2023年秋冬シーズンはフィジカルショーを再開したブランドも多く、コロナ禍が落ち着き活力が溢れる時代の始まりを感じさせるムードが多く見られたが、「ユウショウコバヤシ(yushokobayashi)」はどうやらそうではないらしい。明るいムードに完全には乗り切れないアンビバレントな気分を「影」として描いた今回のコレクションには、今までのカラフルでドリーミーな世界観と打って変わって黒やグレートーンが多く用いられた。しかし今回のコレクションに見られる「影」のイメージは、暗く落ち込むものではなく、光を補完する存在として形を浮き彫りにし、リアリティを与えるものだった。
ユウショウコバヤシ 2023年秋冬コレクションのインスタレーションは、原宿のギャラリースペースで行われた。地下に降りた先にある会場は、客入れ時からDJの音楽が流れ来場者のざわめきで賑わう。明るいムードから一転照明が消え、空間が「影」の中で静けさに包まれると、ドアが開き強い光が会場に差し込んだ。逆光の中歩き出すモデルの姿は目に眩しく、寝起きのような感覚を見るものに呼び起こした。
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立ち止まり、椅子に座り机の上に伏し、椅子に手を置きまた立つ、という動きを順番に繰り返していくモデルたちは、眠たげに机に伏せた後何かを思い出したように起き上がりぼんやりと歩き出す。
今回のコレクション制作は、映画「人生はビギナーズ」の冒頭で、主人公の父親が主人公に話しかけるシーンを服や話し方だけを変えて何度も繰り返す映像から、人間の断片的な記憶が日々積層し曖昧に塗り変わり続けていく様子に儚さと美しさを感じたところからスタート。小林の記憶の中に存在する、ロンドンや東京の友人たちが着ていた服を思い出し、混ぜ合わせながら構想したという。ユウショウコバヤシらしいクラフト感は残しつつ、「着やすい服」を作ることにフォーカスしたという今回は、色彩だけでなくシルエットも以前より「洋服らしく」仕上がっている。「今までが映画だったとしたら今回は小説的なアプローチで、日常の中のリアリティのあるストーリーを作りたかった」と小林は語る。生地の表と裏を組み合わせることで「影」が表現されたダウンベストは、ひとつのアイテムの中にもレイヤードを感じさせ、記憶が曖昧に積み重なるという今回のコレクションを象徴するアイテムだ。
しゃらしゃらと音を立てて揺れるカラフルなモチーフが繋がれたチャームは、ベルリンを拠点に活動するアーティスト、アリシア・クワデ(Alicja Kwade)の、石を反転・リピートさせて変化していく作品から着想したもの。今回のコレクションを象徴するこのモチーフは、シューレースやネックレス、バッグ、ソックスなどコレクション全体を通して様々なアイテムに用いられ、観客の記憶に積層させていった。
同じ動きを繰り返していたモデルたちが立ち止まった時の姿勢をコマ送りで繋げたように動く最後のモデルは、このコレクションのすべてのルックの記憶を積み重ねた存在としてショーを締めくくる。DJの音が止まり、静まり返った会場でシューレースについたチャームがしゃらしゃらと音をたて、光の差し込むドアの向こうへモデルは消えていく。何度も繰り返されたモデルの動きは、1人の人間が毎日繰り返し積み上げた歴史の追想で、最後に登場したモデルは現在を生きる存在として静かに現実に向かっていくよう描かれた。現実世界を想起させた光は、影の存在によってより鮮明に現れ、社会に漂う同調圧力のような明るさとは一線を画す、生々しくも素直で、リアリティを帯びたものだった。
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