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生地工場だけでは生地製造は成り立たない、それでも止まらない染色工場の倒産

生地工場だけでは生地製造は成り立たない、それでも止まらない染色工場の倒産

繊維業界記者・ライター兼広報アドバイザー
南 充浩

甚だ付き合いの狭い当方だが、それでも交流のある数少ないOEM業者や個人デザイナーなどが、近年、いわゆるインフルエンサーブランドの外注生産や外注企画を請け負っているケースが増えた。

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むしろ、既存のアパレル企業からの受注は先細るばかりなので、各インフルエンサーブランド無しでは業務が成り立たないという先も珍しくない。

ただ、有象無象のインフルエンサーブランドも大きく分けて2つあると感じる。

1つは、自らの物作りの知識の無さを自覚して全面的に製造側の提言を受け入れるタイプ、もう1つは製造の知識が無いにもかかわらず、イージーに考え続けてそのうちにブランドという作業に飽きて止めるタイプ、である。

前者と組めば仕事は非常にやりやすいばかりでなく、だいたい金払いも良いから業者としてはありがたいお得意様である。後者はまあ、めんどくさい先なので業者側も短期間付き合って離れてしまう。業者からすれば一時金稼ぎとでも捉えれば十分だろう。

以前から何度も書いているように、衣料品という分野だけでも自分が携わっている業務以外のことはわかりにくい。どの工程も専門性が高く知識は深い。もちろん、衣料品に限らずどの分野でも同様である。法律、医療、政治、スポーツすべてそうである。

そんな中、たまにメディアが国内の繊維製造業を取り上げることがある。もちろん取り上げないよりは取り上げた方がずっと良いということは言うまでもない。

衣料品の国産比率が2%を割り込んだり、国内の繊維産地の企業数が減少し続けていたり、ということでメディアも危機感を持っているということは理解できる。

特に、ウェブ掲載を主体とした新しいタイプの業界メディアもそういう記事掲載がときどきある。

それはそれで喜ばしいことではあるが、多分、今の記事掲載パターンでは国内の繊維産地の現状や製造加工の工程はほぼ正しく伝わらないだろうと思って眺めている。

理由は、織り工場・編み工場への偏重報道が過ぎるからだ。当方が認識している範囲内では体感的に8割くらいが生地製造工場のことである。

なるほど、生地製造というものは奥が深いし、衣料品の多くを構成する物であるから、最重要パーツであることも理解できる。

しかしながら、生地というものは織り工場・編み工場だけがあれば製造できるというものではない。

染色工場、整理加工場が無ければ、多くの人が想像するような生地は完成しないのである。

例えば、今年6月に新潟の見附染工が倒産した。

見附染工 株式会社 – 信用交換所 (sinyo.co.jp)

合繊複合織物を主体にした染色整理工場で、国内ではトップクラスの技術力を持ち、大手繊維商社に営業基盤を形成し、ピーク時の1993/5期には年商32億186万円を計上していた。

しかし、市況低迷の影響などから以降は減収基調に陥り、利益面も多額の赤字が続いていた。こうしたところ、2002年9月には紺藤整染㈱が破たんしたことで信用不安が高まり、2003/5期には2億1700万円の赤字を計上して債務超過に転落。人員削減や賃金カットを実践して収益の改善に努めるも、2004年7月には水害で工場の機械が浸水、また同年10月には中越地震で工場が半壊するなど、災害により甚大な損害を被っていた。

その後、主要取引先などの協力もあり復旧していったが、債務超過は解消されず、金融機関などからの支援も得るも、厳しい経営を余儀なくされていた。近時は、エネルギー価格の高騰や、多額の金利負担で低収益から抜け出すことができず、遂に資金繰りは限界を迎え、今回の措置となった模様。

とのことだ。直近の売上高は8億円、従業員数は80人となっている。

従業員が80人もいるから、国内の染色整理加工場としては比較的規模は大きめだといえる。

これについて、たしかに破産報道自体は業界メディアに掲載されたが、それでおしまいである。しかし、生地関係者からするとかなりのビッグニュース(悪い意味で)で、某合繊メーカーのベテラン社員は「北陸産地の染色が困難になる」という危機感を当方に投げかけてきた。

この見附染工が無くなるだけで、北陸産地(主に合繊)全体の染色加工が難しくなってしまうというのである。生地工場だけが残っていたところで、真っ白の生地ばかり量産することになるし、織り上がったり編み上がったりした生地は必ず整理加工が施されなければ衣料品にすることはできない。

それゆえに大手合繊メーカーの社員は慌てるわけである。

現在のところ、目立って大きなトラブルは当方の耳には聞こえてこない。恐らく、同じ北陸産地内の残存する他の染工場への発注を増やして対応していたり、他の産地の染工場への発注で凌いでいるのではないかと推察される。だが、他の染工場もいつまでも残っているとは限らない。

メディアが報じているように工員・経営者の後継者難をどの工場も抱えている。後継経営者が見つからない場合は、残存する染工場も順次廃業することになる。整理加工場も同様である。

最終的に生地工場だけが残ったとて、衣料品として使える生地を製造することはできなくなる。

生地工場を「日本の匠」とか「匠の技」とか持ち上げることも結構だが、染工場や整理加工場、ひいては撚糸工場、リンキング工場など他の工程の工場についても、認知向上にメディアは務める必要があるだろう。今の生地工場ばかりをクローズアップした報道では繊維産地の現状も危機感も伝わらない。

染色や整理加工、撚糸、リンキングなどを文字として伝えることは難しいことは当方とてよく理解しているが、それら無しで生地製造は成り立たないということが広く認知されないと「滅びゆく生地工場の匠の美しさ」みたいな物語として消費されるだけになってしまうのではないか。

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