上田安子服飾専門学校
大阪市北区に位置する上田安子服飾専門学校の「トップクリエイター学科トップクリエイターコース」は、実践的なカリキュラムを用意する国内でも有数の服飾専門学校だ。「コム デ ギャルソン(COMME des GARCONS)」でパタンナーを務めていた本川晴美氏が教鞭を取るプラクティカルな授業のほか、同学科に在籍する3年生によるブランド「ユー・シー・エフ(UCF)」の運営など、その授業スタイルは多岐にわたる。なぜそこまで現場にこだわったカリキュラムを用意するのか。上田安子服飾専門学校学科統括部長の大槻剛氏に話を聞いた。
実際にブランド運営を行うトップクリエイター学科トップクリエイターコースは2013年に新設。立ち上げの理由として大槻氏は大きく2点をあげる。一つは、「学生の作品」としかみられず、正当な評価が受けることができない現状からの脱却。もう一つは、自身が2004年から手掛けるブランド「アフォリズム(aphorism)」での経験から、日本特有のコレクション発表の場よりもファッションキャピタルであるパリで早く経験を積むことがアドバンテージになると考えたためだ。
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「自分自身も2004年から2013年の間、年2回長期休みをもらい、パリの展示会に参加してきた。国内での展示会の空気とは全く異なるし、海外で展示会を行うことで却って日本のバイヤーから注文をいただけたりする。外に出ることで日本国内の実情がよくみえるということはあるのではないか」(大槻剛)。
設立当初から世界を舞台にした授業を展開することを打ち出していた同学科は、2年次で「LVMHプライズ グラデュエイト賞」のエントリーを目指す。3年生への進級までに6体を仕上げ、その後UCFのブランド運営に携わる。
UCFは、3年生が毎年ブランドを引き継ぐ形で運営しており、現在は同コースに在籍する32人の3年生全員がデザイナーとしてブランドに携わっている。生徒によるマイブランドではなく、団体で1つのブランドを運営しコレクション製作を行う方式を取った背景について大槻氏は、卒業後のメゾン就職を想定してのことだと話す。
「ある大きなメゾンに仮に入社した場合、コレクションチームに配属されたとしてもいきなり『あなたがコンセプトや企画を立ててね』と言われることはない。クリエイティブディレクターがシーズンの大きなテーマや方向性を決めて、デザインチームが動き出していくというのが一般的。学生には『みんなは1人のデザイナーであり、パタンナーだけど、大きな方向性という枠の中で自分らしさを表現できるのも技術の一つだ』ということを伝えているつもり」(大槻剛)。
以上のことから、シーズンごとの大きなテーマやコンセプトは大槻氏をはじめとする教員陣で決定。展示会に向けて32人全員に持ち場が任される形で学生はデザインに励む。
展示会での受注からデリバリーまでを目標にしているUCFは、デザイン面でも販路を意識。ターゲットとなる年齢層を加味した上でのデザインやパターン、グレーディングを意識させているという。また、洋裁が強いイメージのある同校だが、同学科では工場へのサンプル出しを依頼するカリキュラムを導入している点も特色の一つだろう。縫製仕様書、工業用パターンメイキング、トワルまでを自分たちで製作し、それをもって工場にサンプルの仕上げを要請する。更に大槻氏は「徹底的な原価管理」も特徴としてあげ、原価計算に特化した教員を擁し、生地の用尺や、ファスナーやボタンなどの装飾品を含めた上代設定を行わせた上で、関税にまつわる知識や梱包費や検査費などの費用負担の所在地などを明らかにするFOBについてなども学生に伝えているそうだ。
実践的なカリキュラムも相まり、UCFは同学科の1期生が3年生に進級した2015年からパリに出展。デビュー直後ながらも2016年春夏コレクションで販路を持ったことが認められ、翌年の2016年からはパリファッションウィーク中に開催される合同展示会「トラノイ(TRANOI)」に出展し、以降継続的に参加をしている。同学科の要でもある「学生に対する正当な評価」を求める観点から、トラノイでは学生たちは年齢や素性を積極的には明かさず、教育機関としてではなくあくまで1ブランドとして参加。新たに株式会社上田安子服飾研究所を立ち上げ、運営会社が服飾専門学校に見えない工夫がなされているという。
トップクリエイター学科の海外へのこだわりは、コロナ禍ながらもパリ研修に赴いたほどだ。2020年からの1年7ヶ月はフランスの入国制限などから渡航を断念したが、パリファッションウィーク中である2021年9月末から10月初旬までの11日間で研修を敢行。「トラノイリンク(TRANILINK)」と新たに「パリプルミエールクラス」にも出展した。大槻氏は「海外に行くだけではなく、そこでの経験にも力を入れている」とし、現地のクチュールの工房や刺繍学校にも訪問することで、留学希望者や卒業後の進路の橋渡しも担っていると話した。
同校では転科制度などを設けていないことから、トップクリエイター学科の入学希望者には独特なカリキュラムであることをじっくりと説明すると共に、高校までの成績などで評価するのではなく、熱意があれば基本的には志望者全員を受け入れることにしているそうだ。在校生約1000人と、日本で2番目に学生数が多い同校の今後の卒業生にも期待が高まる。
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