ユナイテッドアローズ新社長の松崎善則氏
Image by: FASHIONSNAP
今年4月にユナイテッドアローズ(以下、UA)の新社長に着任した松崎善則氏は、ユナイテッドアローズ渋谷店の販売員からキャリアをスタートした現場叩き上げの人物。2020年11月に副社長に昇格してからわずか4ヶ月でのトップ就任となったが、2021年3月期は赤字決算を見込むなど立て直しが急務となっている。苦境に立つ同社だが松崎氏は自信を覗かせる。新社長に聞く、新生ユナイテッドアローズのこれから。
■松崎善則(まつざき よしのり)
1974年2月22日生まれ。埼玉県出身。1998年4月にユナイテッドアローズに入社。ユナイテッドアローズ渋谷店からキャリアをスタートし、販売職や店長職、BY(ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ)本部長などを経て、2018年4月に上席執行役員に昇格し、同年6月に取締役 常務執行役員に着任。「ユナイテッドアローズ」やBYなどの複数の主力事業の統括責任者としてグループの成長に貢献した。2020年11月に取締役副社長執行役員に就任。2021年4月から現職。現在47歳。
ADVERTISING
―副社長から社長に昇格するまでわずか4ヶ月でした。トップ就任の率直な感想は?
まぁ時代が早いなと。昔でいうと2〜3年かかっていたことがこの4ヶ月間に凝縮された。コロナのパンデミックで激変した社会のスピード感を象徴しているようにも感じています。とはいえ体制変更については「近い将来」という表現で話が進んでいたので、ある程度覚悟はしていました。
―創業者の重松理名誉会長、大株主の前澤友作氏から声がけはありましたか?
前澤さんとは日々コミュニケーションを図っているわけではないので、今回についても特にご意見はありませんでしたが、重松はファウンダーですから当然気にかけてくださって、当社の社長業としての心構えを教えていただきました。
―「心構え」の内容は?
具体的な内容は自分の中に留めさせていただきます。これは秘伝ということで(笑)。
―それでは、前期は赤字決算の見通しとなるなど問題は山積みだと思いますが、グループ喫緊の課題は?
やはり業績ですね。株主様を含め、社内でも色々なところに不自由をかけているので回復をしなければいけません。それを解決するために重要なのが商品面の強化です。働き方やライフスタイル、ビジネスニーズが変わり、既存の商品のままでは対応しきれないですから、変革が必要です。
―今期はエントリープライスを投入します。
我々はセレクト世代と言われている団塊世代で、20代の頃からセレクトショップに馴染みがありますが、今の20代は異なる価値観を持っています。そのため、中長期的なお客様作りのためにはエントリープライスの投入も必要と判断しました。
―新規事業の立ち上げも計画しています。
「ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング」より少し下の価格帯でカジュアルウェアを展開していきます。予定通り、秋頃にスタートできると思います。
―経営方針として低価格路線にシフトしていくのでしょうか。
ブランドのポートフォリオの整理は必要と思っていますが、高価格帯を止めて低価格路線に注力するつもりは全くありません。たしかに価格が下がれば下がるほど市場のパイは大きくなっていきますが、売上高で見るとグリーンレーベルよりも「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS)」の方が大きい。そして我々としては上客数や単価のボリュームを大きくしていきたい。ユナイテッドアローズ事業ではコロナでビジネスゾーンの売上が減りましたが、我々が大事にしてきた顧客は維持できているので、そこは強みになると思っています。
―商品カテゴリーの拡充も重要な施策と位置付けています。
先日はキャンプレーベルをローンチしました。今後もスポーツやウェスネスといった、いわゆる非ファッションの部分で商品群の拡充を図り、お客様の生活全般をカバーしていくような施策をとっていきたいですね。
―自社で商品を開発する計画ですか?
元々セレクトショップ自体が仕入れ商品で足りないところをオリジナルで補う、というやり方で成長してきているので、まずはオリジナルでトライアルしていくのが柱にはなるとは思います。
―オリジナルの比重がさらに増えていく印象を受けました。
いまの時代は仕入れ品で差別化することが難しくなっています。これはファッションに限らず、家電量販店やスポーツ用品店にも言えることですが、セレクトという手法が特別なものではなくなったんですね。特にインポートは「どのセレクトショップに置いても売れる」ものが多いので、本当の差別化はオリジナル商品で図るしかない。我々としてはオリジナル品の比重が高くても、魅力が出るような売り場作りを追求していきたいです。
―今後のUAを「セレクトショップ」以外の言葉で表すなら?
それはちょっと難しいですね。なんかこう、カテゴライズされないようになりたいんです。例えば、エルメスとは何かと聞かれても「エルメスはエルメス」じゃないですか。そういう意味では、セレクトショップではなく、ブランドとしてのUAをもっと際立たせたいなと。UAと言われたときにイメージされるものがブレないような存在を目指したいですね。
―そのフェーズにはすでに入っている?
いえ、まだそこのフェーズに入ってはいない思います。来期の中頃にまでに足元の業績を回復させてからの話かなと。
―新体制ではDX推進センターを新設し、元コメ兵の藤原義昭氏がジョインされました。
自社EC開発は一度頓挫してしまいましたが、今また進め直している段階です。その中で、自社ECができた後のデータ分析やマーケティングの機能を拡充させていきたいという考えが出てきました。そのツールの活用に長けた人材の必要性があったので、リサーチする中で藤原さんが候補として上がりました。
―自社ECが新しいインフラに移行するのはいつごろになりますか?
明確な時期は伝えられませんが、今期中には移行できる計画です。
―コロナで大きく変化した今のファッションに対して思うことはありますか?
やっぱりファッションは面白いなということですね。在宅勤務が定着し部屋着需要が増えましたが、僕は部屋着では仕事する気にはならなくて、会社に行くような格好に着替えています。それは気分を切り替えるためというよりも、やっぱりファッションが好きだからなんですよね。ファッションは直接的に気分を変えてくれるツールであるというのはニューノーマル時代も、そしてこの先ずっと変わらないと感じています。
―部屋着需要もあり、コロナ禍で「ユニクロ1強」が加速しています。
いわゆるボリュームゾーンのファッションを楽しめている方はそれでいいと思います。ただ、制服的な扱いになっていたり「皆が着ていて安心するから着ている」ということだと、それはファッションではなくなってしまっているのではないでしょうか。ユニクロのような「機能としての服」も必要だとは思います。でも我々が考えるファッションはもっと情緒的なもの。気分や感情が変わるファッションを提供したいと思っていますから、そういう点ではあまり比較はしていません。というか、ライバル視するのもおこがましいですし、全然桁違いなので。
―これからファッションはどの方向に向かっていくと思いますか?
これまでファッションのブームは「渋カジ」や「ギャル文化」とグルーピングされ、今は「ユニクロファッション」が大きいカテゴリーとして存在していますが、僕の考えでは同じファッションがずっと続くことは基本ないと考えています。同じテイストの服をずっと着てたら飽きちゃうと思うので。
長年の歴史を持つラグジュアリーブランドもストリートと融合したファッションを提案していますが、僕の感覚からするとカオスなんですよ。色々変わっていくのがファッションですし、そこを提案するのが我々としても楽しみですね。
―前社長の竹田光広氏は商社出身ならではの手腕を発揮していました。松崎社長は何を強みに経営していきますか?
自分自身の強みを自分では言いたくないですけど(笑)。入社してから販売部門などの現場を経験してきたなかで一貫して思うのは、お客様と最も近い距離で接しているメンバーの話が大事ということ。それはリアル店舗だけではなくECのスタッフも同様です。まとめると「社員」を大事にしていきたいと思いますね。
当社には4000人の社員がいるので、4000通りの考え方があるわけですが、それを一つにまとめていくというのがUAの名前の由来でもあります。色々な特技や強みを持っている優秀なスタッフが多いので、皆のアイデアをどう具現化できるかが当社の課題。人の力を信じ形にしていくことができたら、もっと発展していくと思いますし、そういった使命感は僕自身も持っています。
―改めて、新社長就任への意気込みを教えてください。
業績は回復させます、としか言いようがないです(笑)。
―プレッシャーは感じていますか?
プレッシャーはありますが、今は売上拡大ではなく内部を強める時期。トップラインの成長にあんまり期待をされると正直厳しいところがあるのですが、UAにさらに期待していただけるように様々な取り組みを加速していきたいと思います。
(聞き手:伊藤真帆)
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【インタビュー・対談】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境