていった結果だと思っています。SNSに関しても、アイデアは得るけれどバズっているコンテンツを真似するようなことはしませんから。TikTokやリールは確かに若い人たちが楽しんでくれる内容かもしれませんが、実際のお客さまは老若男女。最初に取り扱ってくれた「FOUR Amsterdam」はハイエンドなセレクトショップだったり、アムステルダム ファッション ウィーク期間中にヴォーグ(VOGUE)が行った関連イベントでは、感度の高いたくさんのお客さんが来てくれました。
業界の常識に捉われないという意味では、今年アムステルダムにオープンした初めての旗艦店は、まさに僕たちならではと言えるかもしれません。
⎯⎯どんなお店なんでしょうか?
3階建てで、フレグランスショップ、オフィス、バーの複合的な施設にしたんです。1階のショップは落ち着いたウッド調の素材を用いて、ゆっくりと香りを選べる空間をデザインしています。壁一面にボディウォッシュを陳列した”ボディウォッシュ ウォール”も見どころです。2階はオフィスで、モダンなデザインに整えました。3階はバーで、「TOKI(季)」や「HIBIKI(響)」など日本のウイスキーなどもありますよ。自分たちが自由に使えるスペースを持てたことで、より包括的にブランドの世界観やスタイルを発信できるようになりました。先日はDJイベントを開催しましたよ。
アムステルダムのフラッグシップショップ
それから、“常識に捉われない”取り組みとして、フレグランスブランド同士のコラボレーションも企画したんです。韓国の「ボーン トゥ スタンド アウト(BORNTOSTANDOUT)」のファウンダーJun Limとは年齢も近くて以前から知り合いなんですが、調香師やファッションブランドとのコラボはあれど、“フレグランスブランド同士”でのコラボって聞いたことがないし、クールだよねと意気投合。2種類の香りを作って、それぞれのお店で一つずつ販売することになりました。
⎯⎯コラボの2種類の外箱を並べるとハート型になるんですね。
お互いにデザインにはうるさいんです(笑)。コラボならではの見せ方を相談してこの形になりました。ボトルの容器はお互いが普段使っているものですが、ロゴを各ブランドカラーに変更しています。同等なバランスでコラボしたいと思い、こうしたギミックを取り入れました。
フガッジの次の目標は?
⎯⎯“新参者”として業界に飛び込み、6年が経ちました。現在のブランドの状況は?
良いものを作ったと自分を信じてはいましたが、こんなに多くの人に使ってもらえるなんて、ひとりで“ググりながら”香水作りをしてた時には考えられないことばかり起こっています。ブランドの販路はオランダはもちろん、イタリアやフランス、ラテンアメリカなどグローバルに広げていて、45ヶ国で展開してます。念願の旗艦店を持つこともできましたし、少しずつ、順調に成長させることができていると思います。
⎯⎯人気の香りは何ですか?
国や地域によって違いますね。個人的には、そうでないと面白くないなと思っているので、差異があった方が嬉しいです。本国のオランダでは登場以来ずっとパフューム ワンが人気で、中東ではウッディ・グルマン系の「グード(Goudh)」、ラテンアメリカではグルマン・スイートな香りの「シュガーダディ(Sugardaddy)」がトップ。そのほか、世界的に若い層を中心にグルマン系が流行っているので、バニラ ヘイズも好調です。
⎯⎯グローバルでの展開を広げ、旗艦店を出店し、次の目標は?
あまり経済的なゴールは定めていないのですが、ブランドアウェアネスを高めたいと考えています。また、地域で見るとアメリカでブランドを確立させたい。今、妹に手伝ってもらいながらニューヨークで物件を探しているところです。たくさんの店舗を持つよりも、地域のカルチャーやそこでどんな人たちが暮らして、集まってくるのかを加味した「良い場所」にオープンする方が重要。旗艦店のように、ユニークでクールな仕掛けのあるお店にしたいと思っています。
それから、プロダクトにおいてはエキストレ ド パルファムの新しい香りが登場します。SNSコンテンツももっと活発にしていきたいですし、旗艦店を生かした催しも積極的に行いたい。自分たちがクールだと思ったことをどんどん形にしていきたいです。
⎯⎯日本での販売予定はどうでしょうか。
今回はイベントに合わせての先行販売でしたが、今冬以降でノーズショップで販売することが決まっています。僕自身、日本に来るのは初めてでしたが、本当にずっと来たかった場所で、早くもカルチャーと人に魅了されているので、発売が楽しみです。
■フガッジ:公式サイト(本国サイト)
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