刃物師:ユーゲン・シュタイナウ 取っ手は真珠層、ベークライトと石を象眼している
芸術や文化に関係する人々は、情熱が高じて転機を迎える方が多いのではないだろうか。今年、第1回目の開催を迎えた、FiCX(現代ナイフ国際フォーラム)を立ち上げた、イヴ・トマ氏もそんな一人である。絵画や彫刻を扱う芸術商としてギャラリーを経営した時代もあり、アートの目利きであることは言うまでもない。自身の直感を信じて、今日まで歩んできた。(取材・文 Kaoru URATA)
ある日、「息子がプレゼントしてくれたナイフをきっかけに、どんどんと業界に引きずり込まれ、ナイフを収集するようになってしまった」と、子供のいたずら事件簿のように愉快に語る父親。でも、今日では、そんな息子さんのお陰で、二人三脚で立ち上げたナイフショーの日の目を見る事が可能となったのである。イヴ・トマ氏は「人生、息子から学ぶことも多いかもしれない」と照れくさそうに笑う。

会場となったのは、19世紀に建立された、パリ旧証券取引所のパレ・ブロンニアールである。ニューヨークのウォール・ストリートに匹敵した場所であるが、80年代半ばには、証券がコンピュータ上で取引されるようになり、会場の用途が一変する。そして、相伝建築に登録された後、見本市やイベントを開催する場所として、大手企業が運営をするに至っている。列柱のファサードは、今日でも威厳と優雅さを伴う建築にする。まさに、芸術的な鋭利な刃物を展示するに相応しいといえよう。

初回といえども、フランス国内のナイフ芸術職人30数名と17カ国から40数名 計70数名の出展者が集結。従来、職人扱いされてきた職業であるが、刃物にも制作方法が多様なように、取っ手部分は、貴重で高価、革新的な素材も用いられるようになり、質感、様式やデザインには、芸術性が感じられる作品も増えた。実用的というよりは、コレクションとして「美しさ」へのこだわりがある一点限りの芸術作品として制作される。刃物師のファンで、コレクターであれば、注文してから作品を手にするまで、数年間の辛抱は教訓である。そのように、一点ずつ丹念に仕上げられたナイフを受け取った時に覚える感動は、きっと、生命を手にした時のような忘れられない瞬間なのではないだろうか。

こうした意図を重んじるFiCXは、既存の同様のナイフ展に波紋を投げ掛けたようであるが、世界的に能力を認められる刃物師たちからの信用を得て、一般にも公開され、コレクターの関心もそそることになる。日本からは、女流刃物師の平山晴美と原幸治が出展したが、日本でもなかなか、こうした高度な技術と芸術性を持たれる方の作品を間近に見るチャンスは、ないかもしれない。

■FiCX
http://www.ficx-paris.com/versionanglais/home-english-ficx
■浦田 薫 - パリ在住ジャーナリスト -

建築とデザインに情熱を抱き、好奇心の旺盛さに寄り道が多い筆者は、多国籍文化の中で生活する、東京生まれのパリ育ち。デザインコンサルタント、企画プロデュース、翻訳・通訳も並行にしながら、異なる文化や言語の渦中で観察を続ける日々を過ごす。本サイトでは、環境に応じて人間が役割を与えて誕生する、空間、もの、出来事について読者と意見を交換していきたいと思う。
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