ファッションライターsushiが独自の視点で、定番アイテムの裏に隠れた“B面的名品”を紹介するコラム連載「sushiのB面コラム」。第6回は、「プラダスポーツ」の名でも親しまれた「プラダ(PRADA)」のリネアロッサラインをフィーチャー。「一周回ってカッコよく見えてきたもの」の中で、特に最近面白いと思ったというボディバッグについて語る。
「流行は循環している」とよく言うが、最近それを体感することが増えた。僕自身がファッションにのめり込んだ時期のことはよく覚えているが、当時の最も古い記憶はスキニーパンツに代表とされるとにかく細身のスタイルがモードを席巻していたことだ。モードがマスに降りてくると、細身のパンツがスタンダードであったかのようにみんなが穿き出した。ところが流行がオーバーサイズに切り替わると、2010年代後半以降は細身のパンツを履く人はほとんどいなくなった。そしてこのオーバーサイズというトレンドもそろそろ擦られ尽くしたのか、最近はストリートスナップなどで感度の高い人間がちらほらと細身のパンツを取り入れ始めているのを観測している。一度流行として擦り切れてしまった細身のスタイルが、一周回ってまた新しく見えるフェーズになったのだという事に気づくと、僕がファッションの流れの中に身を置いてからそれなりの年月が経ったことを実感させられる。流行はそっくりそのままではないにしても、確かに循環している。
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そんな「一周回ってカッコよく見えてきたもの」の中でも特に最近面白いと思ったのがボディバッグだ。ボディバッグといえば、僕が中学生くらいの頃に周りがこぞって使い出した思い出深いアイテムだが、その流行も永遠ではなく、放っぽっておいたものをいつの間にか父親がおさがりで使っていて少しげんなりとする、という経験もした。そんなボディバッグも、消毒液やマスクなどの細かい荷物が増え小ぶりなバッグの需要が高まったことを背景に、最近では再び市民権を取り戻している。ブランド各社もミニバッグの展開を強める流れにあり、僕の周りでも「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」のカセットシリーズのバッグを購入した友人が3人いる。
ボディバッグの中でも、今見るとかなり洒落ているのでは?と思うのが「プラダ(PRADA)」のリネアロッサラインのものだ。プラダといえばナイロンのイメージが強いが、もとはといえば高級革製品のブランドとして1913年にその歴史をスタート。「プラダスポーツ」という別称でも認知のあるリネアロッサラインは、1997年に立ち上げられたプラダのスポーツ・レジャーラインと位置付けられている。同ラインの立ち上げには単純なセカンドラインの展開という狙いのほかに、世界最高峰のヨットレースである「アメリカズカップ」に参加するという目論見もあり、ブランドイメージの向上を狙うスポーツレースへの参戦に伴い、戦略の一環として打ち出されたのがリネアロッサだったという訳だ。
リネアロッサは主にポコノ素材、いわゆるナイロン生地を文字通り前面に押し出したアイテムを開発し、生産でも中国の工場を採用したりと比較的安価に手に入れることができた。顧客も本家と比べてかなり若かったようで、リネアロッサはブランドのより広い認知の獲得に一役買う事となった。一方で、もともとは高級レザーを取り扱うブランドとして評価を築いてきたプラダとしては、顧客の若年化やカジュアル化がブランドの本来目指す方向とは異なるという声もあったようで、程なくしてリネアロッサは休止となった。
当時のリネアロッサのデザインはとにかくミニマルでスポーティなのが特徴的だが、一つの大きな要素として、絶妙な時代感を感じさせる雰囲気があるのが面白い。具体的にどのディテールがとか、どの色味が、というような言語化が難しいのだが、パッと見て「お、少し古いプラダのアイテムだな」と感じさせる独特な空気感があるのがなんとも言えない当時のリネアロッサの良さだと思う。複数のデザインで展開されていたボディバッグも例にもれず、良い意味で違和感を覚える雰囲気があるのだ。
僕はぱっとモノを見たときに違和感のあるデザインは尊いと思う。違和感があるという事は、自分の中にこれまで抱いたことのない新しい感覚が芽生えていることだ。要するに、違和感を与えるデザインというのは、裏を返せば現代では普通ではない=新しいデザインである可能性がある。当時のリネアロッサのデザインが持つその空気感も、単純にとらえてしまえばそれらはただ単に古臭いのかもしれないが、現代の新作バッグたちを見渡してみると、案外リネアロッサのようなスポーティ・レジャーに振り切ったものは見当たらない。過去に作られ発表されたリネアロッサのデザインが一周回って新しく見えてきた、それが現代から見たリネアロッサラインの魅力だと思う。そしてそんな空気感をまとったデザインがボディバッグという、これまた一周回ってきたアイテムに落とし込まれたとくれば、そこに生まれる至高の違和感は最早まぎれもない「カッコよさ」であることに疑いはない。ナイロン素材のボディバッグは本家ラインでももちろん展開はあるが、そちらの方はどちらかといえば洗練されたプラダの世界観を素直に反映した美しいものが多い。リネアロッサはプラダの代名詞でもあるナイロン素材を用いた上で、いい意味で“いなたい(野暮ったい)”と表現できるような、絶妙なデザインに落とし込んでいるのがB面的名品であると言える理由だ。
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一度過去の存在となったリネアロッサだが、昨今のストリートスタイルにスポーティなアイテムを取り入れるトレンドなども相まって、近年はアーカイヴアイテムなどとしても注目を集めている。さらに2018年からはラインの復活を遂げ、デザインをより現代的にアップデートしたコレクションを展開している。今回の記事でリネアロッサを取り上げるにあたり、過去の作品や復活後の最新コレクションを見ているうちにどんどんと欲しくなってきてしまい、過去の作品からボディバッグを一つ買ってみた。が、物は良いものの、この独特の雰囲気を放つデザインをどう料理するかにかなり悪戦苦闘している。であれば現代的にアップデートされている最新のリネアロッサならまだいけるのでは...?と思い、通販を覗いてみると、最もスタンダードなナイロンジャケットで28万6000円~だった。ブランド休止前は「本家ラインに比べ価格も抑えめで手頃が故に本家のブランドイメージと異なる」という問題点があったらしいと書いたが、その点は解決されているようである。
>>次回は6月30日(木)に公開予定
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。
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