TOGA 2025年秋冬コレクション
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(Royal Academy of Arts) の一角で2025年秋冬コレクションショーを開催した「トーガ(TOGA)」。真っ白な会場に入ると、小さなTOGAがのショッピングバッグに入ったシルバーに輝く名刺入れのような、コインケースのようなアイテムが置かれていた。”ような”と書いたのは、それらの機能性に相反するようなボリュームと華やかさを放っていたから。しかし、その違和感はコレクションテーマを見てすぐさますっと解かれた。
「Formal, Informal, Anti-formal」と題した今回のコレクション。フォーマルに対して繰り返し言葉を唱えるタイトルの通り、本コレクションは「装いにおけるフォーマルの追求は、もはや時代遅れなのではないか」とデザイナー古田泰子による自問自答から始まった。それは決してカジュアルストリートウェアの爆発的な人気からラグジュアリーへと時代が変化しつつある近年のトレンドから表層的に影響を受けたものではなく、常にフォーマルウェアに独自の解釈で向き合ってきたトーガが内省した結果のように感じた。
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彼女の自問自答を解きほぐしたのは、アメリカ人フォトグラファーのウィリアム・エグルストン(William Eggleston)による写真、ではなく本人の着こなし。たしかに彼のポートレイトを見ると、白シャツに黒のスーツパンツ、そして淀みのないブラックシューズまで典型的かつ完璧なフォーマルウェアを着こなしているにも関わらず、蝶ネクタイだけが首にだらしなく巻かれている。挑発的に見える一方で、他者と均一化されてしまうフォーマルウェアの中で唯一自らの個性を主張するための方法を展開しているようにも見える。
そんな彼の面影を感じさせるようなウィットに富んだルックがオープニングを飾った。ファーストルックには、大胆に襟を開けた白シャツに、ブラックの蝶ネクタイをぶら下げ、さらにオーバサイズの襟がラペルに覆い被さる。その首元は次第にボリュームを増し、首を覆い隠してしまう程に誇張されたシャツの襟、目を引くフリル、何層にも生地がレイヤードされたセーラーカラーが前後逆に羽織ったようなルックで登場。段々と表にはみ出していく襟のデザインとコントラストに、パンツやジャケット、ドレスのウエストでは内側からベルトを通し、寄せたしわで新たなシルエットを作り上げるシンプルなデザインを提案した。











ほかにもウィリアム・エグルストンがメンズフォーマルウェアのアイコンであるネクタイをユニークに活用したように、古田もまたウィメンズウェアの象徴であるスカートに着目。2017年秋冬に発表した無作為にカットアウトを入れたスカートやドレスでは、見え隠れする肌の露出から「色気」や「女性らしさ」に対する既成概念を揺り動かした。今回発表されたミニスカートは、当時のコレクションアイデアを再考したものだという。バッグひとつ置けるほどに膨らんだ浮き輪状のデザインは、丈の短さに相反して強風が吹こうとも翻る隙を与えない力強さを放つ。


足元には、新たにアシックスとのコラボレーションスニーカーが登場。今までトーガといえば、ヒールやローファー、ブーツなどフォーマルシューズで足元を引き締めていた中、あえてフォーマルウェアにスニーカーをスタイリングすることでより新境地を強調していたように見えた。ジュエリーでは、開きっぱなしのシガレットライターのようなネックレスがラフに首元にかかり、小物やディテールからもフォーマルに対して遊び心のある揺さぶりをかけてくる。まるで私たちに「これはフォーマルと言える?」と無邪気に問いかけてくるように。




フォーマルへの疑問から始まったとはいえ、そこで単純に真反対のカジュアルウェアを打ち出すのではなく、フォーマルウェアの境界線を見つめ直し引き直してみる。その試みはエゴではなく、たとえばこのスタイリングで高級レストランやパーティーに行ったら追い出されるだろうか?いや追い出した方がナンセンスだろうという着用した時の想像さえも私たちに一瞬でかりたたせるパワーがあった。テーラリングの長い歴史を持つロンドンで発表する意義を強く示したと同時に、ファッションが社会に与えられる影響を改めて気づかせてくれるような果敢な態度でもあり、より一層トーガへの信頼感が強まったコレクションとなった。
最終更新日:
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、FASHIONSNAP、GINZA、HOMMEgirls、i-D JAPAN、SPUR、STUDIO VOICE、SSENSE、TOKION、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。2022年にはDISEL ART GALLERYの展示キュレーションを担当。同年「Gucci Bamboo 1947」にて日本人アーティストniko itoをコーディネーションする。
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